116 事情聴取
ハンバーグでひとしきりはしゃいだあと、警察の人がウチにやって来た。
姉が事情を説明し、基本的に姉が受け答えを行った。
なんか、そうしているとすごくまともな大人に見えるぞ、姉。
「えっと、君が被害に遭った子かな?」
「あ、……はい」
「怖かったね。でも無事でよかった。少し、話を聞かせてくれるかな?」
優しそうな四十代のおじさん刑事が高名瀬さんに微笑みかける。
刑事さんってもっと高圧的で、「貴様が被害に遭ったんだろ!? 吐け!」とか言うのかと思った。
「どんなイメージを持っているんですか」
「被害者を尋問したことはないなぁ」
高名瀬さんが呆れ、刑事さんが「ははは」と苦笑を漏らす。
おっと、声に出ていたようだ。
「君が彼女を助けた子だね。あとで話を聞かせてもらうけれど、あんまり危険なことはしないように。最悪の場合、二人まとめてということもあり得る」
「一応、心に留めておきます」
そうは言われても、もしまた同じような自体に遭遇したら、僕はきっと高名瀬さんを助けに行くだろう。
そんな僕の意思を感じ取ったのか、刑事さんは肩をすくめて、少しだけ呆れたような表情をした。
そして、緩む口元を一度撫でて、僕の肩に手をのせた。
「とはいえ、よく彼女を守りきったな。大したもんだ」
おぉっ。
国家権力に認めてもらえるなんて、ちょっとすごいことを成し遂げたような気分になる。
純粋に嬉しいな。
「ちょっと待ってろ」
と、もう一度僕の肩を叩いて、刑事さんは高名瀬さんの事情聴取を始めた。
刑事さんたちが来てから、リビングなのになんとなく立っていた僕たちだったが、刑事さんが高名瀬さんをソファに座らせる。
それを合図に、僕たちもそれぞれ思い思いの場所に腰を下ろした。
姉だけは立ってるけど。
二人掛けソファの肘掛けに寄り添うように座った高名瀬さんが、先ほど僕たちに話してくれたのと同じ話を、刑事さんに語って聞かせる。
やっぱ、思い出すと怖いんだろうな。顔色が悪い。
せめて、そばにいてあげよう。
僕が高名瀬さんの隣に移動すると、高名瀬さんはちょっと驚いたような顔でこちらに視線を向け、ほどけるように口元を緩ませた。
やっぱ、緊張しちゃうよね。
「やるな、坊主」
刑事さんが僕を見てニッと口角を持ち上げる。
僕の乱入は特に問題ないようで刑事さんはそれ以上何も言ってこなかった。
「それじゃあ、救出した時の話を――」
と、刑事さんがこちらを向いたタイミングで姉が割り込んできた。
「体電症に関わる話になりますので、ここ以外での口外は固く禁じさせていただきます」
なんか、紋章のついたカードを警察手帳のようにして提示する。
刑事に刑事みたいなことしてるな、この姉。
「研究所の方でしたか。では、この坊主が?」
「えぇ。その力で、彼女を救出したんです」
「そうか……まいったなぁ」
ぼりぼりと、頭を掻く刑事さん。
「調書には書かせてもらいますよ」
「では、研究所の封印をさせてもらいます」
封印とは、調書などの書類に体電症のことが書かれる際に、その記述の上にシールを貼ることを指す。
そのシールは研究員の目の前でしか剥がせず、無断で剥がすと罪に問われるという、割と重めの措置だ、
ちなみに、あのシール。
一度剥がすと、二度と貼り直せなくなる上、貼ってあったところに特殊なインクが付着するため、あとで調査した際に無断で覗き見たことが確実にバレる。
それくらい、重要な案件であると、姉は訴えているのだ。
まぁ、僕は結構、人前でバッテリー使ってるけどね。
「そっちの二人は?」
「MiSSNaの御曹司と、彼女の誘拐計画をいち早く察知して教えてくれた、彼女の親友です」
姉が二人を紹介する。
刑事さんは「ほぉ、MiSSNaの」とオタケ君を好意的な目で見ていた。
まぁ、警察にとってはありがたい企業だろうからね、MiSSNaは。
「どうもお時間を取らせまして」
一時間くらい滞在して、結構細かいところまで質問してきた刑事さんが腰を上げる。
「また、何かあればお話を聞かせてもらうことがあるかもしれません。その時はご協力よろしくお願いしますね」
と、姉に言って、高名瀬さんに笑みを向けた。
刑事さんたちが帰ると、リビングの空気が緩むのが分かった。
やっぱ、みんな緊張してたんだね。
「ほっ……」って、みんなで息を吐いた。
「シュウ」
姉が僕を呼ぶ。
手招きして、小声で。
秘密の話か。
「部室のこと、どうする? 出来れば話して彼らにも使ってもらいたんだけど」
部室。
今のところ、僕と高名瀬さんの専用ルーム。
「高名瀬さん」
一人では決めきれず、高名瀬さんの意見を扇ぐ。
「わたしは、あとから割り込んだ身ですので、鎧戸君にお任せします。でも、意見を言わせてもらえるなら、オタケ君が協力してくれると、バッテリー切れした際に役立ってくれると思いますよ」
「僕のお尻係として?」
「違いますっ、運んだりするのに力が必要だからです」
あぁ、そうか。
部室に運ぶのも大変だもんね。
保健室も、他の人がいたら充電できない時もあるし。
「それじゃ、話しちゃおうか。戸塚さんもいてくれた方が、高名瀬さんとしても気が楽になるかな?」
「そう、ですね……。何か協力してほしい時には、きっと力になってくれると思います」
「分かった。それじゃ、二人にも入部してもらおう。……名前すらない部活だけど」
僕が言うと、「タカイド部では?」と高名瀬さんが首を傾げた。
いや、だから、高井戸とは何も関係ないじゃない。
「それじゃ話しちゃうけど、いいのね?」
と、姉。
「二人っきりになれる秘密の小部屋がなくなっちゃうけど」
と、ほくそ笑む姉。
……面白がってるな、姉。
「べ、別に構いませんっ」
と、照れて吠える高名瀬さん。
そして、ちらりとこちらを見て――
「……いや、ですか?」
なんて聞いてくる高名瀬さん、あなたは小悪魔ですか?
「二人きりになりたい時は、またどこか違う場所に誘うよ」
そう答えると、高名瀬さんは薄っすらと頬を朱に染めて、視線を逸らして呟いた。
「やっぱり、鎧戸君は……ちょっとチャラいです」
そんなことないと思うけどなぁ。




