115 ハンバーグ定食
は、ハンバーグが……
「ハンバーグが輝いている!」
「大袈裟です」
高名瀬さんに二の腕をぺしっと叩かれる。
振り返るとぷいっと顔を背けられた。
おぉ、照れておりますなぁ~。
それも盛大に。
「ありがとね、ソースもチーズも付けてくれて」
「……どうせなら、美味しく食べていただきたいので」
か~わ~い~い~!
「萌ぉ~~~……」
「それ以上言うと没収しますよっ」
赤い顔で睨まれる。
慌てて「え」を飲み込む。
危ない、危ない。
こんな美味しそうなハンバーグを没収されたら、今後二度とハンバーグが食べられなくなる。
だって、ハンバーグを見る度に「あの時のハンバーグ、きっと美味しかったんだろうなぁ……しょんぼり」って思い出しヘコみするだろうから。
僕の持つお皿には、やや小さめのハンバーグが二つ。
チーズの載ったハンバーグと、普通のハンバーグ。
一度で二度美味しい♪
「ハンバーグにはパンですか? ライスですか?」
「ご飯!」
「お味噌汁!」
お前には聞いてないぞ、姉。
パンかご飯かという問いだ。
第三の選択肢を持ち出すな。
「お味噌汁も用意してありますよ」
「さっすが、ポーちゃん! お嫁に来て!」
「えっ、それは、あの……っ、はいどーぞ、お味噌汁です!」
わたわたしながら、高名瀬さんがお椀に味噌汁を注いで姉に渡す。
順番を抜かすな、姉。
そして、食器棚からお皿を取り出す高名瀬さん。
「あ、待って! ご飯、お茶碗でもいい?」
「え? 構いませんが。では、フォークよりお箸の方がいいですね」
「うん。きっとご飯が進むと思うから」
お皿のライスをフォークで食べるより、茶碗のご飯をお箸でかき込む方がご飯は進む。
このハンバーグ、絶対ご飯が美味しくなると思うんだよね。
「なんだか、すごく鎧戸君っぽいですね」
「そう?」
「はい。なんとなく、イメージですけど」
どんなイメージなんだろうか?
でも、高名瀬さんが笑っているから、きっといいイメージなんだろうな。
「……なにこの新婚家庭」
「馴染んでいるな、高名瀬」
「ほゎおう!?」
キッチンのすみっこに立つ戸塚さんとオタケ君の声に、高名瀬さんがしゃもじを取り落としそうになる。
まぁ、落下物を取り落とす高名瀬さんじゃないけれど。
落ちた唐揚げをお箸で空中キャッチ出来る反射神経だからね。
「そ、そういうんじゃないですから!」
むぅっと、戸塚さんを睨むが、顔がどんどん赤く染まって、「もぅ、ご飯は自分でよそってください」とジャーの前を離れる高名瀬さん。
僕のと自分のご飯を持ってテーブルへと移動してしまう。
よし、僕も追従しよう。
「鎧戸のだけよそっていったな」
「ラブラブか」
「そーゆーんじゃないですってば! もぅ、りっちゃんはサラダ没収です」
「いや、ごめんって。っていうか、没収したサラダ、誰が食べるのよ?」
確かに、このサラダを二人分食べるとそこそこお腹に溜まりそうだ。
そこは素直に返却してあげてください。
「れ、レンゴクっ、あたしがよそってあげるね!」
「ん? そうか。悪いな」
「う、ううん、いいよ」
向こうは向こうで、すごいアピールしてる。
どの口が言ったんだろうね、ラブラブだなんて。
「……ラブラブですね」
「ちょっ! 変なこと言わないで!」
「そうだぞ、高名瀬。戸塚のはただの親切心だ」
「…………ってわけでもないんだけどなぁ」
オタケ君、こっち見てないで後ろ見て、後ろ。
物凄い恨めしそうな目で見られてるよ。
オタケ、うしろー!
「すまんが、俺はナイフとフォークを借りていいか? そっちの方が慣れてるんだ」
さすがいいとこのお坊ちゃま。
ナイフとフォークの方が慣れてるって。
戸塚さんはそれを知っていたのか、お皿にライスを盛っている。
やるね。
「ポーちゃん、お味噌汁おかわり」
食ってんじゃねぇよ、姉。
せめて、全員が席に着くまで待てないのか、貴様は?
「シュウ。ポーちゃんのお味噌汁、めっちゃ美味しいよ」
「え、そうなの? 僕ももらっていい?」
「はい。あの……でも、あんまり期待しないでくださいね。ウチのお味噌汁の味ですので」
味噌汁って、各ご家庭で味が微妙に異なるからねぇ。
高名瀬家のお味噌汁か。
それは楽しみだ。
「では、あの……どうぞ」
そうして目の前に並ぶ、ハンバーグ、ご飯、サラダ、お味噌汁。
「ハンバーグ定食だ!?」
町の洋食屋さんで出てくるやつだ、これ!?
「……大袈裟です」
と言いながら、満足そうに口元を緩める高名瀬さん。
お味噌汁を置いてから、なぜかずっと僕の隣に立っている。
みんなが座ってからいただこうと思っていたんだけど、これは先に口を付けるべき、かな?
では、僭越ながら……
「ずず……っ。ん!? 美味っ! 美味しいよ、高名瀬さん」
味噌汁を一口飲んで驚いた。
自家製味噌とかを使ってるわけでもないだろうに、今まで飲んだどの味噌汁とも異なる味がした。
美味しい。
なんだろう、この気持ち。
胸の奥がふわふわするというか、じぃ~んっと温かくなるというか。
「高名瀬さんのお家の味、すごく好きかも」
「そ、そうですか……それは、その……よかったです、お気に召して」
「毎朝飲みたいくらいだよ」
「そっ……れは、あの…………持ち帰り、検討を」
「コンビニとコラボしない? 『高名瀬家の味噌汁』って」
「需要がないですよ、そんなの」
「僕は毎朝買う」
「あたしのも買っといて」
「そんな、大層なものじゃありません」
ぷいっと背を向ける高名瀬さん。
だが、そっちには戸塚さんがいて……あ、すっごいニヤッて笑ったね、戸塚さん。
で、高名瀬さんが「きゅっ」って短く鳴いた。
「へぇ~、ポーってそんな顔するんだぁ」
「は、早く食べちゃってください! ……片付きませんから」
戸塚さんに背を向け、自分の席に座って「いただきます」と早口で言って食べ始める高名瀬さん。
俯いてるなぁ。
誰にも顔を見せないつもりだろうか。
耳、真っ赤ですけども。
そんな高名瀬さんを眺めながら、僕もハンバーグをいただく。
「んん~! 美味しい! 過去一、いや、史上最高のハンバーグだよ、これ!」
ご飯が進む!
止まらない!
ハンバーグ一口で茶碗半分の白米がなくなった。
二口目でご飯がすっかりなくなった。
これは、ヤバい。
いくらでもご飯が食べられてしまう。
おかわりを――と席を立とうとしたら、向かいの席から腕が伸びてきた。
「大袈裟過ぎです。もぅ……」
こちらを睨みつつ、優しく言って、僕のお茶碗を取っておかわりをよそいに行ってくれる高名瀬さん。
ヤダ、きゅんっとしちゃう。
高名瀬さん、やっぱり可愛いなぁ。
あ、言うまでもなく、「こねこね、ぺっちん☆」は、最高だった。




