113 発生条件を手繰り寄せる
昨日の出来事を振り返ろうミーティングin鎧戸家リビング。
話が一段落し、気が付けば時刻は十一時十二分。
「ぼちぼちお昼の時間だね!」
「はしゃぎ過ぎです、鎧戸君っ」
立ち上がりかけた僕のシャツを、高名瀬さんが掴んで引っ張る。
立ち上がりをキャンセルされた。
現実世界でもキャンセルとか使ってくるの、ゲーマーって?
「警察の事情聴取もあるし、今後のことについてももう少し話をしたいところだけれど……レン君と戸塚ちゃんはどうする? 午後から登校してもいいけど」
「いえ、自分はここに! とことん付き合います! なんなら泊まりますし、住みます!」
「いや、住み着くのは勘弁ね」
「はい!」
なんで嬉しそうなんだろう、オタケ君。
お断りされてるのに。
……どんまい、戸塚さん。
「あ、あたしも、……残りたい、かなぁ……別に学校がメンドイわけじゃなくて、その……ポーのこと、ちゃんと知っときたいし」
「りっちゃん……」
と、照れ顔の戸塚さん。
……でも、六割くらいはオタケ君と一緒にいたいんでしょ?
オタケ君のいない学校に行くのがイヤだとか、そんな感じで。
「まぁ、一人で行っても質問攻めにあっちゃうか。情報隠すのも大変だし、変に勘ぐられるのも怖いから……分かった。諸君は本日欠席だ」
というわけで、僕たちの一日欠席が決まった。
「じゃ、ちょっと学校に連絡してくる。五人も一斉に休んで、ちょっと騒ぎになってるだろうから」
五人? ……あ、そうか、短髪君もか。
「じゃあさ、ポーちゃん。悪いんだけど、お昼お願いできる?」
「あ、はい。分かりました」
「じゃあさ、あたしも手伝うよ」
高名瀬さんが立ち上がるのに合わせて、戸塚さんも腰を上げる。
「ちょっと待って!」
そのままキッチンへ向かいかけた二人を止める。
よく考えろ。
これは、非常に重要なことだ……
・高名瀬さんが一人の場合。
テキパキと作業する高名瀬さんのエプロン姿を、心ゆくまで堪能できる。
そして、高名瀬さんの手料理を100%完全な状態で味わえる。
・戸塚さんが手伝った場合。
高名瀬さん成分が若干薄れる。
だがしかし、キッチンにクラスメイトの女子が二人並んで、きゃっきゃと楽しそうに料理する姿が見られる。
「りっちゃん、上手だね」
「ウチ、弟が二人いるからさぁ、こういうの自然と身に付くんだよね」(勝手な予想)
――みたいな会話が交わされるほのぼの親友イベントシーン!
「よし、許可しよう!」
「どこから目線でモノ言ってんのよ、鎧戸?」
ふぅ、よかった。キッチンに入る前に呼び止めといて。
刃物とか持ってたら襲いかかってきていた目だ、あれは。
「弟さんのために振るっている料理の腕を見せてもらおうか」
「あたし、一人っこなんだけど?」
弟さんいないの!?
いそうな顔してるのに!
「お姉ちゃん顔なのに!」
「どんな顔よ」
「鎧戸君の感性は独特なので、理解するのは至難の業ですよ」
高名瀬さんがさらっと酷い……
「では」
と、カバンからマイエプロンを取り出す高名瀬さん。
胸に大阪ちゃうちゃうが印刷されたお馴染みのエプロンだ。
「あんた、そんなのつけてんの?」
「え、……い、いいじゃないですか、可愛いですし」
「いや、エプロンとか、普通使わなくない? ウチの親も使ってないよ?」
戸塚さん、あなたは何を言っているんですか?
「神聖なるキッチンに立つ女子が、可愛いエプロンを着けないなんて言語道断! 戸塚さん、あなたはそれでもプロですか!?」
「素人だよ、あたしは」
じーざす!
いや、がっでむ!
両方合わせて~――
「じーざむ!」
「奇妙な言葉を投げかけてくんな」
戸塚さんの視線が鋭くなるが、そんなことにかまっている暇はない!
「クラスの女子が男子の家のキッチンで、二人並んでエプロン姿でキャッキャウフフ! こんなレアイベント、そうそう条件が揃わないんですよ!? 今やらなければ、この先一生出会えないかもしれないんですよ!?」
「いや、料理くらい、お互いの家に行けば一緒に出来っしょ?」
「でもそこに僕はいない!」
「知らねぇーよ」
戸塚さんが物凄くドライ!?
ドライ者ですか、あなたは!?
「ドライもーん!」
「変なあだ名付けんな」
くそぅ……戸塚さんめぇ……
こうなったら、最後の切り札。
「オタケ君さぁ、クラスメイトの女子のエプロン姿とか、可愛いと思わない?」
「目論見があからさま過ぎて、少々寒々しいですよ、鎧戸君」
高名瀬さんが、若干の呆れを含ませた視線で僕を見る。
だとしても!
僕は折れるわけにはいかないのだ!
一生に一度しかない、このレアイベントを逃したら、生涯後悔する!
「さぁ、どう!? オタケ君!?」
「ん? まぁ、女子が可愛い服を着て笑っている姿は、見ていて癒やされるな。どうだ、戸塚? エプロンしてみないか? たぶん、似合うと思うぞ」
そんなオタケ君の言葉を受けて、戸塚さんは――
「……鎧戸、エプロン、あったら貸して」
――陥落ぁぁーーく!
ありがとうオタケ君!
すごいよオタケ君!
握手してもらっていい?
「んじゃ、あたしのエプロン貸したげるね」
と、学校へ連絡を入れ終わったらしい姉が二階へと上がる。
これで、クラスメイト二人によりキャッキャウフフクッキングというレアイベントの発生が確定した!
……でも、姉が持ってるエプロンってなんだ?
見たことない、というか、料理したことないだろうに…………不安だ。




