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死に戻りの魔法銃士(マジックガンナー) 出稼ぎオッサン異世界記  作者: 長野文三郎


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9-6

 並行世界からの帰還は無事になされ、俺たちはアパートの部屋へ戻ってきた。

転移したときと同じ体勢で、俺はテーブルの魔導書に手をつき、エルナは俺の背中に乗っかっている。

だけど、エルナはそこから動こうとしなかった。


「どうした? 下りないのか?」


 無言のままエルナが俺の前へ手を伸ばしてきた。


「痛くて……怖かったのじゃ」


 結城のやつに思いっきりナイフを刺されていたもんな。


「そうか」


 エルナは小柄だから重いとは感じない。

それに、いくら強気のエルナでも死の淵に立たされるような経験をすれば、小デブのオッサンでもいいから抱きしめていたくなるのかもしれない。

テディベアほどの可愛らしさはないが、類似性はあるような気もする。

控えめな胸が背中に当たって気持ちよくもある。

しばらくはこのままの状態でいようか……。


 何か優しい言葉でもかけようかと思案していると、エルナの手が怪しく動いて腹の脂肪をつまみだした。

痛くはないので放置しておくと、今度は胸をガッツリ揉みだすではないか。


「何をしている?」

「メンタルケアじゃ」


 うん、俺もそうだ。

おっぱいを揉むと気持ちが落ち着くよな。

しばらく触っていないけど……。

モミモミしながら緊張を解きほぐし精神の均衡を図っているのだろう。

かくして、この治療法は心療内科の世界に新風を巻き起こすのだった。

……巻き起こすかっ!


 体は転移前の状態に戻るけど、汚れなどは付着したままだった。

服も血や泥がこびりついていたし、俺のブーツには大きな穴が開いている。

次の転移前に新しいブーツを購入しなくてはならない。


「シャワーを浴びたら買い物にいこう。エルナが先に入ってきなよ。俺は洗濯機を回しておくから」

「私のも一緒に頼む。底の方に下着を入れておくゆえ覗くでないぞ」

「そんなことするか」


 俺は下着に興味はない。

下着姿の女性は大好きだけど、エルナがどんな下着を着けていようがどうでもいいことだ……と言ったら嘘になるな。

洗濯機の深淵を覗かないように自分の服を入れてスタートボタンを押した。



 さっぱりとした俺たちは街へ買い物に出かけた。

今なら神大にもらった軍資金がたんまりあるから、値段を気にせずに好みのブーツを選び放題だ。

エルナの服も買っておくべきだろう。


「エルナは安全靴でも買ったらどうだ?」


 安全靴とはつま先や靴底に鋼が入っていて、主に作業現場で使われるような靴だ。

最近ではお洒落な物も開発されており、ぱっと見では安全靴とはわからない商品もある。

エルナのパワーにどこまで耐えられるかわからないけど、普通の靴よりはマシだろう。


「心配は無用じゃ。私が履いているのは地竜の革をなめして作った特別製だから、少々の衝撃では壊れはせんよ」


 異世界の特別製なら問題ないか。

たしかに高級そうな風格を漂わせているブーツだ。

エルナによく似合ってもいる。


「そういえば、寛二のレベルはいくつになった?」

「22だよ。順調に上昇中ですな」

「だったらお主のスキルもダブルということか」

「えっ? ああっ!」


 すっかり忘れていたが、普通のスキルはレベル20までしか上昇しないのだ。

20以上になるというのは俺のスキルがダブルである証だ。

やっほほほい、と今さらながら喜んだ。


「でも、今のところ変化は何もないんだよ」

「寛二の場合はレベルが5上がるごとに変化があるじゃろ? ひょっとしたら25になれば何らかの兆候が表れるんじゃないのかえ?」


 それだったら嬉しいな。

探している人がどこにいるかがわかるスキルなら最高だけど、そんなご都合展開はないよな。

何にせよレベルアップに夢が広がる。


「こっちでのトレーニングが終わったら、向こうで修業をしてみるか」

「だったら私も付き合うぞ。私ももう少しでレベル5じゃからな」


 ついでに神大たちが前線基地を作っている東大キャンパスを見物に行こうということで話はまとまった。



 渋谷から電車を乗り継いで東京大学駒場地区キャンパスまでやってきた。


「あれ? 赤門ってどこなの?」

「愚か者、あれは本郷の方だ」


 どうせ東大になんて縁のない人間ですよ。

だいたいエルナは異世界人のくせに、どうしてそんなに詳しいんだよ?


 キャンパスの中で転移すると、いきなり現れた俺たちに人々がびっくりしてしまうだろう。

だから、正門から少し離れた場所で魔導書を開くことにした。


「あ~、ハンバーガーの匂いがする」

「また太るぞ」


 トレーニングのおかげで体が少し締まってきている。

体脂肪は24まで下がっていた。

まだまだなんだけど、俺なりに努力をしたという自負がある。


「向こうで食べるからいいじゃん。テイクアウトする」

「堪え性がないのぉ」


 そう言いながらもエルナだってきっちりセットを頼んでいた。

しかも、季節限定シェイクまでつけて。

もちろん俺もそうした。

詳しく言及すると俺はLサイズのセットだ。

まあいいじゃないか。

海の向こうのアメリカにはスーパーサイズというものがあるらしい。

俺は日ノ本の民でよかったと思う。

絶対に誘惑に勝てないもん。

向こうにいたら小デブではなく大デブのオッサンになっていたかもしれない。


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