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死に戻りの魔法銃士(マジックガンナー) 出稼ぎオッサン異世界記  作者: 長野文三郎


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5-5

 コミュニティーの暮らしがどんなものか知りたかったので、その晩は亀戸コミュに泊めてもらうことにした。

「一晩の宿を……」と頼んだ時は断られるかと思ったけど、すんなりと許可は下りたみたいだ。

結城としても俺のもたらす物資に期待しているのかもしれない。


 予想に反して食事も出してもらえた。

内容は茹でたジャガイモ一つと、スープが一皿だった。

焼いた魔物の骨で出汁が取られているようで、大鍋から巨大な骨がはみ出していた。

これが意外とイケる。に美味だ。

豚骨ならぬ魔骨まこつスープのラーメン……。

細麺にしっかり絡みそうな気がしてならない。

次回、転移してくるときは麺を持参でこようかな。


 食事は大きな部屋で他の人たちと一緒だったんだけど、俺の座ったテーブルには誰も来てくれなかった。

6人掛けなのに俺は寂しくボッチ状態だ。

話しかけづらいのかな? 

ちょっとぽっちゃりな草食系なのに……。

本当は肉好きだから、それが表ににじみ出ているのかもしれない。



「こんにちは。旅をしているんだって?」


 テーブルに食事のトレーを置きながら中年男性が話しかけてくれた。

年齢は50代くらいかな? 

背筋がピシリと伸びた人だけど、脚が悪いみたいだった。


「娘を探して千葉へ行く途中なんです」

「そうですか。私は吉永といいます。以前はここのリーダーをしていたのですが、今は引退してイモづくりに専念しているんですよ。どうです? 私の作ったジャガイモは?」

「とても美味しいです」


 バターと醤油があったらさらに100倍は美味しくなると思う。

吉永さんは気さくな人柄で、一人ぼっちの俺にいろいろと教えてくれた。

元は警察官をしていたそうだ。

避難していた人々をまとめて、このコミュニティーを作り上げた中核的人物らしい。


「どうしてリーダーを引退されたのですか?」


 そう質問すると吉永さんは一瞬だけ苦悶の表情を浮かべた。


「魔物との戦闘で脚をやられましてね……。それで結城君にあとを任せたんです」

「あとを任せたって、狩猟班のクーデターじゃないですかっ!」


 誰かが怒りの声を上げた。


「客人の前でその話はやめよう」


 吉永さんが宥めていたけど、きっといろいろあったのだろう。



 吉永さんが話しかけてくれたおかげで、周りの人たちとも打ち解けることができた。

話の中で結城に対して不満を抱いている人も多いことがわかった。

特に吉永さんがまとめている農業班と、結城の直属になっている狩猟班・防衛班は対立の溝が深いようだ。

結城はこれまで、自分に反抗する人間の粛清を陰で行ってきたらしい。

ただ、元リーダーであり、実力者である吉永さんには手を出しあぐねているようだ。


「さすがの結城も吉永さんの『手刀しゅとう』は怖いんですよ」


手刀? 

それが吉永さんのスキルかな?


「もうやめよう。私も以前のようには魔物を狩れないんだ。こんな世の中だからこそ、皆で協力し合わなきゃ生きていけないよ」


 吉永さんの存在が、危ういところでこのコミュニティーのバランスを取っているのかもしれない。

もっとも石田君と南さんのように、ここから逃げ出す人たちもいるようだが。



 夜は個室を用意してもらえた。

大きな建物なので部屋はいっぱいあるのだろう。

幹部たちは上の階で暮らしているようだ。

ここにも暗黙のヒエラルキーがあって、力こそすべてみたいな社会になっている。

戦闘力が高いとか役に立つスキルを持つ人間ほど待遇がよく、そうでない人は肩身の狭い思いをしている。

昔は女子供が優先的に上の階で寝かされていたのに対し、今は幹部連中がその場所に陣取っているそうだ。

結城がここを仕切るようになってから差別はどんどん加速していると聞かされた。

吉永さんが入口に一番近い部屋を使って皆を守っているから、他の人も安心して寝られるそうだ。



 夜も更けてくると、辺りは真っ暗だった。

みんなが使っているこの社屋の屋上にはソーラーパネルが取り付けられていて、ある程度の電気は貯めておけるみたいだ。

だけど、今は必要最低限の灯りしかついていない。

ソーラーパネル付きのランタンなんかも各所に置いてあり、いざという時はそれを使用するみたいだ。

便利そうだから元の世界に帰ったら是非購入することにしよう。

アウトドアグッズを扱う店においてあるのかな?


 与えられた個室は真っ暗だったから、スマートフォンを取り出して、保存しておいた電子書籍を読むことにした。

夜の7時に眠れるようにはできていないのだ。


 最初の数行を読んだところでドアがノックされた。

何の用だろうか? 

少し警戒しながら扉を開くとパジャマ姿の女性が立っていた。


「どうしました?」

「結城に言われてきました。今夜のお相手をするように命令されています」

「はっ?」


 予想もしていなかった展開で、またもや思考回路がショートしかけた。

今回は、予備回路に切り替わることはなかったけど。


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