帰宅して一休み
帰宅した俺は、風呂へ入ることにする。
配信は終わったが、それだけにひどく疲れたよ……。
今日は色んなことがありすぎた……。
「……」
それにしても、鏡に映る今の自分の裸を見ると、なんとも言えない気持ちになる。
上半身だけ見ると、完全に猫耳の美少女なんだよな……。
だが股間には、小さいけど確実に付いている。
この可愛さで男なのだから、なんだか倒錯的だ……。
変な気分になる前に、身体を洗ってしまおう。
しかしお湯をかぶると、なんだか肌がザワザワとするというか、微妙な不快感がある。
なにこれ……?
「あ、猫だから、濡れるのが嫌なのか……?」
それはちょっと困るなぁ。
湯船に浸かって、リラックスすることができなくなるじゃないか……。
う~ん、水耐性のスキルを取れば、平気になるのか?
だが、こんなことで、ポイントは無駄遣いできない。
我慢するか……。
で、落ち着かない感じで湯船に浸かっていると──、
「お兄ちゃーん、入るよ」
「なんでだ!?」
妹の水杜が乱入してきた。
「大丈夫、大丈夫。
幻術で、裸には見えないようにしてあるから」
「俺は裸なんだが!?」
確かに水杜は水着を着ているように見えるが、俺はそうじゃない。
兄妹とはいえ、恥ずかしくないのか?
「なんで入ってくるだよ……?」
「いやぁ……この身体の小ささだと、シャワーとか上手く使える気がしなくてさ……」
「あ……」
そうか……妖精の小さな身体だと、シャワーのヘッドを持ち上げながら、身体を洗うというのは難しいのだろうな。
まあ、シャワーを壁のフックにかけて、お湯を出しっぱなしにすれば使えないこともないだろうけど……。
「その羽、濡れると飛べなくなるのか?」
「え?
う~ん、ちょっとお湯をかけてみて?」
俺は洗面器にお湯を汲んで、水杜の羽にかける。
「あ~、ちょっと飛びにくくなるね」
まったく飛べないということはないようだが、フラフラしながら水杜は浮かんでいた。
じゃあ、介助しないと危ないな。
高いところから落ちたり、湯船に落ちて溺れられたりしたら困る。
特にシャワーを止めるボタンはヘッドについているから、壁のフックにかけていたら水杜にとっては結構な高さになるからなぁ……。
「……仕方がない」
俺はスキルのリストを見る。
「水杜、『念動力』ってスキルがあれば、便利なんじゃないか?
手を使わずに、シャワーを持ち上げたりできそうだぞ。
なんならお湯を直接持ち上げて、頭から被るのもいい」
「え……でも、またポイントを使っちゃうんでしょ?」
「日常生活で不便があるのなら、ポイントを貯める以前の問題だからな。
必要なことなら遠慮するな」
それに20000P程度だからそんなに高くないし、回転寿司の代金として貰ったポイントもある。
まあ本当なら、身体のサイズを自由に変えるスキルの方がいいのかもしれないが、そっちはちょっと高い……。
ちなみにスキルの中には、数十億ポイントも必要なものがあって、上を見ると切りが無いかった。
「百合」とか「魂の融合」とか、どう使うんだ、これ?
「……それじゃあ、お願いするよ」
「おう」
それから「念動力」を手に入れた水杜は、洗面器に溜めたお湯に浸かりながら、スキルの使い方を練習していた。
スキルというのは取得してすぐであっても、最低限のパフォーマンスは保証されているらしい。
ただ、完全に使いこなす為には、やはり練習も必要だし、物によってはMP等を消費するので、その辺の力配分も把握しなければならないらしい。
水杜は5cmほどのお湯の球をいくつか作り出し、それを空中で動かしていた。
ちょっと無重力空間味があるな……。
俺も自分が持っているスキルについて、確認しようかな。
俺が持っているのは、今日手に入れた「毒無効」の他に、最初から持っていたらしい「アイテムボックス」と「念受信」、そして「HP・MP超回復」だ。
あと、スキルではないようだが、暗いところでもよく見えるとか、猫型獣人由来の能力もあるらしい。
で、スキルについては、ゲームや小説などで見たことがあるので、なんとなくどういうものなのかは分かる。
まあ、「念受信」がちょっと謎だが、たぶん配信中に、神達のコメントを読み上げる能力だろう。
そしてこれからダンジョンに入る上で重要なのは、「HP・MP超回復」かな?
どの程度回復するのかは分からないけど、これの有無で生存率や継戦能力が、大幅に違ってくると思う。
それと、ステータスなんかも見られるのだが、これが高いのかそれとも低いのかは、ちょっと分からないな……。
なんだが突出して高い項目も、低い項目も無く、平均的なんだよね……。
鍛え方次第で、どんなタイプにも成長する感じか?
「……ん?」
気が付くと、水杜が「念動力」を使うのをやめて、黙り込んでいた。
「水杜、疲れたか?
それとものぼせた?」
「ううん……。
ただ、ようやくお兄ちゃんに迷惑をかけなくてもいい身体になったと思ったのに、まだまだ頼らなきゃいけないんだなぁ……って」
「水杜……」
入退院を繰り返していた水杜としては、今まで俺に対する後ろめたさを感じていたのだろうな……。
それが新しい身体と能力を手に入れて、解消されると思っていたのかもしれない。
思えば今日の水杜って、いつもとテンションが違っていたような気もする。
俺に女装を強く勧めてきたりとか……。
あれで彼女なりに、俺の役に立とうとしていたんだな……。
いや、確かに助かっていたんだが、同時に恥ずかしかった……。
しかし水杜は、その新しい身体の所為で、まだまだ日常生活に問題がある。
それがもどかしいのか。
「水杜には配信のサポートとかで、かなり俺は助けられているから、気にすること無いぞ。
これからもっと頼るから、頑張ってくれよな」
「う、うん、ありがとうお兄ちゃん」
と、微笑む水杜の目には、水滴なのか涙なのか、分からない物が見えていた。
でも実際、明日から本格的に探索者と配信者としての活動を本格化させるので、本当に忙しくなると思う。
これからが本番だ。
だから今晩は、早めに寝て備えないとな……。
だけど色々と考えることがあって、その夜はなかなか寝付けなかった。
というか尻尾が邪魔で、仰向けで寝るのが難しいのだが……。
明太マヨちくわトースト美味しい。




