65.国の事情
クロネが事情を教えてくれたことはとても嬉しかった。どうにか力になってあげたいけれど、私に出来る事ってなんだろう?
その事を考えていると、エリシアが声を掛けてくる。
「クロネお姉様の事情を知ってくれる人が増えて良かったわ。少しでも、クロネお姉様の力になってあげて欲しいの」
「うん、私……クロネの力になるよ。何が出来るか分からないけれど、クロネが目標を達成出来るように協力する」
「ユナ……その、ありがとう」
すると、クロネは少し恥ずかしそうにマントに顔を半分隠した。
「この様子だと、クロネお姉様は元に戻るつもりはなさそうね」
「うん。あたしはこのまま国中を回って強くなる。まだ、バルガには勝てない」
「そう……。本当は城に留まって欲しいけれど、それを言ったらクロネお姉様を困らせてしまうわね」
「……エリシア、その……大丈夫か?」
少し寂しそうに笑うエリシアを見て、クロネが心配そうにしている。そのクロネの言葉に、気丈に振る舞っていたエリシアの表情が弱くなる。
「正直言って、今の状況で近くに味方がいないのは辛いわ……」
「……そう、だよな」
二人の表情はとても深刻そうだ。一体、どんな状況なのだろうか?
「あの……エリシア様はとても大変な立場なの?」
「えぇ。国の第二位と第三位が入れ替わったことで、第一位であるお父様の立場が揺らぎ始めているの」
「第二位と第三位が入れ替わっただけで?」
「第一位の皇帝でもあるお父様ももっとも強い立場だけれど、第二位の教皇と第三位の騎士団長の立場も強いの。その発言は政治にも影響してくるわ」
このルベリオン帝国というのは絶対的な皇帝が全権を振るっているのではなく、その下にいる教皇と騎士団長も権力を持っている構造らしい。
「その権力を持っている二人は皇帝を支持してないの。二人は皇帝の弟を支持していて、その人を皇帝にしようとしているの」
「それじゃあ、エリシア様の立場が危うくなる?」
「……もう、危ういわね。なんとか、立場を守ろうとしているのだけれど……そう簡単にはいかないわ」
第二位の教皇と第三位の騎士団長が支持しているのが皇帝の弟。だったら、現皇帝の立場は危うくなるし、エリシアの立場も危うくなる。
「なんとか自分の立場を守るために、こうして宮を離れて働かされているわ」
「エリシアは今は何をしているんだ?」
「オルディア教を続けている教会の説得ね。国教が変わったけれど、各地でまだオルディア様を祭っているところがあるから」
「それで、教会にいたのか……」
国教が変わっても、オルディア様を崇拝している教会はある。崇拝する神を変えろと指示をしているのに、変わらないのは問題だ。
そこで、皇女が直接赴いて説得しているという状況らしい。皇女ともあろう方が皇居を出て、説得に出てくるとは……。どうやら、皇帝の権威は低くなっているみたいだ。
「今、教皇の発言力は高まっているの。それを無視したらお父様の立場が危うくなる。少しでもお父様の力になりたかったから、わたくしが出てきたという事なの」
「そうか……今の城ではそんなことになっていたのか」
「しかも、教皇と騎士団長は手を組んでいますから、私たちに不都合な事ばかり押し付けてきたりしています。お陰で近衛兵は減らされて、今回の説得だって警護の人数を減らされて……」
どうやら、事態は良くないみたいだ。不都合な事を押し付けられる事だけでなく、自分の身を守る人員さえ削られる有様。きっと、エリシアは心細い中、なんとか頑張っているのだろう。
「城がとても窮屈になってしまったの。気軽にお友達にも会えないし、いつも傍にいたクロネお姉様はいないし……」
「それは……すまない」
「いいの。クロネお姉様のほうが大変だって分かっているから、無理を言えないわ」
申し訳なさそうにするクロネに対し、エリシアは気丈に振る舞った。それでも、どことなく寂しそうに見えるのは気のせいじゃないはずだ。
それは、きっとクロネが一番分かっているはずだ。チラッと隣を見ると、クロネが切なそうな表情をしてかける言葉を考えている。だけど、言葉が出ないみたいだ。
その様子を見てエリシアは笑った。
「もう、クロネお姉様は難しく考えすぎ。そういう時は、すぐに強くなるから少し待っててくれっていうのよ」
「だが、それは……約束できない。約束できないことを言うのは卑怯だ」
「クロネお姉様は真面目ね。少しは安心させて欲しいわ」
「……すまない」
こんなに近くにいるのに、二人には踏み込めない距離があるように感じる。クロネは自分の目標を追わないといけないから、エリシアの傍にいられない。エリシアはクロネに傍にいて欲しいけれど、無理は言えない。
どうにかして、二人を安心させる方法はないだろうか? 少しでも一緒にいたら、その不安が消えるかも?
「ねぇ、クロネ。少しエリシア様の傍にいたら?」
「だが……ランカの事は?」
「ランカの事はちゃんと探す。その上で、今はエリシア様の傍にいたらいいと思うの」
「……それは、ありがたい」
ランカの事も大事だけど、エリシアの事も大事だ。そういうと、クロネは戸惑いながらも頷いてくれた。
すると、その様子を見ていたエリシアが驚いた顔をする。
「じゃあ……クロネお姉様と少し一緒にいられる?」
「そういうこと」
「やったぁっ! ありがとう、クロネお姉様!」
エリシアはとても嬉しそうにクロネに抱き着いた。その小さな体をクロネは優しく抱きしめてあげている。
二人がとても嬉しそうで、私のほうが嬉しくなってしまった。
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