52.消えたランカ
「クロネ、クロネ!」
気絶しているクロネを揺すり起こす。怪我はもう回復させたし、大丈夫なんだけど……中々起きない。
根気強く揺すっていると、クロネの顔に力が籠る。
「クロネ!」
「ん……あたし……」
ゆっくりと目を開けて、少しずつ現状を理解しようとする。
「クロネは攻撃を食らって気絶していたんだよ」
「……そうか。あたしの技を真似られて、それで……。そう言えば、あの狼は?」
「実はあの後……」
私はクロネが気絶した後の事を話した。私の強い魔力の衝撃を受けて、狼が傷ついた事。その時にランカの意識が戻った事。意識が戻ったランカを黒い影と触手が奪って言った事。
そこまで話すと、クロネは辛そうに首を横に振る。
「そんな……ランカが……」
「ランカを助けられなくてごめん」
「いや、仕方がない。あたしでもどうしようもなかった」
状況を理解したクロネが慰めてくれる。だけど、私は思ったよりも落ち込んでいた。
あの時、魔力を纏わせればランカをあそこから引き抜けたかもしれない。あの時、もっと機転を利かせていたら……。そう思うと、やるせない気持ちになってしまう。
その時、私の頭にクロネの手が乗った。その手は優しく私の頭を撫でてくれた。これって、あの時の――。
「……その、落ち込んでいたから」
「クロネ……」
「少しは元気になったか?」
「うん、ありがとう」
あんなに私の頭を撫でないって言っていたのに、こういう時に行動で示すんだから……。そういうところ、嫌いじゃない。
「これから、どうする?」
「ランカがどうなったか知りたいけれど、全然手がかりがないの。だから、それが思いつくまでは、現状を整理しようと思う」
「そういえば、あたしたちは冒険者ギルドの依頼を受けていたんだったな。町の中で出没した魔物はあの猿の魔物で間違いない。あの惨状も報告しないといけないし……。まずは冒険者ギルドだな」
そう、私たちは冒険者ギルドから依頼を受けたままだった。町に出没していた魔物を退治したし、まずはその報告に行こう。
◇
その後、私たちは猿の魔物の死体を持って冒険者ギルドへと赴いた。その時に被害にあった人達も伝えて、そっちの処理もしてもらう。
他の獣人に町に魔物が出没していた所で嗅いだ匂いと猿の匂いが一致して、私たちは町に出没していた魔物を退治した功績を与えられた。
再度、リオストール子爵家に訪問し、その功績として褒章メダル六枚を受け取った。これで褒章メダルは十六枚になった。
褒章メダルを受け取って嬉しいのに、気分は晴れなかった。やっぱり、ランカが黒い影と触手に捕まった事が気がかりだ。
一体、ランカはどこに連れていかれたのか? あの黒い影と触手の目的はなんだったのか?
宿屋のベッドでクロネの耳を弄りながら、その事を考える。
「何か良いことが思いついたか?」
「ううん、まだ」
「そうか……。なら、あたしが気になったことを話してもいいか?」
「えっ、何々?」
その話に興味が惹かれ、クロネの耳を弄るのを止めて、隣に座る。
「ランカが狼に変身しただろう? あれは、多分獣化と言われる現象だと思う」
「獣化?」
「人間型の獣人が獣型の獣人に変身できる能力だ。変身すると、驚異的な戦闘能力が手に入る。だけど、それを出来る人は数少ない。少なくとも、あたしの周りでは獣化を出来る獣人はいなかった」
「じゃあ、ランカは選ばれた獣人だってこと?」
「そういうことだ」
それがランカが狼に変身した理由。でも、どうして急に獣化なんて事をしたんだろう?
あの時のランカは自分の姿に戸惑っている様子だった。きっと、それまで意識が無くて自分が獣化したことに気づいていなかったはず。
じゃあ、ランカは無意識に獣化をしたってこと? ランカは自分が獣化が出来ることを知っていた? ……分からない事が多い。
分かっていることは、ランカは獣化という力があったこと。一つだけ謎が解けた感じだ。
「そういえば、ランカがどこに消えたか、匂いで追えない?」
「影に消えたって言ってただろう? その影の中に入ってしまうと、匂いが追えなくなる。どこかに匂いが残っていれば別だけど……」
匂いか……。そういえば、猿の魔物とランカは同じ匂いを纏っていたんだっけ。その二つが一緒にいたかもしれない場所は……確かランカを誘った神官が怪しいと思っていたはずだ。
もし、その神官が魔物と関係があるんだったら……ランカはあの神官のところにいるかもしれない。
「ねぇ、クロネ。明日、教会に潜入してみない?」
「教会に? なんでだ?」
「ほら、あの騒動が始まる前に神官が怪しいって言ってたじゃない。もしかしたら、黒い影に連れ去られたランカは神官の所に連れていかれたのかも」
「……そうだよな。初めにランカに執着したのはその神官だ。その神官が思うようにランカを動かしていた可能性が高い。今回の事も神官が絡んでいそうだ」
やっぱり、始まりの神官が怪しい。ランカを素質がないのに神官見習いにした事といい、きっと何かに利用しようと考えていたはずだ。
きっと、神官の所にランカはいるはず。
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