147.次の行き先
怪物を倒して数日が経った。その間、バルドルは精力的に活動していた。
まずはオルディア教との関係を改善するための会合と会食をして、お互いの意見を交わし合う。今回の事でバルドルは迷惑をかけたことを陳謝し、オルディア教はそれを受け入れた。
今後とも変わらぬ信仰を捧げることを誓い、オルディア教との関係は再び結ばれた。
次に移した行動は、今回の怪物出現の件で領民たちに被害が出ていないかという調査だった。どうやら、私の力が及ばないところに怪我をしたり、怪物が起こす振動で店内が荒れてしまったり、という被害があったらしい。
その被害を調査し、または援助する行動を取った。そのお陰で、私の手が届かなかった所まで援助が行き渡り、領民の暮しは元通りになりつつある。
最後に行動したことは、カリューネ教の調査だ。領内にどれだけのカリューネ教の神官が潜んでいるか、実態調査をした。
調べてみると分かったのだが神官たちが忽然と姿を消していたのだ。町の中で活動していたはずなのに、いたと思われる場所には誰もいなかった。
不審に思い領都だけではなく、領内の他の町や村を調べてみると、カリューネ教の神官たちの姿を見つけることが出来なかった。
以前は精力的に活動していたはずなのに、こうも簡単に消えるとは思ってもみなかった。少しでも、カリューネ教の実態を暴きたかったバルドルは悔しそうにしていた。
だが、今回の件でバルドルは重い腰を上げることになった。中央にいる現公爵に現状を伝え、この西方地方からカリューネ教を排除する事。それを本格的に行おうとしていた。
国の考えに意を唱える事を決断だ。だが、バルドルは前公爵であり、最終的な実権は現公爵の息子が持っている。その息子を説得するために、カリューネ教の情報を集める必要があった。
そのために、西方地方の地方領主たちに連絡を取り始めた。その頃、私達はというと――。
◇
「バルドル様、忙しそうだね。何か手伝えればいいのに……」
「でも、あたしたちに出来ることはない」
「ランカは難しい事が分からないから、何も出来ないよ」
茶と茶菓子を頂きながら、忙しいバルドルの事を考えていた。私達は子供だし、国の大事になることには手出しは出来ない。だけど、バルドルにだけ任せるのも気が引けた。
「私達に出来る事か……。そういえば、レイナが最後に言った言葉が気になるよね。オルディア教の前教皇を殺すって」
「まぁ、カリューネ教に敵対する一番上の人物だからな、目ざわりなんだろう」
「いなくなったら、オルディア教が困るんじゃない?」
カリューネ教を打倒するためにはオルディア教の力が必要だ。そのオルディア教を一つに纏めるためにも前教皇という人物がいないと難しくなる。
カリューネ教もそれが分かっていて、前教皇を殺すと言っていたのだろう。だったら、前教皇は守らなくてはいけない相手だ。
「だったら、私達で前教皇を守るっていうのはどう?」
「なるほど……。それだったら、あたしたちでも役に立てる」
「いいと思う! だって、いなくなったら困る人だし!」
難しい事には手出しは出来ないけれど、刺客から守ることだったら役に立てることがある。
そう決めると、私達は席を立ってバルドルに会いに行った。
◇
「ふむ……お前たちが前教皇を守ると。そういう訳じゃな」
ヒゲを撫でて、バルドルは考え込んだ。
「確かに、あの怪物を倒したお前たちなら、きっと前教皇の力になれるはず。それに、刺客が放たれたという情報はすぐにでも伝えた方が良い」
「だったら、前教皇に会いに行ってもいいですか?」
「……そうじゃな。その方がいいだろう。うむ、分かった。お前たち、行ってくれるか?」
「ありがとうございます!」
バルドルは私達の言葉に頷いてくれた。これで、刺客の情報を渡せるし、前教皇を守れる。
「でも、前教皇は今どこにいるんですか?」
「今は南方地方の公爵家に世話になっているはずだ。そこに行けば、いいじゃろう」
「南方地方ですか。ここから、簡単に行けますか?」
「地方と地方の公爵領を繋ぐ道がある。それを辿っていけば、問題なく着くだろう」
なるほど、道は繋がっているみたいだ。これならば、迷うことなく南方地方の公爵領に辿り着くことが出来るだろう。
「お前たちの事をくれぐれもよろしく頼むと手紙に書いておく。だから、粗末な扱いはされんだろう」
「そこまでしてくださるんですね。ありがとうございます!」
バルドルが力を貸してくれるんだったら、南方地方の公爵領に行っても問題なさそうだ。
私達がホッとしていると、バルドルの表情が曇った。
「じゃが、お前たちと離れるのは寂しいのぅ」
そう言って、悲しそうにクロネとランカを見た。今まで近くにいた可愛いもふもふがいなくなるのが、堪えがたいと言っているようだ。
その気持ち、分かる。私ももふもふな二人と別れたら、気がどうにかなってしまいそうだ。
「大丈夫です。残りの時間で十分にもふもふしましょう!」
「おぉ! それはありがたい!」
「やっぱり、もふもふがないと辛いですよね!」
「そうなんじゃ。辛くて辛くて……」
私達にだけ通じる思いがある。二人でもふもふへの思いを募らせていると――。
「……触るのは控えて欲しいんだけど」
「そう? ランカは嬉しい!」
ちょっと嫌そうにしているクロネと喜んでいるランカがいる。静かなもふもふと元気なもふもふ。両方見れてとてもお得な気分になった。
そんな対照的なもふもふを思う存分、もふもふする私達なのであった。




