145.救助と癒しと修復
「なんと……お前たちだけで倒したのか!?」
駆けつけてきたバルドルは倒れた怪物を見て、驚いたように声を上げた。
「はい。私達だけで倒しました」
「トドメはユナでしたが」
「ユナの魔力でドカーンと倒したよ!」
事実を伝えると、バルドルは信じられないといった顔をして固まった。だが、すぐに笑い声を上げる。
「あっはっはっ! 本当にお前たちは規格外だ! よくやってくれた!」
そう言って、私達の頭を順番に撫でてくれた。周りにいる衛兵たちは私達を称えるように歓声を上げて、場はとても賑やかになる。だけど、急にバルドルが真剣な顔になった。
「しかし、酷い被害だ。建物が壊されて、領民の安否が心配だ」
怪物が倒れただけで、町の被害は改善していない。辺りを見渡して、険しい表情を浮かべる。
「まずは領民の安否を確かめなければ。きっと、瓦礫の下敷きになっている領民がいるはずだ。出来るだけ早急に救い出さなければ」
「それなら、私の魔力が使えます」
「何? ユナの魔力が使えるとはどういうことだ?」
私の進言にバルドルは不思議そうに眉を寄せた。
「私の魔力は色んな物に変えられます。属性を変えたり、物に変化させたり、意思を宿したり出来ます。その出来る事の中で転移の魔法にも変換出来るのです」
「転移……。そんな凄い魔法が使えるのか? だが、それが何の役に立つのだ?」
「見ててください」
私は近くの瓦礫に近寄った。そして、空気中の魔力の自分の魔力を同調させ、瓦礫の中の気配を探る。すると、瓦礫の中に三人の気配を見つけた。
すぐに三人の傍の魔力を転移の力に変異させる。すると、瓦礫の中にいた人達が一瞬で私の前に現れた。
「な、なんと!? 急に人が現れたぞ!?」
「瓦礫の中にいた人を転移させました。これなら、すぐに瓦礫の下敷きになった人達を救えます」
「なんとも便利な魔力だ。これなら、瓦礫の下敷きになった人を救える! ユナ、頼む。領民を救ってくれないか?」
「もちろんです。私に任せてください」
バルドルに懇願されると、私は強く頷いた。同調した空気中の魔力に意識を向けて、全ての瓦礫を捕捉する。そして、その下敷きになっている人を確認した。
……うん。瓦礫の下敷きになった人達はこれで全部みたい。だったら、全員を一度に転移させる!
一気に魔力を変異させると、瓦礫の下敷きなった人全員が目の前に現れた。
「うぅ、こ、ここは……」
「あれ、なんで……」
「どういうことだ?」
突然、居場所が変わって下敷きになった人達は戸惑った様子だった。だけど、戸惑っているのは他にもいて――。
「な、なんと……。まさか、全員を助けたというのか?」
突然現れた人たちを見て、バルドルは驚愕した。私に答えを求めるように視線を向けてくる。
「先ほどと同じようなやり方で、一度に全員の領民を救出しました」
「な、なんということだ! こんなに短時間で、これだけの領民を救出するとは!」
説明をすると、バルドルは頭を抱えて叫んだ。まさか、瓦礫の下敷きになった人達がこうも簡単に救出されとは思ってもいなかったらしい。あっという間の救出劇に驚きよりも戸惑いの方が強い。
「ユナ、感謝する。領民が助かったのは、おぬしのお陰だ」
「いえ、まだです」
「どういうことだ?」
「怪我を治していません」
領民を瓦礫の下から救出できたが、領民の体は傷だらけだった。瓦礫が体に当たり血を流す者、瓦礫に挟まれ体が腫れあがっている者。様々な怪我が領民の体に刻まれいた。
「確かに、領民の怪我は癒されておらん。オルディア教に怪我を癒せる者がいないか、聞かないとな……」
「それだと、時間がかかります。私に任せてください」
「何?」
怪我でこんなに苦しんでいるのに、見過ごせるわけがない。私は怪我をした領民の前に立つと、魔力を高める。その魔力を回復の力に変異させると、領民の体を優しく包んだ。
「なんだ? ……痛みが引いていく!」
「血が……止まった!?」
「足が痛くない!」
途端に領民から驚きと喜びの声が上がった。傷はどんどん癒えていって、顔色が良くなっていく。そして、回復が終わると領民たちは立ち上がって喜んだ。
「凄い、立てる……立てるぞ!」
「怪我が治るなんて、凄いわ!」
「やった! 元に戻った!」
怪我なんか始めからないかのように、領民たちが動き回って喜びあった。
「なんということだ……。怪我まで癒してしまうなんて。誠の信者でもこのように強い回復魔法を使うのは困難じゃぞ!」
「私の魔力が特殊なんです。だから、こういう事も出来ます」
驚くバルドルの目の前で今度は瓦礫に魔力をまとわせる。瓦礫を宙に浮かばせ、魔力に意思を乗せる。元の形に戻れ、と。
すると、魔力をまとった瓦礫は動き出し、お互いを合わせていく。小さな瓦礫が大きな壁になり、壁と壁がくっつき、それに屋根が乗せられ、最後には一軒の家として元に戻った。
「な、な、な……なんじゃこれは!」
瓦礫が元の家に戻った光景を見て、バルドルは信じられないと言わんばかりに声を張り上げた。そして、勢いよくこちらに歩み寄って来る。
「瓦礫が家になったぞ! 何をしたんじゃ!?」
「私の魔力で家に戻しました。役に立ちそうですか?」
「役に立つも何も、こんな凄い魔力は見たことがない! 一体、どういう原理で……!」
「まぁ、特殊だっていうことですかね」
「こ、こんなに特殊な魔力があるか!」
そんなに詰め寄られても、なんと説明していいのか分からない。とにかく、私の魔力が特殊で役に立つことを知ってもらえればいい。
「とにかく、私の魔力で町を元通りに戻してみますね」
「そ、そんな事が可能なのか!?」
「やってみます」
戸惑うバルドルの前で、また瓦礫に魔力を纏わせて、繋ぎ合わせ、家を元通りにする。その様子をバルドルは唖然として見つめて「……まるで神の御業だ」と呟いた。




