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【書籍化決定】転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした  作者: 鳥助
第四章 ロズベルク公爵領

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137.決闘前

「これが、私たちの実力です」


 私たちは司祭たちの前で自分たちの力を披露した。司祭たちは息を呑み、目を見開いた。


「……こ、これは……本当なのですか?」

「はい、嘘はついていません」


 確かめるように司祭がこちらを見つめ、私たちはしっかりと頷いた。


 次の瞬間――


「すごいっ! あんなに強い魔法を見たのは初めてだ!」

「本当に人間の技なのか……?」

「見たか!? あの動き、教会でも再現できる者はいないぞ!」


 ざわめきが一気に広がり、あちこちから歓声が上がる。信徒たちは興奮したように身を乗り出し、神官たちまでもが感嘆の声を漏らしていた。


「まさかここまでとは……!」

「なんという才能……まるで奇跡だ……!」

「これならいける! 決闘に勝てるぞ!」


 会場は歓声と拍手に包まれ、私たちはあっという間に囲まれた。みんなから称賛を受け、期待され、教会の運命を託された。


 ◇


 その夜――


「なんか、もみくちゃにされて疲れちゃった」

「凄い熱狂だったよな」

「それだけ、私たちに期待を寄せてくれているってことだよ」


 教会から与えられた一室で、私たちはベッドの上にごろんと転がっていた。日中、みんなの前で力を披露したあの瞬間。歓声と拍手、目を輝かせる人々の姿が今でも脳裏に焼き付いている。


 あれは、信徒たちの不安を少しでも和らげたくて私が提案したことだった。結果は大成功。司祭様も感謝してくれて、信徒たちの表情も明るくなった。


 これで、決闘の日――明日までは皆も落ち着いて過ごせるはずだ。あとは、私たちが勝つだけ。そう思うと、胸の奥からじわりと力が湧いてくる。


 ――と、その時。


 視線を向けると、ランカとクロネの様子がどこか違っていた。疲れているはずなのに、二人とも目がきらきらしている。


「二人とも、なんだか元気だね。どうしたの?」


 私が首を傾げると、ランカがぴょんとベッドの上に起き上がり、にへっと笑った。


「あんなに沢山の人に期待されて、なんか良く分かんないけど……すっごく気合入っちゃったんだ!」

「うん……あたしも。あんな風に見られたの、初めてで……嬉しかった」


 ランカは興奮気味にしっぽをブンブン振り回し、対照的にクロネは静かにしっぽを揺らしていた。


「スラムの時は邪魔者を見る様な目で見られていたから、あんなにキラキラした目で見られたのは初めて! ランカ、凄く嬉しい!」

「……あたしも。あんなに期待してくれるのが、こんなに嬉しいだなんて……」

「クロネもランカと同じ気持ちだね! それも嬉しい!」

「なっ、くっつくな!」


 嬉しくなったランカがクロネに抱き着くと、クロネは恥ずかしそうにランカを突き放そうとした。だけど、ランカはそう簡単には離れない。


 二人とも嬉しそうにしっぽを振っているから、その姿を見るだけで私の心はどんどん癒されていく。


 だけど、その時――ランカがハッとした表情になり、しゅんと耳を垂れさせた。


「ランカ、どうしたの?」

「……もし、期待を裏切ったらどうしようって考えちゃった。決闘なんて初めてだから、ちゃんと戦えるか心配だな」


 さっきまであんなに楽しそうだったのに、今はまるで小さな子どもみたいに不安そうだ。私はそっと隣に座り、ランカの頭を自分の肩に乗せて、優しく撫でてあげた。


「大丈夫だよ、ランカ。不安になることなんてないよ。だって、一人じゃないんだから」

「……うん。でも、前みたいにランカが迷惑かけたらって思うと……」

「迷惑だなんて思わないよ。ランカが一生懸命なのは、ちゃんと分かってるもん」


 ヘドロスライムの時のことが頭をよぎったのかもしれない。だから私は、真っ直ぐな気持ちを込めて言葉を重ねる。


「ランカは私たちのことを思ってくれてるでしょ? 私たちもランカのことを思ってる。お互いに思い合ってるなら、迷惑なんてないよ」

「……本当? 思ってれば、迷惑にならない?」

「うん、本当。ね、クロネ?」

「あぁ、そうだ。あたしも……ちゃんと思ってるよ」

「ね? だから大丈夫。この三人がいれば、失敗なんてありえない!」


 励ましの言葉に、ランカの表情がゆるんでいく。安心したように息を吐いたかと思うと――。


「ユナ、ちょっと……いい?」


 次の瞬間、ギュッと強く抱きしめられた。


「わっ!? ら、ランカ!?」

「今、不安を追い出してるから、ちょっと待ってて」


 そう言ってさらに抱きしめる力が強くなる。なるほど、こうして不安を追い出してるのね。


「じゃあ、私も!」


 私も両腕を回して、思いっきりランカを抱きしめ返す。ふたりでギュッと抱きしめ合う。こうしていると、僅かな不安も消えていくようだ。


 その時、こっちを見ているクロネと目が合った。


「ほら、クロネもおいで!」

「えっ!? あ、あたしはいいよ!」


 クロネが慌てて顔を背ける。そんな反応を見たら――やっぱり、いたずらしたくなる。私はランカの耳元でそっと囁いた。


「ランカ、クロネもきっと不安だから、同じことしてあげよっか」

「……うん!」


 私たちは顔を見合わせてうなずくと、そっとクロネの背中に近づき――


「せーのっ!」

「わっ、な、なにをっ!?」


 ドンッと両側から抱きつくと、クロネの体がびくりと跳ねた。


「クロネも不安なんでしょ? だからギュッてしてあげるの」

「べ、別にあたしは不安なんか……ないってば!」

「ふふっ、ほら、三人でギュッとすれば、不安なんて消えちゃうよ」

「ユナは最初から全然不安じゃなかっただろー!」


 クロネが真っ赤になって、じたばたと手足を動かす。でも、ランカも私もその手を離さなかった。


 しばらくそうしていると、ぎゅうっと抱き合う温もりが胸に広がって、不思議なくらい心が落ち着いてくる。


「ねぇ、抱きしめると、不安がどこかへ行っちゃう感じがするね」

「……そんなの、気のせいだ」

「でも、クロネのしっぽが……ほら、嬉しそうに揺れてる」

「っ……こ、これは……違う……!」


 顔を真っ赤にしてうつむくクロネ。でも、その耳の先も、しっぽの先も、わずかに震えていて――まるで嬉しさを隠せないみたいだった。


「えへへ、クロネも同じ気持ちだね」

「三人で一緒にいると、ちゃんと伝わってくるね」

「……うぅ、もう好きにして……」


 クロネが小さく呟いたその声が、どこか優しくて、胸の奥がじんわりと温かくなる。私とランカは目を合わせて、自然と笑みがこぼれた。

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― 新着の感想 ―
なぁ?女神が教会や信者周りを全力防御している所にメテオ落としたらダメ? ???『ちっさいヤツですよね?最大でも空中爆発して窓ガラスが割れる程度で』 ティンタクル「そんな甘い訳ないだろ!あのナメた貴族の…
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