123.思わぬ称賛
ホバーバイクに跨り、山岳地帯を一気に駆け下りていく。数日間にわたる修行はようやく終わり、それぞれ大きな収穫を得た私たちは、目的地であるロズベルク公爵領へと向かっていた。
「いやぁ、楽しい修行だったな! もっと居てもいいくらいだ」
「うん! 新しいスキル技とか、もっと覚えたいし」
「じゃあ次は、魔物がもっと多い地方に行ってみないか? まだ行ったことのない場所なんて山ほどあるぞ」
「わぁ……。違う地方かぁ。どんなところなのか、考えるだけでワクワクするね」
二人は終始ご機嫌だ。クロネは魔物とたっぷり戦えて満足そうだし、ランカは新しい力を得て役立てると嬉しそうにしている。私自身も、魔力の新しい可能性を掴むことができた。
誰にとっても、充実した修行になったのだ。これなら、次にどんな困難が襲ってきても立ち向かえる。
「今度は火山に行ってみないか? 火属性の魔物が多いらしい。今まで戦ったことのない相手だ、きっといい修行になるぞ」
「火属性か……。ランカも、そういうスキル技を覚えられるかもしれないね」
「ちょっと、二人とも! 目的を忘れてない? 私たちはカリューネ教の悪事を伝えるために、ロズベルク公爵様に会いに行くんでしょ」
はしゃぐ二人に、改めて本来の目的を突きつける。そう、修行はあくまで寄り道。真の目的は、公爵に会い、カリューネ教の暗躍を知らせることなのだ。
「……そうだったな」
「そっちのほうが大事だよね……」
私の言葉に、二人はようやく現実に引き戻され、しゅんと肩を落とした。それだけ今回の修行が楽しかったのだろう。浮かれる気持ちは分かるけれど、道を見失ってはいけない。
「じゃあ、急いで山を降りよう!」
「ユナ、頼りにしてるぞ!」
「いっけー!」
賑やかな声に背を押されながら、私たちはロズベルク公爵領を目指して、山岳地帯を駆け抜けていった。
◇
山岳地帯の麓が見えてきた。本来ならば緑豊かな草原が広がっているはずなのに、目に飛び込んできたのは、思いもよらぬ光景だった。
「……あれ、テント?」
「すごい数だな」
「馬車まであるよ!」
広大な草原一帯を埋め尽くすように、無数のテントが張られ、その数に匹敵するほどの馬車が並んでいる。まるで大規模な野営地だ。
こんなところで、いったい何をしているんだろう? そう首をかしげていた矢先、進行方向に慌てた様子の人影が数人、飛び出してきた。両手を大きく振り回し、こちらに合図を送っている。
「……手を振ってる? 振り返せばいいのかな」
「いや、あれは止まれって合図だろう」
「何かあったみたい。止まってみよう」
私たちはホバーバイクを止め、人々が駆け寄ってくるのを待った。息を切らせながら到着した彼らは、開口一番こう叫んだ。
「き、君たち! まさか、あの山岳地帯を通ってきたのか!?」
「はい。そうですけど……」
「じゃ、じゃあ……向こう側から来たってことか!?」
「ええ、その通りです」
「だ、だったら聞くが……魔物の大群に遭遇しただろう!? どうして無事なんだ!?」
最初は何を言いたいのか分からなかったが、最後の問いでようやく理解した。彼らは、魔物の群れがはびこる山岳地帯から、何事もなく降りてきた私たちに驚いているのだ。
「魔物は倒しながら進んできましたから、大丈夫です」
「た、倒しながら……? あの数をか!?」
「そうですね。ざっと数えて、千以上はやっつけたと思います」
「せ、千だと……!? この子供たちが、そんな馬鹿な……! だが無事に降りてきた以上、信じるしか……」
人々は言葉を失い、呆然とした視線をこちらに向けていた。やがて互いに顔を見合わせると、さらに食い入るような眼差しを向けてくる。
「だったら……そこに、ハイオークの群れは居なかったか?」
「確かに群れを成していたはずだが……」
「数は二十ほどだったと思うが……」
ハイオークの群れ、二十体。それなら心当たりがある。
「その群れなら、倒しましたよ」
「えっ!?」
「な、なんだって!?」
「それは本当か!?」
私があっさりと答えると、人々は一斉に目を剥き、今にも飛び上がりそうな勢いで身を乗り出してきた。
「やったぞぉぉぉ!」
「これで山岳地帯を通れる!」
「うおおお! 我らの勝利だぁ!」
次の瞬間、歓声が爆発した。先ほどまで半信半疑で見ていた人たちが、手を取り合って喜び合い、地面を飛び跳ねる。まるで戦が終わった直後の兵士たちみたいだ。
「え、えっと……?」
「何だかすごいことになってきたぞ」
「ランカ、ちょっと怖い」
私たちの困惑なんておかまいなしに、人々は口々に「救世主だ!」「勇者だ!」と叫び、あっという間に周囲の人を呼び集めてしまった。
「みんな! 聞いてくれ! この子たちが、ハイオークの群れを討ち果たしたんだ!」
「それは本当か!」
「ありがたや! ありがたや!」
「宴だぁぁぁ!」
怒涛のような人波に押され、私たちは気づけば野営地の中心へと担ぎ込まれていた。
「わっ、ちょ、ちょっと押さないで!」
「ユナ、肩の上に持ち上げられてるぞ!」
「ひゃあぁぁ!? ランカ、降ろしてぇぇ!」
次々に手が伸び、私たちは半ば神輿のように担ぎ上げられる。歓声は止まず、あちこちから音楽隊まで飛び出してきて、もはや即席のお祭り状態になっていた。
「……ねえ、クロネ。なんでこうなったの?」
「あたしに聞かないで。だが……悪くない気分だな」
「クロネまでノリノリ!?」
晴天に恵まれた空の下、私たちは思いがけず英雄として祭り上げられるのだった。
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