第七十五話・ストーカーからの愛情に救いはない
初対面の人と会話するとき、大多数の人は相手に対して悪意がないと思います。無意識にでも、良い印象を持たれるようにすると思います。
以前、美人なのに、とても冷たい言い方をする人に出会ったことがあります。Eさんとします。誰に対してでもだったので、なぜだろうと思っていました。そのうちに理由がわかった。
Eにはストーカーがいました。好きだと思うあまりに、彼女に振り向いてもらえないなら家族を殺すと言ってきた。ストーカーはEよりも二回り以上の年上で、とても恋愛対象になる人間ではありません。犯罪ですので警察沙汰になりました。
Eは、引っ越しもしたのですが、そのストーカーは特殊な地位についており、調査に必要なスキルを持っていました。つまり、Eの引っ越し先まで調査できた。公的機関に勤務するストーカーは、そういう意味では無敵かもしれません。(まったくの別件ですが恋愛トラブルの相手が弁護士で職権ですべてを知られてしまってトラブルになった話を聞いたことがあります。その話にちょっと似ています)
引っ越し先や転職先まで手紙が来て(メールがない時代の話し)時間をやりくりして、勤務先の建物の出口で待っている。相手にも家族がいるはずですが、見放されているのか放し飼い状態。
そんな折、桶川ストーカー殺人事件が発生しました。被害者とその家族にとってはあまりに惨い事件で、それをきっかけにストーカー規制法ができました。ストーカーということばもない時代に、必死で被害を訴えているのに警察の対応もひどすぎた。結果として殺されてしまった。警察は殺されてからでないと、動いてくれないという意識も埋め込まれたのも、この事件がきっかけです。
誰しも、ひどい目にあいたくない。自己都合しか考えぬ人間に振り回される人生は歩みたくない。Eさんのストーカーのように、失うものがなにもない状態はたとえ警察から勧告を受けても平気です。なりふり構わない人だった。
Eさんへの恋心を切々を訴えてはいますが、同時にその思いに答えないと殺して自分も死ぬからと平気で言う。縁を切りたいのに追いかけてくる。恐怖でしかありません。Eさんは、相手と二人きりで話したこともなにもない。それなのにストーカーにとっては、結婚の約束をしたことになっている。私にもストーカーがいましたが、まだ軽度でよかったとは思うほどだ。思い込みが強すぎた。Eさんの同僚が防御してもつっかかってくる始末。
愛情があふれて抑えきれないとストーカーは言うが、Eさんはそう思っていない。Eさんの態度や嫌悪も感じない。最低限のマナーが理解できない。そんな人間は確かに存在する。これに関わることは試練でもなんでもない。ストーカーのその熱情に神は不存在。時には警察や弁護士の力も借りて、全力で逃げるしかない。
Eさんはそれをなんとかやり遂げたが、初対面の人間には絶対に笑いかけたり、世間話をしなくなった。ストーカーを新たに作るぐらいなら、初対面の印象が悪い人間のレッテルを貼られた方が数倍マシだからね……同情している。
下記は桶川事件のウィキペディアです。被害者とその家族が何度も被害を訴えているのに警察の怠惰さとスルー加減さに戦慄。ストーカー規制法の元になった事件です。被害者の冥福を祈っています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%B6%E5%B7%9D%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6




