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第五十七話・人に見下げられるということ


 今回は狭い閉鎖的空間の職場における、嫌がらせについての話です。

 勘違いでもない。

 思い違いでもない。

 ⇒ ⇒ ⇒ でも、他人にそれを理解してもらうために、こちらから確たる証拠が出せない。

 ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒  だからそのもやもやとした感覚が誰にも理解してもらえない。

 

 結論は出せません。

 

 今回はその話。


 私は聴覚が劣っているため両耳に補聴器をいれて仕事をしています。幸い職場に恵まれ「それ」 を承知で雇っていただいています。正直に書けば聴力に関して気を使われながら仕事をするのは不本意です。この状態は変えようがない。そのため、私は「いつでも感謝の心を持たないと仕事にならない」 立ち位置です。

 この二つの理由がため、最低限人さまに迷惑をかけまいと思って生きています。そもそも私は実母から聴力が悪いことに罪悪感を持たされていました。精神的にも生きづらかったのですがさすがに年をとった今はもう開き直っています。

 でも聴力の悪さって性格が悪いよりもずっとマシな話のはず。私は聴力が悪いがため、その立場の弱さを利用して性格の悪い人から見下げられることがあった。でも気が弱かったため、我慢するしかなかった。この年になってようやく反撃できました。

 このたびの相手は私より二十才年下の医療事務員です……Uとします。三十代後半の独身女性。医療事務として二番目の古参です。Uと私は親子ほども年が離れている上に、職種も違うのに見下げられる私って何だろう。私は非常勤の立ち位置で職場でも目立ったり前に出るタイプでない。そこが甘く見られたのかも。


 結論から先に書いておきますが、この件でUに対して不快だと直接伝えかつ叱ったのですが、Uは謝罪せずあくまで誤解だと主張しました。耳が悪いからとバカにしたりはしません、です。こちらは証拠が提示できず、大変もどかしい思いをしました。

 ↓ ↓ ↓

「人から見下げられたと感じるのは、「主観」 になる。故に見下げられたと感じた当人から証拠が提示できない」 

 ↑ ↑ ↑

 上記がイラクサです。これでこの話は終わりです。以下は長い補足になります。お時間のある人だけお読みください。




 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」




(補足)

 最初から書いてみます。

 私の勤務先の調剤薬局は私のような薬剤師と医療事務員との仕事の内容が明確に分かれています。日常的に会話が必須であるので事務員も、私の聴力の悪さに関して配慮していただいています。大きめの音声で区切って話す。聞こえてないとわかれば、都度声をかけていただく。面倒でも新入りの人が来たら私から声をかけて配慮をお願いします。患者に対してはまた別件で配慮していただいています。

 だから聴力面が原因でトラブルをおきたことがないのですが、それを逆手にUから嫌がらせをされていました。それも周囲に人がいないときに限って。先に書きましたがUは、三十代後半の独身女性。職種自体違うのにどうやって敵意を示せるのか。


 その薬局独自のやり方になりますが、患者が処方せんを持参したら、まず事務員が受け取り、それから保険番号や処方内容などを入力、計算をすませつつ処方せんを薬剤師にまわす。しかし、FAX処方せんの場合は患者が来客するまでに調剤をすませておく。出来上がった薬は受け取りに来られるまでに事務室所定の場所に保管します。当たり前ですが外部の人が勝手に持って行かないようにしています。

 そして患者が来局されたときは事務員が薬が入っている保管ボックスから取りだし、薬剤師に渡す。患者にはその薬を最終監査をした薬剤師が交付する。

 ところで私は非常勤でもありますし、常勤とは別の離れたデスクを借りていますが、Uに限って私に処方薬を渡す時は薬を放り出すように無言で投げていく。昨今のコロナ禍のせいで皆マスクをしていますので、声をかけられているにもかかわらず、私が聞こえてなかったせいだと思っていました。しかし聞こえてないとみると、U以外はちゃんと私の目をみて再度話しかけてくる。Uも室内に誰かがいるときは、「交付をお願いします」 とはっきりという。でも私が一人いるときは放り投げていく。私の耳では足音が聞こえないので、いきなり薬の袋が出現してびっくりします。投げられた方向を見るとUの後姿が見える。それが何度か繰り返され、鈍い私でもUが変だと気づきました。

 周囲に誰もいないときに限って敵意を示したり、お前のこと嫌いだからねとわからせるのは、学生時代によくやられた手です。

 が、Uとは親子ほども年が違うし、職種も違う。プライベートのことはお互いに知らない。私には心当たりがまったくありません。Uの仕事ぶりはまじめだと思います。ただ調剤補助に回ってきたときに、体調が悪かったのか調剤過誤を連発したことがある。局長不在の時で「落ち着いてほしいと」 と注意したうえでその日の調剤担当をはずしたことがあります。それが恨まれているのか。接触があるとすればそれぐらいしか考えられない。それ以外ならUの性格や仕事環境のストレスが原因かと考えました。

 Uに関しては事務長が先年定年退職した時に、次の位置に収まるかと思っていたら、私とあまり年齢が違わない人(五十代後半)が他店舗から異動してその座に収った。時期的にそこから開始されているので、人事のうっ憤を私に対する動作で発散しているかと思いました。

 とにかく薬を放り投げるようにされるのは、不快でもあるし、第一患者にとっても失礼です。私は内緒話や陰口などの小声で話すやり口は聴力の問題もあってできません。そのかわり、人にはなんでも本音で話すようにしています。Uに対しても行動に対しての不審を本人に直に話しました。最初は第三者として局長に訳をはなして雑談と言う形で注意をしました。そのときは「わかりました」 と言いましたが、また「それ」 がぶり返されました。今度はコロナウイルス予防のための消毒や換気の徹底で事務の仕事が増えたうっ憤晴らしかと思いました。


 Uにとっては、薬剤師の中で私は一番弱い立場です。コロナ禍で私以外の非常勤薬剤師は退職しました。生き残りが私だけ。私は施設監査をすることが多いので調剤現場にいず、周囲に人がいないところで黙々とやっていることが多い。開店から閉店までいる常勤相手にうっぷん晴らしはできない。私は週に数回しかいないし、外部からの電話も取れない。それで、嫌がらせがやりやすいかと思いました。その推測が当たっていればUのやり方は大変卑怯です。

 それが続き私もとうとう我慢の糸が切れてしまいました。調剤場で私が調剤をしていたら、Uが処方せんを私の手から無言でひったくって持って行きました。一言も何も言わずに。Uは一線を越えたと感じた。

 事務処理のために持って行きたいなら一言あるべきです。調剤室で騒ぐのは患者に丸聞こえなので、その場でいうのはあえて我慢しました。患者のいなくなった時に第三者のいる前で、あらためて注意をしました。

「調剤中の私の手元にある処方せんをひったくるようにしてやるやり方をするのはおかしい。また周囲に人がいないときに限って薬を放り出して交付させるやり方はとても卑怯だ」

 ところがUは認めない。一度目のように誤解だという。私とて第三者にいる他の事務員や薬剤師に対してその件に対する証明はできない。くやしい……とうとう私はUに怒鳴ってしまいました。

「Uさん、あなたが私に対してすることは、小さい子がやるいじめと思わないのか。しかもこの話をするのは二度目で、一度目は局長が同席していた。二度目が今。何年ここで働いているの? いい年して子どもみたいな嫌がらせをして楽しい? 薬は患者にとって大事なもの。それをうっぷん晴らしの道具にして何がおもしろいの」

 奥にいた局長が飛んできて「どうしたの」 といってきました。

 Uは嫌がらせをしたと認めず、「私の声が小さいがため、誤解をしている」 と主張する。私は本当に頭に来ました。でも証拠が提示できない以上、水掛け論です……くやしい。Uのふてぶてしい態度に私はこぶしを握り締める。普段は黙々と仕事をする私が騒ぎを起こしたことはなく、よほどのことと思ったのか翌日私のいないところで社長がUを呼んで問いただしたそうです。そこでもUは誤解だと主張した。

 社長すら、その主張に強く言えないのは当たり前。この人は金融機関の役職の天下りで入出金関係には強いが現場を知らない。Uを呼ぶなら、ぜひ私を呼んで同席させてほしかった。Uの過去は知らぬが、こんなことが平気で出来るのは学生時代や前の職場でもやっていたのではないか。Uのような卑怯者から見下げられるのが私の人生かと思いました。そして、この繰り返しは絶対に嫌でした。

 しかし、証拠を提示できない以上は局長も社長もどちらの味方もできないし、かつ私もまた引き下がるしかありません。


 うっぷん晴らしの道具に患者の薬を使ったことも誠に許しがたい。でも立場上、なんらかの形でまとめざるをえず、私はくやしい思いを隠して「聴力のこともあるし、この点は皆に気遣って仕事をさせてもらわないといけない立場であること」 をもう一度Uに伝えました。

 Uは「今後は誤解を招くような行為をしません」 と言うだけ。

 そのふてぶてしいUの顔面を思い切り殴ることができたら、どんなにすっきりするだろう。でもそれをやるのは犯罪です。今度も私はここで働いてお金を稼がせてもらわないといけません。


」」」」」」」」


 いじめも嫌がらせもなんでもそう。加害者側には、常に抜け道や言い逃れができる。被害者側はそれを証明しないと認めてもらえぬ立場。その証明が難しい。

 今回で唯一よかったことは、過去の私と違って不快感を率直に伝えられたことです。それだけだが、それでは何も変わらない。

 その後、狭い職場ながら、Uは私と接触しないようになりました。同僚は賢い人ばかりなので、私には慰め顔で聴力の悪さにコンプレックスを感じる「必要性はないのに」 と言われるだけでした。

 騒ぎを起こしたのは間違いなく私ですがその原因を作ったのは間違いなくUです。もやもやを感じるのは私のいたらなさだし、Uのような人間が私に関わるのも私の不徳です。この件を文面に表現するのも修行だと思っているが、果たしてどのぐらい伝わるか。

 私のような中途半端な聴力の悪さが、人の悪い面を引き寄せてしまうというのは今まで生きていて何度もあった。実の親でさえ、私の聴力を恥じて隠そうとしていた。Uのしたことはその延長にある。それを再認識した出来事です。



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