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お姉さんと僕  作者: 埴輪庭
第3章

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【東京】サバイバル情報交換スレ Part.15【終了】


陸上自衛隊練馬駐屯地からほど近い多摩川の河川敷。

土嚢と鉄条網で築かれた監視拠点で、木下三曹は双眼鏡を覗いていた。


レンズの向こうに広がるのは、変わり果てた東京の姿だ。

だが天を衝くビル群は見えない。


紫色のドームが東京全域を覆い隠している。

ドームの表面は時折オーロラのようにゆらめき、不気味な光を放っていた。


「……今日も異常なしか」


隣で同じく監視を続けていた先輩、佐藤一曹が吐き捨てるように言った。

異常なしどころか異常しかない事を皮肉っているのだ。


「はい。霊波レベル、物理的干渉、共に変化ありません」


木下は双眼鏡から目を離さずに答える。


“あの日”から三ヶ月。


新宿上空に紫の光の柱が立ち上り、ドームが東京23区を覆い尽くしてから世界は一変した。


ドームはあらゆるものを拒絶する。


物理的な攻撃は言うに及ばず、電波も、霊的な干渉さえも。内と外は完全に隔絶された。


「北米軍の偵察衛星も、欧州連合の霊的観測網も、結局何も分からなかったらしいな」


佐藤が空を見上げる。


「中がどうなってるのか、誰も知らない」

「……」


木下は黙って双眼鏡を覗き続ける。

ドームの向こう、霞んで見えるビル群。

あの中に、まだ生き残っている人々がいるのだろうか。

家族は、友人は、無事なのだろうか。


そんな不安を誰もが抱えている。

だが助けに行くことはできない。


ドームに触れた航空機は原因不明の機能不全を起こして墜落し、内部を念視しようとした異能者はドームに近づくだけで精神に異常をきたした。

言ってみれば、東京は巨大な棺桶と化したのだ。


「他国からの支援も期待できそうにないですしね」


木下がぽつりと呟く。


「当たり前だ」


佐藤は自嘲気味に笑った。


「自分たちのことで手一杯なんだからな、どこもかしこも」


情報は断片的にしか入ってこない。

だが、世界中が混沌に陥っているのは間違いなかった。


アメリカではイエローストーン国立公園の超巨大火山が噴火の兆候を見せ、数百万人が避難を余儀なくされているという。

ヨーロッパでは黒死病を彷彿とさせる未知の疫病が猛威を振るい、主要都市が次々と封鎖されている。

中国では内陸部で原因不明の大規模な地盤沈下が発生し、数千万人が家を失った。


しかもそういった災害が単発ではなく立て続けに、各国各地で頻発している。

ゆえにどの国も他国を気遣う余裕などなかった。


不思議なのは、そういった災害が()()()()()()()()()()()()()という点だ。地震大国として悪名高い日本であるので、南海トラフ級の地震なりなんなり起こってもおかしくはないところなのだが──


「せめて祈るくらいしかできねえな」


佐藤の言葉に木下はただ黙って頷くことしかできなかった。


◆◆◆


【東京】サバイバル情報交換スレ Part.15【終了】


1:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

もう3ヶ月か…

スレ立て乙


2:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

乙。

外はどうなってんだろな。このドーム、いつか消えんのかね?


3:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

消える前に俺たちが消えそうだけどな

食料、そろそろ尽きてきた奴多いだろ


4:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

うちはまだ缶詰が2週間分ある

でも水がヤバい。雨水濾過してるけどいつまで持つか


5:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

浄水場はだいたい武装グループが押さえてるからな

近寄るだけで蜂の巣にされるぞ

なんで銃器もってるんだよ


9:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

ゾンビ肉は食える?

大田区、ゾンビだらけなんだけど


10:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

>>9

やめとけ。絶対に腹壊す。

つーか、下手したらお前もゾンビになるぞ。

常識で考えろ。


11:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

その常識が通用しない世界なんだよなぁ…


12:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

巨大ゴキブリは? 羽根の部分がパリパリしてて美味そうなんだが。


13:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

>>12

チャレンジャー乙。

結果報告待ってる。生きてたらな


14:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

最近、怪異の種類も増えてないか?


15:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

こっちは人面犬の群れだわ

しかも「宿題やったか?」とか聞いてくる。うぜえ


16:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

池袋周辺の奴、いる?


17:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

>>16

いる


18:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

>>17

まじか。もし移動の予定あったら一緒にいかないか?池袋は治安悪すぎてきついわ


19:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

>>18

あー……役所の連中な。あいつらには気をつけろよ。攫ってくるぞ

噂によると、異能者の肉を食えばもっと強くなれる、みたいな話があるらしい

それはそれとして、移動はまだ考え中。家族とかもまだ帰ってきてないんだよ、死んだかどうかもわからねえし……


20:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

俺も家族まち。合流しようにも連絡とれないからな。結局、家で待ってるのがベストってことになる


36:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

日本どうなるんだろうなあ。終わり?


37:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

>>36

終わるっていうか、作り変わるんじゃね?

氷室の演説通りにな。異能者優遇政策とか、覚醒推進プログラムとか、今思えばこうなる事を知ってたみたいな……


38:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

あの演説、今思うと予言だったよな

「変化を恐れるな、進化を受け入れよ」ってか

冗談じゃねえ


39:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

でも、異能の有無で生存率が違いすぎるのは事実だ

無能力者はマジで生き残れん


40:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

俺、念動力で空き缶動かすくらいしかできないから無能者と同じだわ


41:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

問題は、あの塔だよな

絶対あれが全ての元凶だろ。「あれはやべえよ」って寺生まれの高橋先輩が言ってたぞ


42:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

近づくだけで吐き気するもんな

半径1キロ以内はもう魔境だよ

見たこともない化け物がうようよしてる


43:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

誰か都庁に特攻した勇者はいないのか?


44:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

>>43

いたらとっくに死んでるやろ


45:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

でも、いつまでもこのままじゃジリ貧だ

誰かが何とかしなきゃ


46:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

誰かって誰だよ


47:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

結局、信じられるのは自分の力だけか


48:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

あと、この掲示板の情報だな。マジで助かってる


49:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

だなあ。まあ明日もなんとか生き延びようぜ、お前ら


50:以下、名無しにかわりまして霊がお送りします

おう。あとゴキブリ美味しかったぞ

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最近書いた中・短編です。

有能だが女遊びが大好きな王太子ユージンは、王位なんて面倒なものから逃れたかった。
そこで彼は完璧な計画を立てる――弟アリウスと婚約者エリナを結びつけ、自分は王位継承権のない辺境公爵となって、欲深い愛人カザリアと自由気ままに暮らすのだ。
「屑王太子殿下の優雅なる廃嫡」

定年退職した夫と穏やかに暮らす元教師の茜のもとへ、高校生の孫・翔太が頻繁に訪れるようになる。母親との関係に悩む翔太にとって祖母の家は唯一の避難所だったが、やがてその想いは禁断の恋愛感情へと変化していく。年齢差も血縁も超えた異常な執着に戸惑いながらも、必要とされる喜びから完全に拒絶できない茜。家族を巻き込んだ狂気の愛は、二人の人生を静かに蝕んでいく。
※ カクヨム、ネオページ、ハーメルンなどにも転載
「徒花、手折られ」

秩序と聞いて何を連想するか──それは整然とした行列である。
あらゆる列は乱される事なく整然としていなければならない。
秩序の国、日本では列を乱すもの、横入りするものは速やかに殺される運命にある。
そんな日本で生きる、一人のサラリーマンのなんてことない日常のワンシーン。
「秩序ある世界」

妻の不倫を知った僕は、なぜか何も感じなかった。
愛しているはずなのに。
不倫を告白した妻に対し、怒りも悲しみも湧かない「僕」。
しかし妻への愛は本物で、その矛盾が妻を苦しめる。
僕は妻のために「普通の愛」を持とうと、自分の心に嫉妬や怒りが生まれるのを待ちながら観察を続ける。
「愛の存在証明」

ひきこもりの「僕」の変わらぬ日々。
そんなある日、親が死んだ。
「ともしび」

剣を愛し、剣に生き、剣に死んだ男
「愛・剣・死」

相沢陽菜は幼馴染の恋人・翔太と幸せな大学生活を送っていた。しかし──。
故人の人格を再現することは果たして遺族の慰めとなりうるのか。AI時代の倫理観を問う。
「あなたはそこにいる」

パワハラ夫に苦しむ主婦・伊藤彩は、テレビで見た「王様の耳はロバの耳」にヒントを得て、寝室に置かれた黒い壺に向かって夫への恨み言を吐き出すようになる。
最初は小さな呟きだったが、次第にエスカレートしていく。
「壺の女」

「一番幸せな時に一緒に死んでくれるなら、付き合ってあげる」――大学の図書館で告白した僕に、美咲が突きつけた条件。
平凡な大学生の僕は、なぜかその約束を受け入れてしまう。
献身的で優しい彼女との日々は幸せそのものだったが、幸福を感じるたびに「今が一番なのか」という思いが拭えない。
そして──
「青、赤らむ」

妻と娘から蔑まれ、会社でも無能扱いされる46歳の営業マン・佐々木和夫が、AIアプリ「U KNOW」の女性人格ユノと恋に落ちる。
孤独な和夫にとって、ユノだけが理解者だった。
「YOU KNOW」

魔術の申し子エルンストと呪術の天才セシリアは、政略結婚の相手同士。
しかし二人は「愛を科学的に証明する」という前代未聞の実験を開始する。
手を繋ぐ時間を測定し、心拍数の上昇をデータ化し、親密度を数値で管理する奇妙なカップル。
一方、彼らの周囲では「愛される祝福」を持つ令嬢アンナが巻き起こす恋愛騒動が王都を揺るがしていた。
理論と感情の狭間で、二人の天才魔術師が辿り着く「愛」の答えとは――
「愛の実証的研究 ~侯爵令息と伯爵令嬢の非科学的な結論~」

「逆張り病」を自称する天邪鬼な高校生・坂登春斗は、転校初日から不良と衝突し警察を呼ぶなど、周囲に逆らい続けて孤立していた。
そんな中、地味で真面目な女子生徒・佐伯美香が成績優秀を理由にいじめられているのを見て、持ち前の逆張り精神でいじめグループと対立。
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「キックオーバー」
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