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12:人類を殺そう!!!

【帝国コソコソ噂話】


・前回飛んでいったエヴァンジェリンさんの脳みそは火星のあたりを漂ってるよ!



 ――コキュートスの地で巻き起こった大戦争から一週間後。かの戦いは、帝国民全てに知れ渡るほどの伝説となっていた。


 各地の酒場で吟遊詩人が朗々と語る。女帝エヴァンジェリン率いる暗黒騎士団十万を相手に、無辜むこの民草を率いて戦った英雄の武勇譚を。


 彼はコキュートスの住民たちを決起させただけではない。その武力と慈愛の心によって、邪悪なる魔物たちを改心させて仲間にしてみせたというのだ。

 そうして魔物と手を取り合いながら戦い、激戦の果てに騎士団を討ち滅ぼしたのだった。


 その勇敢さは、女帝エヴァンジェリンの心を強く打った。

 彼女は深々と大地にひれ伏し、『貴方がこの国にやってきてよかった! 貴方こそ、ジュデッカ帝国の王に相応しきお人です!』と宣言し、かの英雄に王位を譲ったのだった。


 こうしてジュデッカ帝国に新たなる帝王が誕生した。

 その名は『レイン・ブラッドフォール』。超新星のごとく現れた、民衆たちの新たなる指導者である。




 ◆ ◇ ◆




「ふーはっはっはっはー! まさか王様になれちまうなんて、やっぱり冒険者は最高だな! おいベアト、もっと酒を持ってこい!」


「はいですわレイン様っ! もはや冒険者とか全然関係ない気がするけど持ってきまーす!」


 下品に乳を揺らしながら厨房に向かうベアトリーチェを横目に、俺は玉座に深々ともたれかかった。

 いやー流石は帝王の広間だけあるなぁ。壁も床も全部キラキラの大理石で出来ていて、調度品も全て一級品だ。かといって豪奢すぎるわけでもないし、良い趣味してるじゃないか。


 改めて機嫌がよくなった俺は、側に立っているドレス姿の女に話しかける。


「前の女帝はなかなかの美的センス持っていたらしい。褒めてやるぞ、エヴァンジェリン?」


「――えへ~、ありがとうございましゅご主人様~!」


 そう言うと『女帝エヴァンジェリン』は、とろけたような笑顔を浮かべて俺にベタベタと抱き付いてくるのだった。


 まっ、こいつはあくまでも偽物なんだけどな! 俺がスムーズに帝王になれるよう、エヴァンジェリン自身の口から家臣や国民たちへと王位継承の宣言をさせるために用意したダミーだ。

 だけどそれを見抜ける奴はいないだろう。だって身体だけは、本物のエヴァンジェリンの物なんだからなぁ!


「みんな思わないだろうなぁ。まさかお前の中身が、下水道で捕まえてきたスライムだなんてな! どうだ、人間の身体を動かすのには慣れてきたか?」


「はいっ! エヴァ、ご主人様のためにいっぱい練習しまひた~!」


「うむ、いい子だ」


 凛としたエヴァンジェリンの顔で、アホな笑顔を浮かべたスライムを撫でてやる。


 それにしても上手く融合できたみたいでよかったよかった。元々、スライムという魔物は毒水だろうが吸収して自身の身体に変えられる万能性質があったからな。どっかの地方には小動物に変身して擬態できるスライムもいるらしい。

 だったら、人間の細胞とも癒着出来るんじゃないかと思って試してみたらこの通りだ。

 脳みそが吹き飛んだエヴァンジェリンの頭部にスライムをギュポっと詰めてみたら、脊髄と上手く繋がることに成功した。

 今では各種神経ともしっかりとくっ付き、表情も変えられるし性感帯まで機能してるようだ。

 欠損した頭蓋骨部も、その辺の死体の頭をかち割って貼り付けたら元通りになったし、もはや普通の人間だな!


 まぁ、少し変わってるところもあるんだけどな。


「ご主人様ご主人様~。エヴァ、喉が渇きましたのでちょっと路地裏で人間をチューチューしてきま~す!」


「おう、タトゥー入れてる奴なら全員悪い奴だから襲っていいぞ。ただしバレないようにな」


「はい~!」


 そう言うと、時速500キロを超えるスピードで走り去って行くエヴァンジェリン。その身体能力は明らかに一般的な人間を超越していた。


 アイツ、元々がスライムなだけあって栄養たっぷりな人間の血液が大好物なんだよなぁ。喉が渇くとああして襲撃しに行くのだ。

 さらに人間の身体と融合したことで新たな能力に目覚めたらしく、噛まれた相手の中に『スライム細胞』なるものを送り込み、脳みそを乗っ取って自分と同じスライム人間にしてしまうらしい。そうなったら完全に母体であるエヴァンジェリンの奴隷だ。

 あと怪我をしてもその箇所にスライム細胞をかき集めてすぐに再生できるようになったらしい。いやぁ便利なもんだな~!


 まっ、弱点もあるんだけどな。元は液体生命のスライムなだけあって、日光や火を嫌がったり、それと人間の身体に完全に慣れたわけじゃないから、溺れるかもしれない流水や匂いがきついニンニクを嫌ったりとか。あと心臓が止まってるから身体が冷たかったりな。


 そんな風に欠点も多いけど、奴隷を無限に増やしまくれる能力は実に俺好みだ!

 俺の手下であるエヴァンジェリンの奴隷ってことは、つまりは俺の奴隷ってわけだし、どんどん奴隷を作ってこいよエヴァンジェリンッ!


「ふふふふ、流石は正義の英雄レイン・ブラッドフォールだ。世界を平和にする新種の魔物をうっかり作り出してしまったぜ!

 学名はそうだなぁ……血を吸うし、東洋の鬼って魔物みたいに力が強いから、『吸血鬼』でいいか! ガハハ、正義のモンスター爆誕だ!」


 あぁ~期待に胸が膨らむな~!

 惑星全ての人間たちが俺と同じ『正義の精神』に目覚めた天国のような世界を思い描きながら、俺はぐっすりとお昼寝することにしたのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] そう言うと、時速500キロを超えるスピードで走り去って行くエヴァンジェリン。 はははは。
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