10:殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい!!!!!!!!!!
作者の頭ベアトリーチェって感想をもらった時はすごく傷付きました……。
「さぁ騎士たちよ、突き進むのだッ! 悪の巣窟を殲滅せよッ!」
「「「イエス・ユア・マジェスティッ!!!」」」
銀の鎧を煌めかせた十万もの騎士たちが、コキュートスの地に向かって進撃を続ける。
そんな彼らを鼓舞するのは、この『ジュデッカ帝国』の支配者・女帝エヴァンジェリンに他ならない。
四頭の馬に引かせた巨大なチャリオットの上に立ち、勇猛果敢に激励を飛ばすエヴァンジェリン。
篭手などが施された麗しき戦礼装を纏った姿は、まさに戦乙女のように美しかったが――彼女の心境は荒れに荒れていた。
(クソクソクソクソクソクソクソッ! あの男を国に引き入れたのは間違いだったッ!)
エヴァンジェリンは内心怒り狂っていた。彼女はこれでもかというほどの憎しみを込めて、心の中で全ての元凶『レイン・ブラッドフォール』を虐殺する。
隣国からの通達を受け、エヴァンジェリンはレインのことを知っていた。何やら民衆に圧制を強いた極悪貴族の末裔らしく、十代も半ばという幼さから死罪ではなくこちらに国外追放したいとのことだ。
その時のエヴァンジェリンは、“ボンボンの悪ガキなんて、頼れる者のいない土地に放り出されればすぐに死ぬだろう”と思い、適当に要望を聞き入れてしまったのだが――彼女はその選択をわずか一か月ほどで後悔することになる。
つい先日……大臣や多くの有力者たちが羽を伸ばすために行っていた人身売買オークションの場で、大虐殺が巻き起こったのである。
これによってジュデッカ帝国は内政面で大打撃を受け、さらには隠蔽工作の手が遅れたことで、民衆たちにも多大な不信感を与えてしまう結果になったのだった。
息抜きは必要であると考えてせっかく悪辣な趣味も黙認してやっていたというのに、面倒なことになってしまったと溜め息を吐くエヴァンジェリン。
そんな時、彼女は思わぬ名前を聞くことになる。部下の報告の一つに、こんなものがあったのだ。
“とある死体のすぐ側に、血文字によってレイン・ブラッドフォールという名前が書かれていた”と……!
――そうなれば答えは明白である。一か月前に何の気なしに引き入れてしまったレインという男こそ、大虐殺を巻き起こした張本人に他ならない!
実際に彼が住んでいるコキュートスの街に調査員を向かわせてみれば、レインの独断で多くの魔物や魔族が住み着き、さらには領主であるベアトリーチェにメイド服を着せて性奴隷にしているという地獄のような事態になっていた。
行商人に変装してベアトリーチェから情報を聞き出そうとした調査員に対し、彼女は腹部を撫でながら切なそうにこう語った。
『ごめんなさい、レイン様の命令で他の男性とは口が利けませんの……ッ! 彼はわたくしのことを死ぬほど束縛しまくっていて、他の男性の匂いでもつけて帰ろうものなら、朝まで監禁調教ファックされまくってお腹の赤ちゃんまで孕んでマトリョーシカになってしまうに決まってますわッ! うわぁ~んいくらわたくしのことを愛してるからって“70億人産ませて新世界の神になる!”だなんて無理すぎですわよォレイン様~!』
“愛され系女子すぎてツラみがヤバイですわー!”と意味不明のことを叫びながら走り去っていくベアトリーチェ。
いい歳をしているというのにパッツンパッツンのメイド服を着て爆乳を揺らし、イヌ耳と尻尾を恥ずかしげもなく付けた姿からは、まるで知性というものが感じられなかった。
……そんな彼女の明らかに脳みそを破壊された有り様に、調査員たちと報告を受けた女帝エヴァンジェリンは確信した。
一人の女性を、あんな下水道でネズミの死骸を相手に腰を振ってる野良犬よりも憐れな状態にしてしまったレインという男は、今すぐにでも抹殺しなければいけない『悪』であると!
そう思ったら話は早い。エヴァンジェリンは彼を討ち取ることを決意し、民衆たちの不信感を逸らす矛先としてコキュートスの住民ごと大虐殺を行うことにしたのだった。
それは国民感情を安定させるための策であるのと同時に、魔物たちと普通に同居している異常な生活ぶりから、住民たちもレインによって精神を狂わされてるのだろうと思っての判断である。
「さぁ騎士たちよ……断罪の刃で、罪人どもの魂を救ってやるのだ……!」
女帝エヴァンジェリンはベアトリーチェという女に憐れみと共に感謝をささげる。
彼女があそこまで人間的に終わっている姿を晒さなければ、エヴァンジェリンは住民全ての処刑という判断は下せなかっただろう。
人々がベアトリーチェと同レベルで精神を狂わされているのなら、もはや救いようがないはず。そう確信できたからこそ、女帝エヴァンジェリンは非情な命令を出せたのである。
こうして彼女が率いる十万を超える騎士たちは、ついにコキュートスの領地へとたどり着いた。
隊列を組みなおし、突撃の瞬間を待つ騎士たち。そんな彼らへと、エヴァンジェリンが殲滅の号令を下さんとした――その時。
「――お前たちが、この正義の英雄に逆らう罪人どもかァァァァアアアッ!!!」
怒り狂った男の声が響き渡るのと同時に、コキュートスの街より巨大な屋敷が投げつけられてきたのである――ッ!
「なっ、なにぃいいいいいいいいッ!?」
咄嗟にチャリオットから飛び降りて地に伏せるエヴァンジェリン。
投射された屋敷はそんな彼女の頭上を駆け抜け、数万人の騎士たちを一瞬にしてミンチにしていった――!
「ぐぎゃあああああああああああああッ!?」
「や、屋敷が飛んできただとぉ!? いったい何が起きてるんだぁぁああああッ!?」
大量の鮮血が大地に撒き散らされ、大気は臓物の悪臭に染まっていく。
ああ……三秒である。コキュートスの地に踏み入った瞬間より、わずか三秒後。帝国最強の騎士団は、見るも無残に半壊してしまったのだった。
「ぅ……嘘だ……私の騎士たちが……ッ!」
響く絶叫と嗚咽の中、呆然と呟く女帝エヴァンジェリン。
彼女はふらふらと立ち上がり、屋敷が放たれてきたほうを見た。そこには、
「……我が名はレイン・ブラッドフォール。正義の名の下に、貴様たちを断罪するッ!」
『グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』
――そこには白銀の髪を揺らめかせた美貌の少年が、数千体の魔物たちを背に立っていたのである。
「あっ、ぁぁああぁあぁぁ……ッ!?」
大地を埋め尽くした魔の軍勢と、そして何よりもレイン・ブラッドフォールの姿に対し、エヴァンジェリンは恐怖に震えた。
高らかに掲げられた彼の片手には、巨大な『古城』が持ち上げられていたのだから……!
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