追章 阿吽の呼吸
夜更け過ぎ、門限を大きく破った悪い子を待っていたのは阿形像と吽形像。
オラが村の門の前にて二体の仁王様が怒りを浮かべておりました。
そうだった、俺が旅にでる度に何かが建立されるシステムだった。
竹さんのアーマーはミリヲタ村長こと秋人の土饅頭に被せてきた。
これから秋が来て寒くなる。
その銀色サウナスーツに加えて竹アーマーがあれば冬場でも汗だくだろう。ざまぁ見ろ。
もう、俺には必要ない。
必要になることなんて、しない。したくない。
……まぁ、持って帰るには重かったと言う理由が一番なんだけどね? 色んな意味で、重かった。
さて、問題は二体の仁王様。翔子像とシロ様像だ。
なんと言い訳したものやら?
「なにか、翔子ちゃんに言うことは?」
「わ、私もです。私にも言うことは?」
うん、そうだな?
どう答えよう?
……よし、決めた。
「愛してる。ただいま」
おや、Wアカ様というのは珍しい。
その表情は怒っているのか照れているのか恥ずかしがっているのか、女心は解らんな。
「おかえりぃ、鷹斗ぉ、遅いよぉ? 心配しちゃったんだよぉ?」
「おかえりなさい、鷹斗さん。女の子を二人も心配させちゃ駄目ですよ?」
「ごめん、心配かけた。ごめん」
汗だくで、泥だらけで、血だらけだったけれど、二人は何も聞かないで居てくれた。
秋人の怒りは竹さんをちょっぴりだけど貫いていたんだ。
ちゃんと一矢は報いられていたらしい。ホッとした。
帰り道の途中でわき腹がズキズキして痛いなぁと思っていたら、血が出ていた。
筋肉の痛みじゃなかった。……鈍すぎないか、俺?
暗がりでは解らなかった泥と血の区別が付いた途端、二人がオロオロとし始めた。
シロ様、傷口を焼くとかそんな恐ろしいこと言わないで?
翔子、手で傷口を押さえるの、それ、傷口を抉る行為だから止めて? 凄く痛いよ?
元々、皮下脂肪の層で止まっていた刃先。
腹膜までは傷つかなかったため、内臓は無事に済んだようだ。
皮下脂肪のお陰で助かったのか、皮下脂肪のお陰で窮地に陥ったのか、敵か味方か我が体脂肪。
……味方、だよな。
お前のおかげで翔子の心を助けられた。
お前のおかげでシロ様のハートを射止められた。
お前のおかげで島中の皆を説得することが出来た。
すげぇよお前。ただの脂身なのに。さらには俺の命を救う大活躍だ。
でも、それを支えた膝さんには感謝しろよ? あと、杖さんにもだ。
傷口を湯冷ましの食塩水で水洗いして消毒。
マクガイバーの親友、銀色ガムテープで接着して止血。
あとは抗生物質を飲んで治療は終了。まぁ、これで大丈夫だろう。
しかし、一番冷静なのが怪我をした本人と言うのはどういうことだ?
女の方が血に強いって、ず~っと昔に翔子が言ってた筈なんだけどなぁ……。
ず~っと昔、まだ、あの浜辺での出会いは半年前にもならないのか……。
「こ~れ~か~ら~……一年間、生き延びる? そ~れ~と~も~……今、死んじゃう?」
懐かしい捨て鉢な小悪魔から差し伸べられた死神の誘い。
あの時に頷いていたなら、それはそれで幸せだったのかもしれない。
けれど、一年間、生き延びると決めた。生きると決めた。
だから、俺は死なない。
身体も、そして心もだ。
絶対に、もう二度と死んでなんかやるものか!!
◆ ◆
怪我をして以来、重傷者扱いされて困った。
二十四時間の看護体制。でも、その重傷者に乗っかるのって、どうなんだ?
シロ様か翔子が俺を肉布団にしてベッドに縛り付けた。俺がベッドだ。
どちらか片方が必ず怪我をしていない側に乗しかかって俺の自由は奪われた。
大変なのはお風呂だ。
怪我人の介護という大義名分の名の下に、堂々と侵入された。
一糸纏わぬ裸体を見られた。
一糸纏わぬ裸体を見せつけられた。
最近、廃人眼鏡が帰ってこない。本当に、帰ってきてくれない……。
いわく、気を利かせているらしいが、気を利かせるなら帰ってきてください。
キミの脱童貞も許しますから、どうか帰ってきてください。我慢も限界なんです。
湯殿の中には柔らかな肌色が三つ。
ただ俺の一部が硬くなってしまっているのも丸見えで、なんと言う羞恥プレイ。
源泉さん、お願いですから濁り湯になってくださいませんか?
「ねぇ、鷹斗ぉ? 我慢しなくても~……良いんだよ?」
「私も、その~、覚悟っ!! 決めちゃってます!!」
俺は、我慢するって覚悟を決めちゃってます!!
どれだけ肌色が見えても、どれだけ二人の膨らみが柔らかくても、我慢します!!
そもそも、俺の方が巨乳だしね~♪ 俺の方が柔らかいしね~♪
だから、お堅い俺をマジマジと観察しないでっ!! 男だって見られるの恥ずかしいんだからねっ!?
「大体、三人の三角関係で、良いの? 二人とも?」
俺にしてみれば、独占欲がそれを許さないと思うんだけど?
俺の質問には二人が揃って笑った。
「それはぁ~……」
「……ですよねぇ?」
なんだか二人だけで、納得済みの三角関係らしい。
また、乙女の秘密だろうか? 乙女には秘密が一杯だ。
ここは、グイッと来いと言う所なんだろうな。
「知りたい、聞かせて?」
二人が目配せをして、クスクスと悪戯っ子のように笑っていた。
「だってぇ、アタシ一人じゃ鷹斗を支えられないんだもん♪」
「私も一人じゃ無理です♪ だ~か~ら、二人じゃないと無理なんです♪」
……さいですか。また、俺の体脂肪のせいでしたか。
確かに、女の子一人に支えさせるにはこのメタボ重過ぎだわ。
納得がいったような、納得がいかないような、夏の終わりの星の下、俺は二人の女の子に支えられて生きていた。
俺と言う弱さが二人に支える役という居場所を作り、俺は二人に支えられる役という居場所を与えられていた。
これが、幸せなんだろうな。
幸せすぎるから、二人の頭をナデナデする。
「もぅ、鷹斗ったら……もっと肉食系でガオーッって食べちゃっても良いんだよ?」
「お、お、お、お、お、お覚悟ぉっ!!」
シロ様、それ、なんか違うよ?
「良いんだ。これで良いんだ。今は、これで十分だ」
「鷹斗がそう言うなら良いけどぉ~。しょうがない、翔子ちゃんはシロを可愛がって我慢するとしようぞ♪」
「ふ、ふぇ!? ふぇぇぇぇぇぇっ!?」
バシャバシャとお風呂の中での追いかけっこが始まった。
知将と猛将、どちらが勝つだろうか?
永遠の命題だなぁ……。
まさか、シロ様が攻めに転じて翔子を打ち破るとは思わなかった。
ギャップ萌えッスね。
◆ ◆
もうすぐ秋だ。そして次は冬だ。
でも、もうこの島の人々は負けない。
まず住居が一本の柱を支えにする竪穴式住居からパオもどきに変わった。
暮らし方もそれに合わせて代わった。余力が出来て、隣村との関係も良好になっていった。
源泉のある村には温泉を借りに行き、湧き水のある村には飲み水を貰いに行く。
村同士が支えあうようになって、島全体がパオもどきに包まれた。
リゾートと言えば夏が定番だけど、夏が終わってやっとこの島はリゾートアイランドになった。
ただ恋愛関係というものは難しいもので、毎日顔を合わせているのも駄目になる一つの原因らしい。
くっついたり離れたり、いろいろと繰り返しながら、人との距離感を皆が学んでいた。
そして俺だけが不動の石のように、オラが村で次なるヒロインを育てていた。
次なるメインヒロインの名前はソルティちゃんだ。
リゾートだからって活動的になる必要はないだろ?
バカンスだからって積極的になる必要はないだろ?
むしろロハスで優雅な過ごし方だ。ソルティちゃんと一緒に過ごすんだ~♪
半年働いた、だから、残りの半年はソルティちゃんを育てながら過ごすんだ~♪
三日後、ソルティちゃんの存在を二人に気付かれてソルティちゃんのお池に塩が撒かれた。
ソルティちゃんが多数の塩の結晶と合体する淫らな子になってしまった……。
なぜ? なんでそんな酷いことが出来るの? 二人の鬼っ!! 小悪魔ッ!!
女の嫉妬心はわからんなぁ。
ソルティちゃんにベッタリで三日ほど二人に構わなかったのが原因かなぁ?
……ごめんちゃい。だから、その二人の仁王様で挟み込むの、やめて?
その無言の膨れっ面が、とっても怖いな? 可愛いけど。
もう秋も怖くない。もう冬も怖くない。もうこの島は怖くない。
ただ俺は両サイドの二人が怖かった……。
俺を支えるための二人じゃなくて、サイドプレスで挟み込むための二人だったんだね。
さ○とう先生のサバイバルにも載ってない脅威がここにはありました……。
うん、幸せだなぁ……。
だから俺も幸せにしてやんなくちゃなぁ……。
まずは頭をナデナデからだ。
俺の腕が攣る前に許してくれると良いんだけれど、望みは薄い。
…………イタタタタタタタタ。
有人島物語 ~春夏の始章~ 終劇




