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俺! 神獣達のママ(♂)なんです!  作者: 青山喜太


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第二十話 さて、報酬の話をしよう

 あれは、そう二ヶ月前のことです。私がいつもの様に、岩を三千個砕いて筋トレをしている時のことですわ……。


 私の許嫁である、ランカール皇太子から手紙が届きました……。


『親愛なる、アンヌ。どうかしばらくの間、君と距離を置きたい。わかってくれ──』


 その文言を見た時、私わかっちゃったんです……。


 あ、これ今流行りの婚約破棄だなって……まさか小説で流行っていた事象が私の身に降りかかるなんて……居ても立っても居られなくて……私、国の街門を破壊して旅に出ましたの……執事のカールと共に……。


 ─────────────


 そうか、そうか……いや、なんの話だ?

 俺は何を聞かされている?

 レストラン『回るカエル亭』で俺は立ち尽くす。


 仲間に誘おうという下心から令嬢みたいな格好の女性に話をかけたら……泣かれて……。


 そしていつのまにか、モノローグじみた語りが始まるものだから俺は思わず聞き入ってしまったのだ。


「そ、そうか大変だな……えっとアンナ……さん?」


「アンナ・カーン・レバッツです。アンナでよろしくてよ」


涙をドレスの袖で拭い令嬢、多分令嬢であろうアンナが言う。


「アンナ……か……そのよろしく……」


 若干ビビりながら、俺は挨拶する気をつけろよ俺。相手は少しばかり面白いやつの様だ。


 それにレバッツってどこかで聞き覚えがあるぞ? まじもんの貴族か?


 とにかく俺は、落ち着いて、さりげなく手を差し出す。友好の握手というやつだ。

 まあまずは俺が悪いやつではないことを示そう。


「エルマーだ、ファミリーネームはない、よろしく!」


「エルマー様ですね!」


「エルマーでいいよ、アンナ」


「まあ! エルマー! よろしくお願いいたしますわ!」


 俺の手を取るアンナ、友好的な一歩だ。

 少なくとも俺はそう思っていた。

 彼女が握手に応じて、力を込めるまでは。


 突然俺の手に衝撃が走る。


「ぬわああ!!」


 まるで雪山の山頂から垂直に直滑降でもしてきた岩に手が挟まれたかと思った。


 いやしかしここは、レストラン。

 そんなわけがない、と現実に戻ってきた俺が直面したのはアンナの泣き顔だった。


「ご、ごめんなさい! 私ちょっと泣いてたから……その力の加減が……!」


「い、いや大丈夫だ……!」


 ど、どうなってる?! 握力だけで……俺に痛みを?!

 とんでもない力だ……!


 人よりも頑丈な体である俺の痛覚が正常に作動するほどの、握手(こうげき)をかますとはなかなかヤバいご令嬢だ。


「そ、それでアンナはなんで、不死鳥を?」


 とりあえず俺は話を続ける。手が痛いが仲間意識を持たせるのだ! まずは……動機の確認!


「……その、ラッキーアイテムだったんです……」


「はえ?」


「だから……! 復縁のラッキーアイテムなんです! フェニックスは!」


 何言ってんだこのお嬢さん……。


「ほ、本当は……フェニックスの意匠のあるアクセサリーと本には書いてあったのですほ、ほら破壊と再生の象徴ですし……そんな時、たまたまフェニックスの討伐の依頼を目にして……」


「つまり、なんだ? 皇太子との寄りを戻す為の願掛けのために不死鳥を狙っていると……?」


「う……ぐ……あううっ!! そうですッ!!」


 な、泣いた!! アンナが!!


「だ、大丈夫か!? ごめんな! 辛いこと思い出させて!!」


 思わず俺はハンカチをズボンのポケットから取り出して、アンナに渡す。


 なんかいつも渡してんな俺のハンカチ。


「あ、ありがと……ございましゅ」


 ブフーとしっかり鼻まで噛まれた俺のハンカチ……まあ、あとで洗えばいい。だがとりあえず、ハンカチを犠牲にして俺は一つの提案を試みた。


「どうだアンナ? 俺たちと一緒に不死鳥を狩るというのは」


「え? い、いいんですか?!」


「ああ! いいぜ! で、報酬はどうする? 実はもう一人仲間を見つけてて報酬は3等分……」


「要りません!」


「え?」


「私の目的はラッキーアイテムの不死鳥の体の一部……羽とかたくさんいただけたら……それで満足です!!」


「ええ……」


 ─────────────


「というわけで仲間になった、アンナだ」


 俺は早速、ミラナとカミネの待つ席に戻ってアンナを紹介した。

 ミラナは訝しげに半目のままいう。


「どういうわけよ」


「さっき説明したろ」


「筋トレとラッキーアイテムの単語が出てきた時点で脳が半分寝てた」


「そうか、じゃあもう一度説明するな」


「私の脳を全停止させたいの?」


 とりあえず、アンナの経歴は子守唄に近い能力があることがわかったところで、アンナはぺこりと頭を下げる。


「アンナです、改めてよろしくお願いしますわ!」


 ふわりとスカートの端をつまんで挨拶する。同じく雲の様な金髪が風を受けるその姿、まさしく貴族の令嬢だ。


 黙っていれば本当にそう見えるんだがな……。


「ところで、エルマー?」


「なんだ? アンナ?」


「この方達は? パーティの方なのですか?」


 あ、そうかしまった、アンナにとっては少し不思議な光景か。

 ステーキを頬張る少女のカミネに、眼光の鋭い剣士ミラナ……。


 冒険者のパーティとしては少し異色だ。まずい、なんて言おうか? あれ、言い訳が思いつかない……まずい! 早く答えなければ怪しまれる!


「ああ、その……あれだ……む、娘を連れてるんだ」


 俺は咄嗟に最悪の答えを絞り出してしまった。



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