第45話 ダンジョン探索【瑠奈Side】
「はっ!」
「えいっ!」
「ウモオオオオオ!」
風の属性が付与された僕のナイフがミノタウロスの首を切り裂く。続けてお姉の剣がミノタウロスの胸を切り裂いた。ミノタウロスは地面に倒れてそのまま動かなくなった。
「瑠奈、油断しちゃだめよ!」
「うん、大丈夫!」
地面に倒れたミノタウロスが完全に動かなくなるまで気は抜かない。ダンジョンの中では絶対に油断をしない、何度もヒゲさんに教えられてきたことだ。
「……大丈夫そうね。それじゃあミノタウロスの角を回収しましょう」
「了解!」
よし、今のミノタウロスとの戦闘は以前よりもうまくいった。ちゃんと僕もこの前よりも成長している。
「今回の戦闘もうまくいきました。今日の配信では同じようにこの階層でモンスターを倒して経験値を稼いでいきたいと思います」
「これからしばらくは39階層の対策と40階層のボスモンスターへ挑むために経験値を稼いでいくよ。もし良かったらこのまま見てね!」
お姉と一緒に配信用のドローンに向けて手を振る。それと同時に配信チャンネルにすごい数のコメントが書き込まれていく。最近は虹野チャンネルの事件があって、チャンネルに登録してくれているリスナーさんが一気に増えてくれた。
今ではこの場で読むことができないくらいのたくさんのリスナーさんがコメントを送ってくれている。もらったコメントはセーフゾーンへ行った時にいくつか紹介する予定だ。
「こっちのミノタウロスの角は回収したわ。そっちはどう?」
「こっちもオッケーだよ、お姉」
「それじゃあ先に進みましょう」
「うん!」
この前ヒゲさんと一緒に37階層を探索している時に38階層へと続くゲートを発見して、僕たちの最高到達階層は38階層に更新された。このまま39階層、40階層へと進んで行くと、ボスモンスターとの戦闘になる。
ダンジョンには10階層ごとにボスモンスターと呼ばれる、普通の階層に出てくるモンスターよりも強いモンスターが現れる仕組みだ。10階層ごとにあるゲートは普通の次の階層へと進む青色のゲートとは違って赤色のゲートになっている。
この先の階層へ進んで行くため、今日の配信はダンジョンの36階層で、モンスターを倒しながら宝箱を探してダンジョンを探索していく。多分今のままでも40階層のボスモンスターを倒すことができると思うけれど、安全のためにしっかりとマージンを取らないとけない。
それこそ、この前遭遇したばかりのイレギュラーモンスターみたいなモンスターとまた遭遇する可能性だってあるもんね。
「ふう~今日は結構モンスターを倒せたね、お姉」
「ええ。中身はそれほどいい物じゃなかったけれど、宝箱が2個もあったのはラッキーだったわね」
しばらくの間36階層で探索を続けた結果、結構な数のモンスターを倒して素材を手に入れて、宝箱を2個も回収することができた。ダンジョンの宝箱は時間も場所も完全にランダムで発生する。
中に入っている物も様々で、貴重なマジックアイテムや魔石などの珍しいものが入っていることもあるけれど、あまり使えないアイテムや中身が空っぽな宝箱のほうが多いんだよね。今回は空っぽなのがひとつとそこそこの値段で売れるアイテムがひとつ出てくれた。
宝箱は1日に1個でも出れば運がいい方だから、2個も出たのは本当にラッキーなんだよね。ちなみに開けた宝箱はモンスターの死体と一緒で、時間が経つと自然にダンジョン内に吸収される。
「今日は十分に探索できたし、次のモンスターを倒したら今日の配信は終わりにしよっか」
「そうだね、今日は結構頑張ったもんね。みんな、次のモンスターを倒したら今日の配信は終わりにするよ!」
宙に浮かんでいるドローンの先にいるリスナーのみんなへ向けて挨拶をする。今日は十分に経験値を稼いだし、モンスターの素材や宝箱に入っていたマジックアイテムを得ることができた。
今の事務所の契約では、僕たちが探索で手に入れたモンスターの素材と宝箱から得た物は全部僕たちがもらえるようになっている。他にもチャンネル登録者数や配信動画のいいねに応じた報酬が事務所から支払われる仕組みだ。
事務所に所属することができると、動画の編集はすべて編集さんに任せられて、ダンジョン攻略をする際の手厚いサポートを受けることができるからとても助かっている。
これまでの配信で僕とお姉はいっぱいお金を稼いでいるけれど、僕とお姉の目的のためにはまだまだお金が必要なんだ。
「……ふう、最後にロックリザードが3匹も出てくるなんて運がないわね」
「でも何とかなったね。やっぱり僕たち少しずつ強くなってるよ!」
ロックリザードは茶色くて硬い鱗を持った大きなトカゲだ。この洞窟の36階層の中では強いモンスターで、3体も集まるとかなり手強いモンスターだけれど、お姉と2人で怪我をすることなく倒すことができた。
前までの僕たちだったら少し手こずっていたけれど、週に1~2回のヒゲさんと一緒に探索をしていろいろと教わることで、僕たちは少しずつ強くなっていたみたいだ。
「それじゃあ、今日の配信はここまでにしましょう」
「うん、ロックリザードの硬い鱗も剥ぎ取ったし、ゲートに戻ろう」
「……待って、瑠奈! 誰かいる!」
「っ!?」
お姉が声を上げるのと同時に僕もこの洞窟のフロアの入り口に立っている人影に気付いた。すぐにナイフを抜いて臨戦態勢に入る。
「……どうしてあなたがここにいるの?」
「探索者の資格を剝奪されて、ダンジョンに入ることはできないはずなのに!」
フロアの入り口に立っていた人物が不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらに近付いてきた。
「くっくっく……」
僕とお姉の前に現れた人影、それはかつてトップダンジョン配信者であった虹野虹弥だ。




