第33話 マジックアイテム【人質Side】
ダダダダダッ
「きゃああ!」
「うわっ!」
周りの人からさらに悲鳴が上がる。このお店の空いたシャッターの隙間から、警察やダンジョン防衛隊の反撃による発砲が浴びせられた。
キンッ、キンッ
だけど、その銃弾はいつの間にかリーダーの男の目の前に現れた半透明の壁のようなものに阻まれた。
「おっと、さすがに敵も人質がいるのに撃ってきやがったか。だが、このマジックシールドさえありゃあ、銃弾ごときの攻撃は通さねえぜ」
そう言いながらリーダーの男は胸に付けた青い宝石の付いたペンダントを握りしめながら、お店のシャッターを再び閉めた。
マジックシールド――聞いたことがある。今攻略が進んでいる最前線の階層に出現する宝箱の中から極稀に出現するというマジックアイテムだ。首飾りの形をしたこのマジックシールドは身に付けている者への攻撃を遮断するシールドを発生させることができるらしい。
国の要人護衛のために使用されるほど貴重なマジックアイテムのはずだ。まだ市場に出回っているものはほんんどないとニュースで言っていた。まさかそんなものまであるなんて……
「おおっ、すげーよ、リーダー!」
「マジかよ、あんだけ頑丈そうな装甲車が真っ黒こげだぜ!」
「確かにその剣があれば、楽勝で逃げられるぜ!」
「はっはっは、この剣やマジックシールドほどじゃねえが、他にもやべえ武器やマジックアイテムがいくつもある。もちろん魔石の力やマジックアイテムには回数制限があるが、これであいつらもそう簡単には手を出せなくなっただろ! たとえダンジョンの外であろうと、誰も俺たちを止めることはできねえぜ!」
「すげえ、すげえよリーダー!」
「装甲車も遠距離から一撃かよ! これでもう逃げられなくなったし、腹はくくったぜ、リーダー!」
装甲車をたったの一振りで破壊するほどの一撃を見て、他の仲間たちが歓声を上げた。さっきまで自首をしようと話していた男たちも警察とダンジョン防衛隊に攻撃を加えたことで、もう逃げられないと覚悟を決めたみたい。
「そうと決まったら、さっさとここから逃げ出すぜ。この店にある物をすべてマジックポーチに詰めこめ! おい、おまえは人質を盾にしながら、外へいるやつらに車を用意させろ。さっき装甲車をぶっ潰してこちらの力を見せたからな、こっちの要求は簡単に通るだろうぜ」
「おう! おら、こっちに来い!」
「きゃあ、乱暴は止めて!」
男たちのひとりが人質にしている女性をひとり選んで、その女性を盾にしながら再びシャッターを開けて、外の人たちと交渉をしている。
「リーダー、すぐに車を用意するってよ! へへっ、やつらめちゃくちゃビビッていたぜ!」
「そりゃあれだけの力を見せればそうなるだろうよ。だがちっと急ぐぜ。のんびりしていると面倒なやつらが来ちまうかもしれねえからな。噂でしか聞いたことはないが、ダンジョンのマジックアイテムや深い階層の魔石を使った武器で武装した特殊部隊なんかもあるらしい。本当にそんなのがいるのかはしらねえが、とっととこの場から逃げるぞ!」
「了解だ、リーダー!」
「よし、それじゃあこの中から一緒に連れていく人質を選べ。そうだな、4〜5人でいい」
「ああ、分かったぜ!」
金髪の男が人質である私たちの方へゆっくりと近付いてきた。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫、大丈夫だから……」
泣いている弟をギュッと抱きしめる。
神様……お願いします。どうか弟だけは助けてください!
「へへっ、どいつにしようかなっと」
「「「………………」」」
金髪の大柄な男がニヤニヤとした表情で、人質である私たちをまるで品定めしているかのような目で見てくる。
「おい、人質として一緒に連れて行くんだから、運びやすいガキや女を優先して選んでおけよ」
「……っ!?」
「なるほど、さすがリーダーだぜ! それじゃあ、そっちの女とこっちの女こっちに来い」
「いやあああ!」
「いや、お願い、許して!」
男が人質の中で若い女性の2人を選んだ。
「頼む、彼女はやめてくれ! 代わりに俺が人質になる!」
「良男さん!」
「ああん?」
選ばれた女性のひとりと一緒にいた男性が立ちあがり、金髪の男の前に女性をかばうように立ちふさがった。
「……はん、女の前で格好つけるじゃねえか。そういう男は嫌いじゃねえぜ」
よく見るとその男性の足はガクガクと震えていた。金髪の男はまるでプロレスラーみたいながっしりとした体格をしていて、対する男性の方は細身で身長もそれほど高くはない。こんな状況でも、男性は勇敢に彼女をかばっている。
「なんてな!」
「ぐわっ!?」
「きゃあああああ!」
立てこもり犯が拳を振るい、男性が大きく後ろに吹き飛ばされ、女性の悲鳴が店内に響き渡った。
「雑魚が格好つけてしゃしゃり出てきてんじゃねえよ! 野郎はいらねえつってんだろうが!」
「ぐっ、がは……!」
「お願い、もうやめて! わかったから! 私がついていくから!」
金髪の男が男性へ馬乗りになって、容赦なく何度も拳を振るった。そしてそれを女性が必死に止める。
「はっ、生意気に俺たちへ逆らうからだぜ!」
それを見て立てこもり犯が満足そうに笑った。周りにいるリーダーの男も他の男たちもニヤニヤと笑いながらそれを見ているだけだった。




