第29話 最高到達階層
「うん、本当に美味しかったよ! ヒゲさん、ご馳走さま!」
「とっても美味しかったです。本当にご馳走さまでした!」
「気に入ってもらえたなら良かったよ。こちらこそ、こっちの配信に出てくれてありがとうな」
"くそっ、まさか超高級食材のブラックロック鳥の肉だとは思わなかったぜ…… @ルートビア"
"フラグ回収おつw 相変わらずバチクソうまそうだったな! @月面騎士"
"ふむ、なかなか腕を上げたな。 @†通りすがりのキャンパー†"
どうやら今日のブラックロック鳥の肉に2人とも満足してくれたようだ。今回の肉はいつものステーキではなく、唐揚げにしてみた。
唐揚げはこのサクッとした食感と、中から溢れ出るこの肉汁がたまらないんだよな。ちゃんと一度揚げたうえで、もう一度さらに高温で揚げる二度揚げにより作った唐揚げだから、まずいわけがない。
ブラックロック鳥は鶏よりもはるかに旨みが凝縮された肉で、唐揚げにするとより一層その旨みを衣の中に閉じ込めることができるのだ。
「でもヒゲさんの配信に出るのは1週間に1〜2回で本当によかったよ! 毎日こんなに美味しいものを食べていたら、絶対に太っちゃうもんね!」
そう言いながらお腹に手を当てる瑠奈だが、肥満とはまったく無縁な細いお腹にしか見えないぞ。
「うう……私もつい食べ過ぎてしまいました……」
そう言う華奈もお腹に手を当てるが、こちらも肥満とはまったく無縁な細いお腹だ。とはいえ華奈の方はお腹ではなく、その上の大きなものに栄養が十分過ぎるほど与えられている気もする……
「それで、あれからダンジョン協会の方からは何か言ってきたりしていないか?」
話題を逸らすように華奈と瑠奈に別のことを聞いてみた。俺が2人の配信に出演してから2週間が経過したが、リスナーさんたちによると、掲示板なんかはいろいろ騒がしくなってはいるが、ダンジョン協会から俺に対しては特に何の動きもないそうだ。
俺の方にも特にダンジョン協会からの接触はない。まあ、向こうから接触しようと思っても、俺は普段ダンジョンの中に引きこもっているからな。
俺の配信チャンネルへの連絡先にも特にダンジョン協会から連絡はないから、このヒゲダルマのチャンネルと俺とは結び付けられていないはずだ。
「はい。あれ以降、私たちの方にもダンジョン協会からは特に何も言われていません」
「もしかしたら、今はヒゲさんからもらった情報や素材なんかの確認で忙しいのかもね」
「そうだといいけれどな」
確かに瑠奈の言う通り、前回の2人の配信の際に俺が2人に渡したこの大宮ダンジョンの最高到達階層である40階層以降で出てくるモンスターの素材や情報を渡したのだが、それについていろいろと検証をしているのかもな。
ダンジョンはこの大宮ダンジョンだけではなく、他の場所にもかなりの数のダンジョンが存在する。それぞれのダンジョンの中の構造は異なるが、同じモンスターが出現することも多い。他の攻略が進んでいるダンジョンのモンスターとの情報をすり合わせているのかもしれない。
「預かりました素材の確認は多少進んで、ヒゲダルマさんの言っていることは本当だと認められましたけれど、公式の最高到達階層の更新はされないみたいですね」
「これまでの記録もそのままみたいだね。もしも、登録したい場合にはちゃんと到達階層を更新した時に報告しないと駄目かも」
"それを許したら、これまでこのダンジョンで更新してきた探索者や配信者たちが怒り狂いそうだもんな。 @†通りすがりのキャンパー†"
"それだけダンジョンの最高階層到達者には名誉や金が集まるってことだよ。 @月面騎士"
"ネットニュースのインタビューなんかも受けられるし、配信をしていたら登録者が一気に増えるもんね。 @WAKABA"
「……最高到達階層を更新する気はないぞ。他の人から恨みを買う気はないし、これ以上目立ってダンジョンに住んでいることがバレたらまずいからな」
今の俺には名誉もお金も必要ない。それよりもダンジョンに住んでいることが知れ渡って、ダンジョン法に規制が入ったらヤバい。
俺は深い階層にいるから、もちろん誰も俺をダンジョンから追い出すことはできないのだが、俺もあえて法律に違反したくはないからな。
"時間の問題かもしれないけれどね。今掲示板だと盛り上がって、ヒゲダルマの二つ名まであるぞ。 @ルートビア"
"見た見たw 斬首人はピッタリだと思う! @月面騎士"
"個人的には首狩り殺戮者もよかったぞ。あとはクビチョンパーもありだったな。 @†通りすがりのキャンパー†"
「……二つ名ってなんだよ。それにどれも物騒な名前だな」
"そりゃすべてのミノタウロスの首を一撃だったし。 @ルートビア"
"前の会見配信で虹野虹弥をある意味処刑していたし、ピッタリだろw @月面騎士"
"ヒゲダルマ、助けて @たんたんタヌキの金"
「んっ、タヌ金さん?」
先ほど配信から落ちて、六本木モールとやらへ行ったはずのタヌ金さんがなぜかまたこの配信を視聴していた。先ほどまで接続数が4だったのに5に増えている。
もう家に帰ってきたのだろうか。いや、いくら何でも早すぎる。それに助けてとはどういうことだ?
「タヌ金さん、何かあったのか?」




