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第27話 男性遍歴を暴露する真祖

 「お聞きしました。あなたは霊長の王(ロード)の子孫なのですね?」

 「いえちが「はいそうです!!」


 ついファーティマが反射的に否定しそうになったところで、クリスが大きな声で遮った。

 ジト目で睨まれ、ファーティマは思わず縮こまった。


 「し、しかしよく信じてくださいましたね」

 「いえ、信じていたわけではありません」


 神官長は首を横に振った。


 「あのAランク冒険者ヴァハン氏をして、絶対に敵わないと言わしめた竜です。それと互角にあなたが戦っている……つまりあなたが非常に優れた戦士であることは間違いありません。クリス殿のあなたが霊長の王(ロード)の子孫である、という証言は半信半疑でしたが、あなたの実力は確かでした。……それに縋るしか道はないと思いました」


 クリスはファーティマを『霊長の王(ロード)の子孫である』と言って、神官長を説得した。

 これなら魔術契約には違反しない。

 神官長自信はそれを信じてはいなかったが、どちらにせよこのままでは竜に街が滅ぼされる。


 とにかく『刃の無い剣』を使いこなし、竜を撃退できるならそれでいい。

 神官長はそう考え、ファーティマに『刃の無い剣』を託したのだ。


 「何にせよ、今まで誰も使い方が分からなかったそれを使って見せたのです。あなたが霊長の王(ロード)の子孫であることは今はもう疑う余地はありません。それはあなたに差し上げます。その方がその剣も幸せでしょう」

 「良いんですか? 聖遺物が無くなると神殿としては不味いのでは?」

 「誰も分かりませんよ」


 つまり偽物を作って安置すればいい。

 と、神官長は言っているのだ。


 まあ、確かにバレないだろう。

 そもそも今まで多くの人に偽物だと思われていたのだから、それが本当の偽物になったとしても大して変わらない。

 

 「ですが条件があります。……私の質問に答えて頂けますか? 正直に」

 「ええ、良いですよ」


 ファーティマが頷くと、神官長は意気揚々とメモを取りだした。


 「……ではその剣の銘をまず、教えて頂けますか?」

 「これは雷霆(ケラウノス)。かの天上の王の武具です。それを霊長の王(ロード)が借り受けたものです」

 「なるほど……」


 神官長はキラキラした目でさらに質問を続ける。


 「霊長の王(ロード)の時代は全ての種族は平等だったのですか?」

 「少なくとも霊長の王(ロード)の国では、そうでしたね。黒の真祖、眷属の王(エルダー)の国では吸血族が支配階層となっていましたが」

 「眷属の王(エルダー)ですか? 黒の真祖? もしや、あの有名な吸血鬼の王ハサンの二つ名ですか?」


 これにはファーティマも少し驚いてしまう。

 どうやらファーティマの兄であるハサンは名前と吸血族の王だった事実しか伝わっていないようだった。


 考えてみると、ファーティマのもう一つの二つ名である『白の真祖』というワードも現代の人間から聞いたことがない。


 「『白の真祖』霊長の王(ロード)ファーティマ、『黒の真祖』眷属の王(エルダー)ハサン。それが二人の称号です。二人は地母神と半神半人の英雄との間に生まれた双子で、ファーティマが白銀、ハサンが黒髪だったため、両者は『白の真祖』『黒の真祖』と呼ばれるようになりました。そして霊長の王(ロード)に対して、兄であり年上のハサンは眷属の王(エルダー)と呼ばれていました……呼ばれていたと聞いています」


 雷霆(ケラウノス)を貰うのだ。

 この歴史が趣味の神官長には真実を伝えても良いだろうと、ファーティマは饒舌に話した。


 「……つまりファーティマは吸血鬼、ということでしょうか?」


 当然に浮かぶ疑問だ。

 ファーティマは首を横に振った。


 「まさか。二人は吸血族の産みの親です。つまり二人が吸血族を生み出すまで、吸血族はこの世に存在しませんでした。二人はただの……と言って良いか分かりませんが、半神半人の英雄であり、吸血族ではありませんよ。……当然、私もです。ちなみに霊長の王(ロード)はサキュバス・インキュバス族や人狼族の真祖でもあります」


 一応、ファーティマは自分が吸血族ではないと主張しておく。

 まあ嘘は言っていない。

 実際、違うのだから。


 もっとも、太陽の下で平然と活動出来ているので怪しまれるようなことはないが。


 「なるほど、面白い……ありがとうございます。これで研究が一歩、進みそうです」

 「ええ、頑張ってください。……あと、私が霊長の王(ロード)の子孫だというのは……」

 「分かっておりますよ。……そもそも聖遺物をあなたに託したことがバレては大変ですしね」


 お互い、黙っていた方が都合が良い。

 二人は悪そうな笑みを浮かべた。


 







 「何はともあれ、雷霆(ケラウノス)も手に入ったし、良い感じだね。この調子で残りも回収しようか」

 「残りって、何があるんですか?」


 クリスの問いにファーティマは指折り数える。


 「靴と盾、あとお兄様が使っていた兜と剣も回収しないといけないね。どこにあるか分からないけど。霊長の王(ロード)信仰って、どこが一番盛んなの?」

 「それは分かりませんが……私が生まれた西方でも盛んでしたよ」

 「うーん、じゃあ西方に行こうかな。コンラートさんたちも行くみたいだし」


 道中一緒に行ければ心強い。

 クリスも生まれ育った環境に近い方がいろいろと気が楽だろう、とファーティマは考えた。


 「あの、ご主人様」

 「うん、どうしたの? クリス」

 「非常に気になっていることがあるのですが、お一つ聞いても宜しいでしょうか?」


 ファーティマが頷くと、クリスは少し迷いながら……尋ねる。


 「神官長様にご主人様は、吸血族は『白の真祖』と『黒の真祖』の子供であると言いましたよね? 本当ですか?」

 「本当だけど?」


 ファーティマが首を傾げると、クリスはドン引きをした。

 ファーティマはクリスが何を気持ち悪がっているのか最初は理解できなかったが、すぐに合点がいった。

 そして慌てて訂正する。


 「べ、別に私がお兄様とセックスしたわけじゃないからね!! 確かにお兄様と私の子供なのは本当だけど、近親相姦じゃないから! 私の子供の父親的な意味になると、確かに私の夫になるけど、別に男女の関係じゃないからね?」

 「……本当ですか? 神話じゃ、よくあるじゃないですか。近親相姦」

 「いや、確かにそうなんだけど……私は処女だからね、未通女だから。本当だよ?」


 クリスはさらに疑いの目を強める。


 「じゃあどうやって子供ができるんですか?」

 「ほら、私の血液って摩訶不思議な効力があるじゃない? それでさ、お兄様の血液も同じなのよ。で、二人の血液を混ぜたらどうなるかなーって、まあいろいろあってね。そんな感じになったのよ」 

 「はぁ……分かりました。一応信じます」


 一応、疑うのは止めてくれたようなのでファーティマはホッとした。

 まあぶっちゃけファーティマ個人としては近親相姦に対しては全く忌諱する気持ちは無いのだが、クリスに変態扱いされるのは耐えられなかった。


 「ではサキュバス族や人狼族はどうなのですか? 生みの親だって、言ってましたよね?」

 「え、いや……うん、まあ、そのぉ……それは別の神様との……子供?」

 「……」


 再びクリスの目が冷たくなった。


 「ビッチじゃないですか」


 「違う!! 本当にエッチなことは何一つ……い、いやされたけど、処女なの! これは本当だから、本当だよ? 確かに子供はいっぱいいるけどさ、ほら処女懐妊ってやつ? いや懐妊したこともないし、自分の子宮で子供育てて産んだわけじゃないけど。あのね、あなたが思っている以上に子供って簡単に出来ちゃうのよ。血液とか唾液とか、何かの拍子で混ざっちゃえば、土から出来ちゃうの。望んで産んだ子というわけじゃないから」


 「じゃあ私とも出来たりするんですか? 私の血液とご主人様の血液を混ぜ合わせて泥をこねればできるんですか? まさかそんなわけ……」


 「できるけど」


 あっさりファーティマは言った。

 これにはさすがのクリスも目を見開いた。


 「男同士でも女同士でも、やろうと思えばできるよ?」

 「本気で言ってますか?」

 「髪の毛や皮膚片から精子や卵子を作るのは難しいけどできないこともないし、私たち神々にはそもそも精子や卵子すらも要らないからね。遺伝情報が混じり合えば、それで良いんだよ」

 「……え、出来るんですか?」

 「うん、出来る」


 ファーティマがそう言うと……

 クリスはファーティマから距離を取った。


 「嫌ですよ」

 「傷つくからやめて……別に私だって好きで珍種族・珍獣を産んできたわけじゃないんだから……」

 

 ファーティマが本気で落ち込み始めると、クリスは慌てて駆け寄った。


 「す、すみません……少しふざけ過ぎました。大丈夫です、もしご主人様がどんなに変態でもご主人様ですから、甘んじて受け入れます」

 「いや、受け入れなくていいから……本当に無いから、大丈夫だよ」

 「ところでお一つ良いですか?」

 「何?」

 「珍種族はともかく、珍獣も生んだんですか?」


 ファーティマは目を逸らした。

 クリスは再びファーティマから距離を取った。

 

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