第26話 必殺技を放つ真祖
「マグニチュード七」
ファーティマは二パーセントの理力を魔力に変換して、大地に注ぎ込む。
そして地下のプレートを刺激し、無理やり地震を発生させる。
その大地のエネルギーを全て、自分の体で受け止める。
莫大なエネルギーがファーティマの体内に溜めこまれる。
「覚悟しなよ、『暴虐』の竜」
ファーティマは地面を強く蹴った。
そして天空を飛ぶ神竜の懐に潜り込む。
神竜は不適に笑う。
『来い!!』
「うりゃあああああ!!!」
ファーティマは右腕に地震のエネルギーの全てを注ぎ込み、亜光速にまで加速した拳を神竜の腹に叩きこんだ。
とある国に落とされた戦略兵器、約三十個分のエネルギー。
それが小さなファーティマの拳一つに集約され、神竜の体に放たれる。
「内臓潰し!!!」
そのエネルギーは神竜の鱗を破壊せず、一切減衰しないまま神竜の体内にまで伝わる。
そしてそこで弾け飛び、神竜の体を内部から破壊した。
内臓器官を徹底的に破壊された神竜は地面に墜落する。
その目、口、鼻から鮮血が溢れ出る。
内臓が再生と破壊を繰り返す。
そのいたちごっこは数十秒続き……
『まだ、終わらんぞ……霊長の王……』
神竜は立ち上がった。
これにはさすがのファーティマも焦り顔を浮かべる。
(不味い、もう一度やるには理力が足りない……)
これだから不死性を持つ神の相手は嫌なのだ。
ファーティマは身構える。
もはやこれ以上、理力を使えない。
理力が尽きても死ぬことは無いが、体が自動的に休眠状態になる。
無防備になったところを焼き尽くされれば、再生には時間が掛る。
神竜は風と炎を操り、ファーティマに攻撃を加える。
その破壊力は先程までの攻撃と比べると格段に落ちるが、しかし理力という枷を持つファーティマを追い詰めるにはそれでも十分だった。
(くぅ、あと一パーセントあれば……もう少し節約しておくんだった。日向ぼっことか、するんじゃなかった)
太陽に当たるだけでも理力は消耗する。
やめて置けばよかったと、ファーティマは後悔した。
神竜の風と炎を魔術で逸らし、爪と牙を拳と蹴りで弾き飛ばす。
戦いは双方決め手に欠ける、泥仕合となりつつあった。
しかし不利なのはファーティマだ。
今、太陽に照らされているだけでも理力を消耗しているのだ。
このままではジリ貧は必須。
(こうなったら一かバチかで、全部の理力を注ぎ込むか……)
ファーティマが賭けに出ようとした時、背後から声が掛った。
「ご主人様!!」
「ク、クリス? ど、どうしたの?」
「受け取ってください!!」
クリスがファーティマに何かを投げつけた。
それは『刃の無い剣』であった。
「こ、これを……どうして?」
「何とか神官長様を説得しました!!」
魔術契約で縛られている以上、クリスはファーティマが霊長の王であり、吸血族であることを神官長に話すことはできない。
どのような説得をしたのか気になるが、今は問題ではない。
大切なのは今、この手に『刃の無い剣』があることだ。
「何はともあれ、よくやったよ、クリス!! あと危ないから逃げて!!」
「はい!!」
ファーティマはクリスが遠く、離れたところを確認すると……
『刃の無い剣』を構えた。
『ほう……武器か』
『ええ、英雄には武器がつきものでしょ? 卑怯とは言わせないよ』
『俺には爪と牙という武器がある。お前たちが剣を使うことに、文句を言うほど愚かではないわ』
『それは良かった』
ファーティマは笑みを浮かべた。
そして『刃の無い剣』を空に掲げる。
本来の使用者である祖父は魔力を使わずに振るうことができるが、ファーティマが使うにはある程度の魔力を注ぎ込まなければならない。
そしてまた、引き出せる出力も一パーセントがその限界だ。
だが……それでも十分。
ファーティマは残りの理力一パーセントを燃やし、魔力を生成して『刃の無い剣』に注ぎ込む。
黄金に輝き始める『刃の無い剣』を両手でしっかりと持つ。
「力を借りるね、お爺様。出力、〇・一パーセント」
『俺も全ての力を尽くさせて貰うぞ!!』
神竜は今まで温存していた最後の力を振り絞り、疑似的な太陽を作り出す。
太陽に比べれば確かにそれは数段劣るが、それは量的な差であり、質的には太陽と何の変哲もない代物だ。
『焼き尽くせ!!』
森羅万象を司る竜の言葉を受け、その疑似的な太陽がファーティマに迫る。
ファーティマもまた、その『刃の無い剣』の名を叫ぶ。
「雷霆!!!!!」
それは単眼の巨人によって作られた、三神具の一つ。
天空神の能力を最大限に引き出す、最強の武器。
百パーセントの力で放てば、天地を動転させ、世界を融解させ、そして宇宙全体、混沌すらをも焼き尽くす神器。
例え〇・一パーセントの出力であろうとも……
疑似的な太陽を焼き尽くし、吹き飛ばし、神竜を消し飛ばすのには十分な破壊力だった。
雷は神竜の体を一瞬で燃やし尽くした。
消し炭すら残さず、神竜は消滅した。
「相変わらず、素晴らしい破壊力……これで〇・一パーセントとか、本当にあり得ないわ」
ファーティマは勝利の余韻に浸りながら……
地面に倒れた。
もうすでに理力も魔力もゼロ。
太陽から身を守るための結界を形成することも、焼かれた皮膚を治すこともできない。
太陽に身を焼かれながらファーティマは目を閉じた。
そして全身の細胞の活動を停止させ、休眠状態に入った。
「復活!! さて、まさか今回も四千年とかいう冗談は……」
「ご主人様!!」
クリスがファーティマに抱き付いた。
記憶と変わらぬクリスの顔を見て、さほど休眠してから時間が経っていないことをファーティマは知った。
周囲を見回すと、そこはファーティマと神竜が戦っていた郊外ではない。
二人が借りている宿だった。
口の中に仄かな甘味を感じる。
どうやらクリスが宿屋までファーティマを運び、血を飲ませてくれたようだ。
「ご、ご主人様……し、心臓が動いてなくて、し、し、死んじゃうかと……」
「やだな、心臓が止まったくらいじゃ死なないって。まあでも危なかったのは事実だね。ありがとう、クリス」
ファーティマはクリスの頭を撫でた。
グスグスと泣きじゃくるクリス。
どうやら心配を掛けてしまったようだ。
「雷霆は?」
「『刃の無い剣』のことですか? ここにあります」
クリスはファーティマに雷霆を渡す。
一応、ファーティマは傷が無いか確認する。
が、やはり傷は一つもない。
ファーティマはベッドから降りて立ち上がり、伸びをした。
そして雷霆を腰に吊ってから、クリスに笑いかけた。
「これにて一件落着、だね?」
「……すみません、神官長様のところに行かないとまだ落着しません」
「……それもそうだね」
まだ雷霆が正式に返還されたわけではない。
加えて神竜の件についても、ギルド辺りから根掘り葉掘り聞かれそうだ。
ファーティマは思わず溜息を吐いた。
雷霆
出力 0.1% 大陸が吹き飛ぶ
出力 1% 大地が消滅し、海が蒸発する
出力 10% 惑星が消し炭になる
出力 100% 天地が引っくり返り、宇宙は消滅し、混沌すらも炎上する




