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明晰夢

 夢の中だと、不思議なことがあっても夢だと気づかずにごくごく普通のことだと思って受け流してしまうんですよね。それがすごいもったいないと思って。夢なら夢だって気づいた方が、好きなようにできて得じゃあないですか。




 明晰夢っていうんですよね?


 それ、自由にできたらいいなって思って、ネットとか本で明晰夢の方法を調べたりして。




 でも全然うまくいかなかったんですよ。夢の中の自分は、どんな準備をしたってそれが夢の中だって気づかないんです。




 それで、発想の転換をしたんですよ。




 普段から、つまり目を覚ましている時に、「これは現実だ、夢じゃない」って、そんな風に意識するようにしてみたんです。ふっと空いた時間とかに、「これは現実だよな」って頭の中で確認する、というか。




 そうそう、そうやって習慣にしていれば、夢の中でも同じことをするんじゃないかって思って。そうしたら、夢だって気づくかもしれないんじゃないですか。




 あの日、目を開けたら夕方だったんです。部屋が夕日でカーテン越しでも赤く染まってたんです。


 ソファーに寝てました。体を起こして、どうして夕方に起きたんだろうって考えて、いつ寝たんだっけ、って思って。思い出そうとしたけど寝起きでまた頭がぼうっとしていて、それで、「これは現実だよな」って確認したんです。




 そうしたら、分かったんです。これ、夢だって。あっけなく確信できたんです。


 喜びそうなものじゃないですか。ずっと明晰夢みたかったんだから。


 でもね、怖かったんです。自分でも理由は分からないけど、この夢、はやく覚めないと、恐ろしいことになるって、直感的に分かったんです。


 夢の中の感情って理屈じゃなくて、目が覚めてから思い出したらなんてことないのに、夢の中では恐ろしかったりするじゃあないですか。あれです。もう理屈じゃあなくて、怖くて怖くてたまらない。


 周りは赤く染まっているだけで、いつもの自分の部屋なんですけど、それも恐ろしくてたまらなかったんです。




 早く目を覚ましたいけど、どうやったら目が覚めるか分からない。怖くて、部屋をぐるぐる歩き回ってました。早くしないと、タイムリミットがきて、恐ろしいことになる。そんな予感だけありました。




 死ねばいい。


 夢の中で死ねば、目が覚める。少なくとも、その可能性はある。そう思いました。




 台所に走って、包丁で自分を刺そうと思ったんですけど、いつもの場所に包丁がないんです。


 寝室に向けて「おい、包丁どこ行ったか知らない?」って叫んでも返事はない。かなり焦ってしまって、今度は台所をぐるぐる回って。




 しょうがないから、外に出て、どこか高い場所から飛び降りよう、ってそう思ったんです。




 もう焦っているから、裸足のままで玄関から外に飛び出して、それで。




 えー……そこで気づいたんです。


 夢じゃないって。




 夜勤から帰ってきて、ソファーでテレビを見ているうちに眠くなって、今日は休みだから目覚ましをかけずに寝ていたから夕方に起きただけで、何も不思議なことなんてない。ただの現実。




 ぞっとしましたよ。そう、包丁がもし見つかったら、一体どうしてたんでしょうね。


 ああ、包丁は、寝る前に使ってそのまままな板と一緒に置いたままでした。忘れてましたよ。




 それ以来、恐ろしくて、今、これが現実なのかどうか、確かめるのはやめました。




 ええ、そうです。一人暮らしですよ。そう。


 一体、誰に包丁のことを訊いていたのか、自分でも分かりません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ずっと醒めない悪夢って [一言] 現実と一緒ですよね。 ありがとうございました。
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