生霊
心霊写真鑑定師?
ふふ、もちろん、勝手に自分で名乗っているだけですよ。資格があるわけじゃなし。
いやね、元々、パソコンつかって画像をいじるのを趣味にしてたんです。心霊写真自分でもつくれるんで、悪ふざけでつくってたんですよ。
その経験があって、テレビとか雑誌とかに出てる心霊写真も、自分でもつくれるようなやつがいくつでもあるから、「これはこうやったらできるんだよ」ってのをいろんなところで酒飲み話でしゃべってたんですよ。そしたら、いつの間にか心霊写真の真贋を見抜けるって話になって、噂は広がって、で、こういうね。
小遣い稼ぎにはなりましたからいいですけど。
一番印象に残ってる写真は、子どもの、夏祭りか何かの写真ですね。
いえ、そんな古い写真じゃありません。結構最近のだと思います。といっても十年以上も前ですけどね。
普通の写真ですよ。男の子と女の子、これ兄妹ですね、それが、写真の中央で。背景で出店がたくさんならんでるし、人がたくさん行き交ってるんで、夏祭りだと思うんですけど。
あー、もちろん。
そりゃあ、心霊写真ですよ。俺んとこに送られてきてるんだから。
あのね、背景にね、一人、男の人がいるんですよ。行き交ってるたくさんの人のうちの一人でね。格好は、本当にシャツにジーパンみたいな、そういうラフな格好してましたよ。別に不気味でも何でもない、ごくごく普通のおじさんって感じの。
その男の人が、二重になってたんです。分かりますかね、その人の薄い残像みたいなのが、ちょっとずれて張り付いているみたいな感じで。いや、まあ、ぶっちゃけ、ぶれてるだけ、みたいな。
もちろん、ふふ、心霊写真としては最低ですよ。全然怖くないし。
偶然にちょっと激しくカメラが動いたりしたら、すぐにそんな写真になっちゃうだろうし、意図的につくろうと思ったらそれこそ簡単だと思いますよ、そんな写真。
だから写真だけなら俺、まったく印象になんか残りませんよ。
その写真にね、持ち主からの手紙が添えられてたんです。いや、別に珍しいことじゃあないですよ。こういう心霊スポットで撮った写真です、とか、私が思うにこれはこういう理由で幽霊に取り憑かれているということだと思います、とか。
ええ、ええ。そういうの、書いて送ってくる人、多いんですよ。本当に呪いとかを心配している人からの手紙もありますし。大丈夫でしょうか、って。
その手紙は、結構淡々とした状況説明が主でしたね。息子と娘を撮ったんですけど、後ろにいる男の人が二重になっています、って。でもね、最後が変だったんですよ。
これ、この人の生霊じゃないですか、って。
そう書いてあったんです。
不思議でしょ?
そうですそうです。生霊っていうのは、幽霊なんだけど、死んだ人の霊ではなくて、生きている人の念があまりに強いから霊になっちゃうって、そういうものですよ。本当にそんなものがあるかどうかは別として。
発想が変じゃないですか?
俺、驚いちゃって。
どうして、これでこの人から生霊が出てるって考えになるんでしょうね?
この男の人、どう見たって死んでるのにねえ。




