霊感
霊感があるかどうか確かめるテストみたいなのって聞いたことありますよね。
これも、その一種なんですよ。前の仕事場の先輩に聞いたやつなんですけど。何もいりません。頭の中で想像するだけです。
まず、部屋を思い浮かべるんです。
なるべく古い方がいいらしくて、先輩は実家をモデルにしてるっていいましたけど、まあ古ければいいみたいです。あと、できるだけ和風のが分かりやすいんですって。
だから床は畳。ドアよりもふすまがいい。灯りは、蛍光灯はいいですけど、ふふ、LEDライトはまずいでしょうね。いや、ロウソクとか、そういうあまりにもかけ離れたものはやめた方がいいです。リアリティがなくなるんで。ロウソクの灯りで暮らしたことなんてないでしょ? だから蛍光でいいです。ただ蛍光灯も、かなり古い型のを想像してください。それから窓も。外の光が部屋の中に入ってくるのが大切だそうです。
想像できました?
家具とかはどうでもいいんですよ。大切なのはふすまです。ふすまを、ほんの少し、開けておいてください。少しです。隙間をつくるんです。
時刻は、夕方と夜の間くらい。逢魔が時ってやつですか。ほとんど日は沈みかけて空は赤黒くて、弱いけれど濃い赤い光が部屋の中に差し込んできている。
湿度が高くて、部屋の中はやけに蒸す。息苦しい。ちょっと黴臭い臭いもして。
想像できました?
そこで、灯りを消すんです。蛍光灯が切れたとか、そんな風にイメージしてみてください。
部屋が薄暗く、真っ赤に染まるんです。そこでふすまの隙間を見てください。隙間からは、ほんの少しだけ赤いような気がする暗闇が広がっています。目を凝らしたら、わずかに何か見えるかもしれない。
想像できました?
ここまで想像できたらあとは簡単です。
そのまま、部屋を見回してください。ぐるりぐるりと。何も考えなくていいです。その想像の部屋をただただぐるぐると見回してください。
何か起きました?
これで何も起きなければ、霊感がないってことらしいです。
霊感があったら、何が起きるかは、聞いてないんですよ。先輩教えてくれなかったし、その後失踪したし。
僕も何も起きませんでしたしね。
でもね、何も起きないんですけど、部屋が消えてくれないんですよ。これ教えてもらって、やってみたのは大分昔なんですけど、未だに、ふとした時にその部屋のことを思い浮かべてしまうんです。暗くて、真っ赤に染まった部屋を。それで、忘れよう忘れようとして意識を部屋から逸らすと、視線を感じるんです。
あのふすまの隙間から、何かに見られている。
こっちが隙間に目をやると、そこには何もない。でも確かに、部屋のことを忘れようとした瞬間に、視線を感じる。
怖いんですよ。いつか、その隙間から何かが出てくるんじゃないかって。
あなたはどうなりますかね。
しかし、気になるんですよね。気になってしょうがないんです。ねえ、霊感があったら、何が起こったんだと思います?




