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マネキン

 実家の近くに古い一軒家があって、でっかい窓があって磨りガラスになっていましてね。


 そこに、ずっと人影があるんですよ。磨りガラスにぼんやり人影が映っているんです。大人がまっすぐ、身動きせずに立っている人影が。本当に、上半身も下半身も真っ直ぐなんです。


 子どもの頃、俺たちは幽霊だ、幽霊だってひそひそ話してて、結構肝試しに使われたりしてて。もちろん、中に入ったりまではしませんよ。空家かどうかもよく分かってなかったし。そうじゃなくて、夕方、その人影のある窓にできるだけ近づいたりとか、夜、みんなでその一軒家の前を通ったりとか、それくらいです。




 怖がってその人影を見ると、まるで、正体不明の大人が磨りガラスにべったり張り付くくらいに近づいて、真っすぐ立ってこちらをじっと見ている。そんな風にも見えますから、けっこう俺たちはびびってましたね。




 中学高校になるくらいには、そういうこともしなくなって。興味も薄れてね。あの人影だって、ずっと動かないってことは人形かなにかなんだろうな、くらいは分かってますから。どうしてそんな等身大の人形がずっと置いてあるのか、とかまでは分かりませんでしたけど。




 でもそれもつい最近簡単に分かって。というのも、実家に帰る用があったんですけど、その時に母親にあの一軒家のことを訊いたんですよ、初めて。当時は、子どもの間での秘密ってことで、あの一軒家については親には秘密って暗黙の了解みたいなのがあったんで。




 何のことはないです。その一軒家、家族経営の理髪店だったんですって。俺が子どもの頃にはもう空家になってたらしいですけど。だから、その髪を切る練習用の人形が置いてあったって。ああ、それだけの話か、って思って。




 その日の夜に、久しぶりにその一軒家の前を通ったんですよ。まだ残ってるって話も聞いたんで。


 うちの実家のあたりって結構な田舎だったんですけど、なんだかんだ言っても子どもの頃に比べたらコンビニとか街灯とか増えてて夜でも大分明るくなってて。




 それもあって、子どもの頃には不気味だった夜のあの一軒家も、今ではただの古い空家でしたね。




 明るいんで、夜でも磨りガラスに映る人影が見えました。子どもの頃とは違って、もう一切怖くなかったです。さすがにね。




 ただ、やけにその人影の背が低い気がしたんですよね。まあ、こっちの背も伸びているから、子どもの頃の印象からすると低く感じるのかもしれないですけど。



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