仏様の電話番号
二年前、叔父が亡くなって、その葬式で北海道に行った時のことです。
いや、別にその葬式で何かあったわけじゃあなくて。
空港降りて、タクシーに乗ったんです。
そのタクシーの運転手さんが結構話し好きな方で、だからこっちも葬式で来たんです、っていうことを話して。
そうしたら、そこから、うちの宗教の話になって。いや、葬式の流れで、っていうことは○○宗ですかって訊いてきたんで、深く考えずにそうですって言っちゃったんですよ。
今考えたら迂闊なんですけど、そこから運転手さんが○○宗はこうだよね、って話をするもんだから、運転手さんのところは何宗ですか、って。
宗教の話なんて、するもんじゃないなんて分かってるのに。
運転手さんがね、なんとか教だって言ったんです。いや、正確になんて名前なのかは覚えてないし、そもそも聞き取れなかったんですよ。とにかく、今まで聞いたことのない宗教だったのは間違いないです。
でね。うわっ、やばい。新興宗教だ、って。後悔したけど、まあ、時すでに遅しですよね。
そこからはもう、運転手さんがいかにその自分の宗教が素晴らしいかを語り続けて、こっちはひたすら当たり障りなく受け流しつつ、早く目的地に着いてくれって祈るのみです。
それで、ほとんどの話は僕も聞き流しちゃったし、左から右で全然頭の中に入れてなかったんですけど、ひとつだけ、運転手さん、気になることを言ってたんです。
うちの宗教では仏様に直接電話をかけて相談できるんだ、って。
変でしょ? 仏様と電話って、ミスマッチですよね?
さすがにそれは聞き流せなくて、えって思ったところで、ちょうど目的地についちゃって。運賃支払いながらどういうことですかって訊いたら、運転手さん、お釣りと一緒にメモをくれたんです。電話番号の書かれたメモを。これが仏様の電話番号ですって。よかったらかけてみてくださいって。
その後、特になにもないですよ。葬式も終わって、次の日には東京に戻りました。
ああ、電話番号ですか、もちろんかけてないですよ。怖いじゃないですか。教祖みたいな人につながっても困るし。
でもね、一応、携帯電話に番号、登録はしてるんです。仏って名前で。あはは、そのままでしょ。
そうです、携帯電話の番号でしたよ。
それでですね、つい一週間くらい前から、ずっと毎日なんですけど。
午前三時ごろに、仏から電話がかかってくるんですよ。
怖くて、一度も出てないんですけどね。




