35 今起きてる現状
長い長い閻魔宮殿の廊下の途中、出口まだなのかと思う程。
「てゆうかなんだ、かくかくしかじかあってって、閻魔拾弐星は緊急時にどの地獄にも行けるように十個の部隊がここ閻魔丁に、そして残り二個の部隊が八寒との連携を取れるようにヘル……八寒の女王さまの所に配備してるんじゃないのか?」
嵐が少し頭を掻きながら飛沫の方を見る。
あの、言いたいんだけども……ヘルて北欧神話に出てくる冥界の女王だよね、なんで日本の地獄に?
ぼくが何を考えているとも知らずに椿ちゃんが嵐の話に付け足すように発言をする。
「そうですね、私も閻魔丁を目指してる時、阿鼻で忙しそうにパトロールしている磨羯宮の花鈴さんを見かけましたし、なんかあったんですか?」
飛沫、同僚と思われる妖たちが忙しそうにしてるのに、ぼくと一緒に閻魔丁まで来て良かったのだろうか……。
まぁ、知らない所に飛ばされて嵐や青空に会えたし感謝はしてるけど。
「まぁな、今EUの地獄で内戦が起こってることは紅葉組に所属しているお前らなら知ってるよな」
「してる」
「しってます」
『そんにゃのとっくに知ってる』
ここにいる椿・嵐と電話の向こう側にいる青空が返答する。
へー、EUにある地獄で内戦真っ只中なんだ……。
……うん?
「え、何? 地獄で戦争が起こってるの?」
ぼくは訳が分からず声を出して聞いてしまう。
だってそうじゃない? 悪いことをした人に罰を与えるのが地獄であって、もはや争いが起こるなんて……。
「あ〜、お前は知らないのか、てか知らなくて当然か」
「うん、知らない」
嵐の呟きにぼくはすぐに肯定する。
だってぼく、そのぉ、紅葉組? ていうところに所属してないしね。
「あらかた簡単に説明するとだな。ある日EU地獄を支配、というか管理してるのがゲームとかで堕天使としてお馴染みのルシファーで、そのルシファーさんにいろいろあって善と邪による二重人格が形成される。そしてその邪の心が善の心兼本体と分裂したんだ。そして邪の心は本体から奪った魔力や記憶を基に、肉体を生成した。
そしてピッ◯ロ大魔王のように誕生したのがこの一件の根源であり、よくルシファーと同一人物として描かれる、サタンだ」
「サタン……」
エクソシストに出てくる双子の父親で有名な、あのサタン??
「まぁ、言っちまえばただの喧嘩だろ」と飛沫
サタンとルシファーによる喧嘩……。と言うか、自分同士で喧嘩ってなんか……うまく想像できない。
『なんかサタンってだけで料理がうまそうだったりゲーム……、特に日本のレトロゲームが好きそうな気がするんだよねぇ、会ったことないけど』
青空、会ったことないのにそんなこと言って良いの? それに前者は息子の方じゃない?
「あの、話がだいぶサタンへとそれてませんか? 確か今話す内容はなんで飛沫さんが未だここにいるか、ですよね」
サタンの話に偏って飛沫の方の話が進んでなかった。
確か閻魔拾弐星? とかいう地獄で最強の組織が……、えっとぉ、なんだっけ?
「要は内戦中のEUの地獄から来た悪魔が日本の地獄を襲ってきて、対処させられてるって感じですかね。私、無限地獄で悪魔の大群をエクスプロージョンで凍らせてからの滅して、魂をEUに送り返しましたから」
えっへん! と言わんばかりのポーズを取りドヤ顔をする椿ちゃん。
あの、エクスプロージョンて爆裂魔法だから爆発するんじゃないの? ドーンてさ。
「そういえば、俺も寒名山で悪魔と戦ったな、アレは”紅魔刀”を狙って襲ってきたけどそうなのか?」
紅魔刀、その言葉を聞いて何故だか今まで熱かった胸の奥、ではなくて、心臓が熱く高鳴り、心臓が”キュッ”と引き締められる感覚、そんな感覚に襲われる。
『あ〜、白が引きずってきたあの悪魔? がメドゥーサ様、どうかお慈悲をーとか言ってたよ。笑笑』
笑笑と青空が口で言ってたことはさて置き、次第に熱が体全体を帯び始める。
暑い、体温が高くなるのを感じる。ちゃんと話を聞き取れるだろうか?
そんなことを露知らず、飛沫は話し出す。
「まぁそれでな、EU地獄に居る夏々知様から手紙が届いてな、こう綴られていた」
大丈夫だ、なんとか聞こえる。けど脈が少しずつ速くなってるように、感じる。
飛沫はスマホを起動させて、……おそらく写真で撮った? 手紙の内容を読み始める。
「至急閻魔拾弐星にやって貰いたいことがあります。今現在、日本大使館など他国の大使館がサタン一派に攻められており、防衛を行なっている状況です。捕まえた捕虜の話によると、他国からの支援供給を行わせないようにいろんな国の地獄を攻めているようですので、日本の各地獄に部隊を配備してください。てことらしいぞ」
「それで飛沫さんは凪先輩が飛ばされた大炎熱地獄に派遣されたのですね」
「まぁな。凪を見つけた洞窟……水脈洞窟ていうんだが、そこに地獄のキャンパー達の穴場にしているとこがあるんだがぁ、そこで悪魔の目撃情報があってな。それで念のためってことで俺と部下を含めた三人で潜った訳よ」
『潜った訳よって飛沫、それはここに居る理由になってなくない?』
「おい青空、ちゃんと聞けって」
飛沫が説明している最中に割って入ってくる画面向こうの青空に、飛沫はどうどうと宥める動作をする。
今にも背景に”落ち着け”と付かんばかりに。
「それからしばらくしてキャンパーの穴場がある地底湖に着いたんだがな。…… 青空が持ってきてくれた錫杖とあと手錠やらなんやら、忘れ物に気付いちゃったんだよな」
どう考えても笑いどころではないのだが飛沫はケラケラと多少笑う。
「「「『……』」」」
そして急な沈黙。
沈黙したいるぼくらの後ろをいそいそと忙しそうにして、白を素体とした着物に金と銀の流水紋の着物を着用したお侍さんや、でっかい鎌をもったカマイタチ、記録課と記載された本の束を重そうに運ぶ二本角の鬼さんが通過して行く。
飛沫はケラケラと笑っているけども紅魔刀というワードを聞いてから、体が徐々に熱くなって笑う気力すらないのだけど。
「いやぁ、その前夜に拾弐星が出なきゃいけない程凶悪な妖怪が営業している違法賭博の取り締まりを行なってたもんで、そんで寝不足だったもんでよ」
あった時寝不足とかそんなの感じなかった気がするけど、ぼくと会った時には酸素が充分に回り頭がシャキッとしてたのだろうか。
と、ここでスマホを持っている嵐が少し疲れ気味の顔をして青空に問いかける。
「おい青空、疲れたから電話を切っていいか? 流石に自分の妖力を消費しての電話は疲れる」
「ラジ〜、俺もちょっと腹減ったで目的地である喫茶ホムラにでも早く行くわぁ」
霊魔フォン、確か公共の電波とか使わずに自分の妖力で電話できる、というスマホらしいけどぉ。
やっぱり力を使ってるだけあって使う人の体力も消費するんだ。
「ホムラ……あぁ。お前、霊魔界に行くのか、こんな地獄が大変な時に」
嵐、地味に嫌味入ってない? 自分はこれから仕事やるからってさぁ。
「んじゃ、隠世と現世を繋げる狭間に強者悪魔を倒しに行く時とか、千弦神社に集まる時とかに顔を見合われるかもだねぇ」
……ん? 今、青空はなんて言った?
隠世と現世を繋げる狭間に強者悪魔を倒しに行く。
あれ? 地獄は百年に一度の大工事のために現世に帰れないんじゃなかったの?
「おい青空、それはどういうことだ!」
嵐が驚いた感じで青空に問いかけるも、時すでに遅し。プッという音と共に電話は切られた。
ハァハァ
アレ? なんで息が切れ始めてるの? どんどん辛くなってきてるんだけど。
歩みを止め、走った後みたいな前屈みにならないと、なんか辛い。
「……先輩? 大丈夫ですか、急に息切れし始めて……」
少し前のめりになりつつあるぼくの顔を心配してなのか椿ちゃんが顔を覗かせてくる。
「……少しどころか風邪をひいてるってくらい熱がありますよ」
顔を覗かせた椿ちゃんは、そのまま自分のおでことぼくのおでこをくっつけてそう言った。
「おい凪、乗れ」
その優しい声を聞いて顔を上げると、背中をこちらに向けてしゃがんでいる、嵐の姿が見える。
「う、うん」
ちょっと恥ずかしいけど、嵐の背中に乗れるのはなんか嬉しい。
少し辛いけど椿ちゃんに支えられながら嵐の背中に乗る。
その時、飛沫の顔が薄ら見えたがどう見ても心配してるような顔ではなく、ニマニマとこちらを見ていた。そのめに少し怒りがこみ上げてしまったくらいだ。
「うし、ちょっと戻る羽目になるが医務室に運ぼう」
嵐の背中、今自分自身も熱いはずなのになんだろ? 嵐が暖かく感じる。
◯
EU イギリス地獄 日本大使館
大使館を中心に数キロにわたる結界が張られていた。
そんな結界のある中、一番戦いが激化している戦場、その中でも最前線である結界の淵、外側。
そこには日本で最も恐れられている鬼神が一人と紅葉組をまとめ上げる十代目が一人、後衛にいる傷だらけの仲間を援護しながら悪魔の大群を焼き払ったり肉体を消滅させたりして進行を阻止していた。
中性的な顔立ちに猫っ毛で栗皮色の茶髪、赤橙色に煌く瞳は戦場に張り込む闇を見据えているよう。
「死ぬ気で、大使館を守る!」
この青年、十九歳にして大空剣正統後継者であり、現紅葉組の頭首 夕影 秋空。
夕焼け空のような橙色をした暖かみ溢れる大空属性の炎、その炎をXと刻まれた穴あきグローブを通した拳に宿し、多数の敵へと食らわしていく。
「天空X爆風」
オレンジ色に染まった炎を右手と左手に集中させエックスの形を取る。
前方と後方に橙色の炎を放つと敵味方関係なく炎は全てを包んでいく。
炎に巻き込まれた敵は妖術、並びに魔法を宿した武器が徐々に石化していく。
そんな炎の中で味方だけが橙色の炎を帯びて傷を癒して行く。
「だいぶ慣れましたね、その技。天さんが使ってくれと頼まれた時は顔を地味に赤面させて撃ってたのに」
そんなことを言いながら懐かしそうな顔を浮かばせ、容赦なく金棒を振る鬼神 夏々知
「流石に五年も言ってれば慣れる」
「あ、もう五年も経つのですか。案外早いものですね」
閻魔大王の第一補佐官にして、日本で一番恐れられていたり、敬われたりする鬼神界のトップである夏々知は視察のため、EU地獄を訪れていたのだが、内戦が激しくなり帰るに帰れなくなりこうして大使館を守っていた。
「それにしても、いますね。秋空さん」
「薬以外にも関与しているからな」
「なんせこの戦争、最初はただの喧嘩が発端なのですからね」
お互いそう言いながら近くにいた悪魔を一撃で戦闘不能におとす。
戦闘不能になった悪魔からはどす黒い邪気を纏った妖怪、妖怪といっていいのかわからないが異様な姿をした者が悪魔の肉体から離れる。
「やはり、怪魔でしたか……」
100万倍楽しめ!なぎあら講座☆
夏々知さんの持っている金棒は呪物であり本人曰く、平安時代の終わり頃、少なくとも鎌倉時代が始まる前ぐらい、そのぐらいの時代にある闇市にて高値で購入したとのこと。




