34 昔があって今いたる
「俺らさ、早く目的地に向かいたいんだが」
『そう急かせないの、嵐〜』
ここは閻魔宮殿の長い廊下。
ついさっき未右ちゃんと来左ちゃんの居た二重の扉を抜けて嵐、凪、椿ちゃん、飛沫で閻魔宮殿から出るところだった。
『だって飛沫がさ、凪のこと男だと思ってたんだよ』
霊魔フォンというあの世の携帯電話の向こう側で、ケラケラと笑う青空の声がスピーカーを通して聞こえてくる。
「その話は……なんか聞きたくないからやめろ」
『え〜、だってこの霊魔フォンをわざわざ流さんが持ってきてくれたんだよぉ』
「俺たちの所には椿を通して渡されたがな」
つい数分前に閻魔様は仕事に戻るために閻魔庁という亡者に裁判を下す部屋へ、凛蓏さんはこの閻魔丁を守護するためにとそれぞれの持ち場へと戻っていった。
その時に椿ちゃんが「すっかり忘れてました、はいどうぞ」と言ってあの霊魔フォンを嵐に渡していた。
てゆうか誰だろ、流さんって……。
また知らない人の名前がでてきたよ。祓屋の人達だろうからぼくが知らないのも当たり前だけども……。
『そういや結局さ、飛沫がなんで男と間違えたかばか気になるんやけど』
「まだその話を続けるきか」
ん〜、ぼく的には聞きたいけどね、間違えた理由。
「ぁん? 凪を男と勘違いした理由だぁ?」
『そうそう、飛沫なんで間違えたのさぁ』
スマホを通して聞こえる青空の声はワクワクしてる子供が親や友人にねーねー、アレなに? アレ! と騒いでるまさにそれだ。
「あの、切っていいか?」
そんなはしゃいでるクラスメイトを黙らす手慣れた友人のように嵐が言葉を挟む。
「いいじゃないですか、私も聞きたいですし。こんな普通の女の子を男の子として見てた飛沫さんの言い分を聞いてみましょ」
自前のアメだろうか? 棒付きキャンディーを口に咥えた椿ちゃんは飛沫にガンを飛ばしてしていた。
『とゆうか俺は何故に未だ閻魔丁にいる飛沫の理由も知りたいんやけど。今はかくかくしかじかあって閻魔拾弐星は各地獄に行ってるんじゃにゃいの?』
うぅん、かくかくしかじかってなによ、アニメとかでたまにみるけど。
「あの、青空先輩。一気に質問をしたら混乱しますから凪先輩問題を解決してからそれ聞いてください」
『あ、はい』
年下に注意されるって青空、相変わらずだなぁ。
しかもマイク越しに……。
「で、なんで凪を男と見間違えたかって、それはだな——」
ゴクリ
聞きたくないと思ってる嵐以外が唾を飲み込む。おそらく青空はスピーカーに耳を当ててるか音量をあげたりしているかもしれない。
「——昔、お前に似た男が居てな、なんだ、今でゆう男の娘って部類のやつだ」
飛沫、エモいは知らないのになんで男の娘は知ってるのか疑問なんだけど……。
「そんで男の娘の名が、火野 時化」
えっ、時化?
時化って神奈川県にいるおじいちゃんの名前も時化なんだけど……。おじいちゃんの旧姓は確か火ノ裏だったはずだから知り合ったのなら多分結婚した後に、かな?
「んでその時化てやつが凪と地味に瓜二つ、そりゃ間違えるわ」
そのあとに似たやつなんて時間と広い世界があればすぐに会えるしなと付け足した。
「なるほど。つまり昔に男を女と見間違えたという前例があるから、凪先輩を男と認識してしまったていうことなんですね」
なんか性別の間違えられ方が某友人帳の主人公みたいな感じで……なんだろ、言葉にならないや。
「まぁ、今改めて見るとオーラというか雰囲気というか、なんかいろいろと時化そっくりなんだよなぁ」
飛沫がう〜んとかどうとかやりながら考えていると今まで黙り込んでた嵐が口を開く。
「なぁ、その時化って人の名字って現姓か? それとも旧姓か?」
「えっ、あ〜、現姓だと思うぞ。時化十八で結婚して婿入りしてたからなぁ」
十八で婿入りって早いような。まぁ、今でもいる人はいるからなんとも言えないけど。
「確かぁ、旧姓は火ノ裏だったか?」
「「『ッ……!?』」」
火ノ裏って珍しい名字だし、まさかまさかのおじいちゃん説があるんだけど……。
とゆうかなんで電話越しの青空とそれを持ってる嵐まで一緒に被ったんだろ? 不思議……。
「『火ノ裏さんって、あの火ノ裏さん?』」
電話越しではあるが、あの嵐と青空がハモるなんて、珍しい気がする。
「あ? お前ら時化のことしってるのか?」
「私は知りませんよ。紅葉組の上位組にそんな人いました?」
飛沫の問いに即否定を入れる椿ちゃん。「なんで青空先輩がしってるのに先に入った私は知らないんですか」とボソッと呟いていた。
椿ちゃんって青空より先に祓屋やってるんだね。……そういえば青空っていつから祓屋やってるんだろぉ?? 少なからず中三の時は見える妖と見えない妖で差がありすぎて白や嵐には祓屋にはなれないとか言われてたけど。
『……陽の型』
スピーカーを通じてそう聞こえた。
そしてその言葉と共にまた胸の奥が熱くなる。
「九代目陽の型正当継承者で女性—巫女が多い陽の型継承者で二人しかいない覡—男性の一人が火ノ裏さん、当時の紅葉組では八本目の剣とも言われるぐらいだったらしい」
今の八本目は流さんだけどと付け足して嵐は口を閉じる。
てか、また出てきたよ、流さんって人。
「へー、時化そんな凄い奴だったんだなぁ。俺が最後に会った時なんて、炎の型が全然覚えられなくて師匠にたんこぶできる程怒られてたぐらいだったのにな」
ケラケラと笑いながらどこかその当時を懐かしんでいるようだった。
……おじいちゃん、そんな過去があったんだ。
「扱う者は華麗に太陽の炎を操り、なおかつ辺りを照らす希望の光であれ、ていう伝承が残されているが、時化さんはその通りなんだよな。俺ら学生組にはよくダメなところを指摘してくれる良い先生だったよ」
そんな話をすると共に嵐は右手で左胸を押さえていた。
『そういう嵐は対となる月の覡だけどにゃぁ』
陽、太陽ときて次は月、いわゆる正反対の存在ということなのだろうか? 光と闇的な……?
そう思うとぼくと嵐も名前的にも正反対なんだよね。ぼくの名前、凪は波も風もない穏やかなことで、嵐はその真反対の意味だし。しかも苗字まで火野と氷雨で相反するエレメントが入っているし……。
「そういうお前は虹の覡”候補”だけどな」
『うっさい、ばーか!アホ! あとは流さんに勝てば試練クリアだもん!! それに俺、雨の覡だもん!! 剣だし!!』
小学生並みの罵倒、やっぱり変わってないなぁ、青空。
「はぁ、飛沫さんが凪先輩のことを男と間違えたのは分かりましたが、青空先輩! 次の質問はしなくて良いんですか?」
「次の質問ってなんだっけ?」
ふぁぁぁとあくびをしながら飛沫は嵐の持つスマホを見つめる。
『あっ、えっ、っとぉ、あぁ思い出した思い出した、あれっしょ。何故に飛沫がまだここに居るか、でしょ?』
質問者自体が質問にたいして疑問形を使ってるよ。
まぁ、そこも昔と変わらずってことね。
知ってお得!!100万倍楽しめ!なぎあら講座☆
飛沫の名前の由来は血飛沫・飛沫雨・水飛沫から取られています。




