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ありすとてれす  作者: 春乃
97/259

97話 お見舞い行かないの?

 高井たかいさんと赤川あかがわさんと学食にやって来た。お昼時なので多くの生徒でにぎわっているが、高井さんはすぐに空いている席を見つけてわたしに言う。


「わたしたちは買ってくるから、最上もがみさんは先にあそこで食べてて?」


「うん、わかった」


 わたしはうなずいて一人でその席に移動した。

 席に座って、食べ始めるのは二人を待ったほうがいいのかどうか少し悩んで、変な気は遣わないほうがいいと結論づけて、お弁当をオープンする。


 今日のお弁当で最も存在感を放っているのは、なんといってもハンバーグ。おそらくだけど、みんなが好きなお弁当のおかず四天王にはいっているに違いない。


「いただきます」


 両手を合わせてから、ハンバーグを一口。

 ……もぐもぐ。


「美味しい」


 いつもと変わらない、美味しいハンバーグだった。デミグラスと肉汁が絶妙なハーモニーを奏でている。

 ……そう、変わらない。学校も、お弁当も。違っているのはてれすがいないということだけだ。だというのに、そのたった1つが欠けているだけですごく足りていない気がしてしまう。

 

 お弁当を食べること少し。足音がわたしの目の前で止まって、イスがひかれた。

 顔を上げると、学食のおぼんをもった高井さんが座っている。


「いやー、最上さん、ごめんね」


「ううん、気にしないで」


 学食なのだからしかたない。今日ご飯をさそってくれただけでもすごくありがたくて嬉しいのだ。わたしが言うと、高井さんは笑顔になって食べ始めた。


「いただきます。……もぐもぐ」


 高井さんが食べているのはオムライスだった。ふわふわたまごがものすごく美味しそうだ。高井さんのオムライスを見ていると、ふいに高井さんが話を切り出した。


高千穂たかちほさん、風邪なんだね」


「うん」


「やっぱり、昨日の?」


「うん」


「最近はずっと学校に来てたから、休むのなんか珍しいよね」


 美味しい、とオムライスに舌鼓を打ちながら言う高井さんの言葉が、なんだか嬉しかった。やっぱりわたしだけじゃなくてクラスのみんなも、てれすは4月の初めのころとは変わったって思っているらしい。もちろん、いい意味で。


 高井さんに返事をしようとしたとき、注文を終えた赤川さんがおぼんを持ってやって来た。

 

「おまたせー。何の話?」


 高井さんの隣に腰を下ろしながら首をかしげる赤川さんに、高井さんが説明する。


「高千穂さんが休むの、珍しいよねって話」


「あー、たしかにそうかも」


 赤川さんはうんうんとうなずきながら苦笑した。


「4月あたりはさ、教室にいないのが当たり前だったのにね」


「たしかに。これも最上さんのおかげだろうね」


「え、わたし? そんなことないよ」


 そんなこと、考えたことなかった。

 わたしはただ、てれすと仲良くなりたい、お話がしたいって思っただけなのだ。それがきっかけになっててれすと仲良くできてる……のかな?

 まぁ、始まりとかきっかけとかは置いといて、今てれすと一緒にいることが楽しい、嬉しい、好きってことが大事なんだと思う。


 わたしが首を振るのを赤川さんはからあげを食べながら「そうかなぁ」と聞いていた。そして、何か思い出したのか「あっ」とつぶやいた。食べているからあげを飲み込んでから赤川さんがわたしに尋ねる。


「そういえばさ、最上さん」


「?」


「高千穂さんのお見舞いに行ったりしないの?」


「え? 行かないよ?」


「行かないの? どうして?」


「わたしが行っても、迷惑だと思うし……」


 お見舞いに行くなんて、考えもしなかった。昨日から電話はもちろん、連絡もしていなかったから、その選択肢自体がなかったのだ。

 でも、どうなんだろう。やっぱり、体調が悪いときに人に来られると迷惑だと思う。

わたしが頭を悩ませていると、赤川さんは軽く否定した。


「そんなことないよ。ねぇ、高井?」


「うん。嬉しいと思うよ。わたしたちも行きたいところだけど、部活があるし」


「へぇ、部活がなかったら高井も行きたかったの?」


「べ、別に普通に心配だから。クラスメイト……というか友達だし」


 赤川さんにからかわれて、高井さんはほっぺたを少し染めて「ふんっ」と顔を逸らす。

 二人がてれすのことを友達って思ってくれていたことに驚きながらも嬉しく感じ、なんだか背中を押してもらった気がした。


「わかった。いってみるね」


 とりあえず、てれすに連絡をしてみることにした。


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