39話 てれすを起こそう
「ふぅ、ちょっと休憩しよ」
シャーペンを置いて、両手を上に伸ばす。
てれすが寝ちゃったから、わたしは一人でテストの直しをして復習したり、予習をしたりした。
てれすがわたしのベッドで寝ていることを除けば、もはやいつもと同じである。
ちらっとてれすを見ると、まだすやすやと眠っている。さすがにそろそろ起こさないと、だんだん辺りが暗くなってきてしまう。
気持ちよく寝ているところ申し訳ないのだけど、起こさせていただくとしよう。
「おーい、てれす。起きてー」
わたしがてれすの枕元に寄って声をかけるが、反応はない。
熟睡、だね………。
こうしているとてれすの顔が近くて、整った顔立ちや綺麗な髪、そして桜色の唇に目がいく。
…………………。
「って、しっかりしろわたし!」
思わず見入ってしまいそうになる気持ちを、首をぶんぶん横に振ってとどめる。
ちゃんと起こさなきゃ。
どうしようかと考えて、わたしはてれすのほっぺたをつんつんと突っつくことにした。
あ、柔らかい………。
突っついたわたしはそんな感想を抱いて、突っつかれたてれすは、ん……、と息を吐いて、顔を私に向けるように寝返りを打った。
それから、もう一度突っつこうかとしていたわたしの手を握る。
「え…………」
ど、どうしよう。
思わぬことに、動揺してしまう。
手を振りほどくのもなんだかなぁ。
とりあえず手はこのままにして、てれすを起こそう。
「てれす、起きて。てれすー」
名前を呼びながら、空いている左手でてれすをゆっさゆっさすると、ようやくてれすに動きがあった。
わたしの手から手を離し、目を擦りながらゆっくりと起き上がる。
「…………あれ、ここは?」
まだ寝ぼけているのか、てれすは状況がわかっていないらしい。
「てれす、おはよう。覚えてる? わたしの家だよ? 」
「ええ、おはよ………。…………え、ありすの家?」
てれすはきょろきょろと回りを見渡すと同時に、目をきっちりと開いて、ようやく思い出してくれたみたいだ。
「ご、ごめんなさい…………。寝るつもりはなかったのに………」
いの一番にてれすが頭を下げる。
「いいよいいよ。それより、ぐっすり寝てたけど、そんなり疲れたの?」
わたしが訊ねると、てれすは答えにくそうに言葉を濁す。
「いや、その………」
それから一瞬、わたしを見てすぐに目を逸らすと、頬を染めて恥ずかしがるように口を開いた。
「今日のことを考えていたら、なんだか眠れなくて…………」
「あ、そういう………」
まぁ、友達の家に来るのは初めてって言ってたもんね。
てれすの気持ちはわからなくもない。
わたしも遠足の前日の夜は、わくわくしてなかなか眠れなかったものだ。…………小学校の低学年のときの話だけど。
でも、今日はチュートリアルみたいなものだろう。
次がある…………かどうかはわからないけど、次はてれすもきっと大丈夫のはず。
「次来るときは、ちゃんと睡眠をとって来てね?」
「え、また来てもいいの………?」
てれすが驚きと不安に満ちた目を向けてくる。
「もちろん。てれすなら、いつでもうぇるかむだよ」
「…………ありがとう」
そう言って、てれすがやっと笑顔を見せたので、安心しつつも、なんだか嬉しくなった。




