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皇帝との謁見

 デクマヌス宮殿。

 皇帝のおわす巨大建造物の前に人影がある。


「どうか、皇帝に謁見の機会をいただけないでしょうか。」

「いや、しかし。アーカードさん。女連れてそんなこと言われてもねえ。」


 オレと共に跪くのは二人の少女。

 イリスと、ココだ。

 

 ココはオーク達によって滅ぼされたベリコ村の住人だった。

 彼女が持ち込んだ情報は帝都をひっくり返しかねない。その情報の詳細を語らせる為に連れてきたのだが、裏目に出てしまった。


「しつこいな、あんたも。」

「つーかさ。女なんて下賎なものを連れて、よく皇帝に会えると思ったな。」


 門番の奴隷の言葉にココが歯ぎしりした。


 この少女は情報を運ぶ際、野盗に襲われて実の兄を亡くしている。

 更に言えば、村ではオークに両親を殺され。死体を弄ばれている。


 ようやく帝都へ到着し、皇帝も目の前というところで、女だという理由であしらわれては恨みも募るだろう。


 だが、それは逆効果だ。

 ココの態度に皇帝の奴隷がイラついている。


「なんだ? 自由民の分際で、その反抗的な態度は。」


 本来、奴隷は身分が低いものだが、皇帝の奴隷は例外だ。


 皇帝の所有物である彼らは、むしろ皇帝以外のすべてを見下している。

 奴隷が持つコンプレックスが悪い形で発露してしまっているのだろう。


 それがこの奴隷の勘違いであれば、まだやりようもあった。


 だが、この奴隷の身分は奴隷商会を纏めるオレよりも上だ。


 オレはココに睨みを効かせると「とんでもございません。」とへりくだり。「しかし、帝都に危機が迫っているのです。どうか、お耳に入れていただけないでしょうか。」と続ける。


 誰に対しても尊大な態度に出てしまうのは、若くして儲けた商人が陥りがちなミスだ。


 皇帝に対して同じことをすれば、皇帝侮辱罪という曖昧な罪を着せられて処刑される。


 ここは何を言われても、頭を下げ続ける他ない。


「しかも、なんだぁ? このちっこいのは。銀の髪に赤い瞳、ついでに耳まで尖ってやがる。エルフってやつか? そんなお高くとまった差別主義者をこの宮殿に入れるわけないな!」


 奴隷がつばを飛ばしてイリスを罵ると、イリスがむっとした。


 おい、待て。早まるな。

 イリス、確かにお前の気持ちはわかる。


「差別してるのお前じゃん?」と言いたいのだろ? とても理解できる。


 だが、ここは大人しくしてくれ。

 どうしても着いてきたいと言って聞かなかったのはお前なんだぞ。


「あー。これ、わしが問題になっとるんか?」


 イリスが跪くのを止め、あぐらをかく。

 あまつさえ、頭をぽりぽりとかき始めた。


 な、何をしているイリス!!

 

 冷や汗の止まらぬオレを尻目に、イリスが続ける。


「おい、奴隷。皇帝に伝えておけ。カルマが先々代に会いに来た、と。」


「まぁ、伝えなくてもいいがな? 後になってお前の首が飛んでもしらんぞ。」


 あまりに堂々としたイリスの姿に奴隷が目頭を震わせる。

 

「大した手間ではあるまい、皇帝が「殺せ」と言うなら。わしら三人で首を差し出そう。」


「どうだ、お前にリスクはあるまい。」


 門番の奴隷は少し考え、戻っていく。

 オレ達が門を通されたのはそれからすぐのことだった。

 



 赤い絨毯がしつらえられた廊下を歩きつつ、イリスをちらと見ると「ああ、昔。ちょっとの。」と言って口ごもる。


 まさか、先々代皇帝と関係があったとは。

 イリスは600歳を超えているから時代的には可能だが、どの時代であっても皇帝に謁見することは難しい。


 一体何があったのだ。


「それを言わせるんか? 仕方ないのう、お前だから教えるが。わしにも恥じらいというものが。」


 もっと近う寄れと要求するイリスに耳を近づける。

 14歳の姿をとるイリスの熱い吐息が、耳にかかった。


「下半身のトラブルじゃ。」


 驚愕の事実だった。

 イリスの脳が下半身に支配されていることは理解していたが、時の権力者と性的な関係を持っているとは。


 もし、皇帝との間に子が産まれていればイリスは皇帝の縁戚に名を連ねる人物になる。

 確かに皇帝はイリスを無視できないだろう。


 というか、イリスを奴隷にしているオレは大丈夫なのだろうか。


 知らずにやったこととはいえ皇帝の縁者を奴隷にし、使役するなど。皇帝侮辱罪どころではない。どう考えてもオレの首は飛ぶが……。


 いや、待て。落ち着け。

 まだそうと決まったわけではない。


 焦りを隠しながら先へ進むと、先導していた奴隷が豪奢な扉の前で止まった。


 門番なのだろう。

 年若い、双子の少年がうやうやしく扉を開ける。


 謁見の間では左右に臣下が膝を付き、中央上部にある階段の上に皇帝が座っていた。

 隣には秘書官らしき、眼鏡の女が立っている。


「アーカードか、久しいな。」


 皇帝がまず声をかけたのはオレだった。

 この状況で、処刑宣告されたら詰みだな。


「おーい! 皇帝!! カルマじゃぞ☆」


 イリスがきゃぴっ☆としている。

 無礼千万な行動だが、皇帝と旧知の仲であれば、むしろ親しみの表明であろう。


 オレが長い髪で隠れた瞳で反応を見ていると、皇帝は何事もなかったかのように無視した。親しく、ないのか?


「アーカード。我に見せたい物があるとのことだが。何だ? 知っての通り、我は忙しいのだが。」


 イリスと皇帝の関係は不明だが、この期を逃すわけにはいかない。

 オレはココを一歩前へ出させ、胸から紙束を取り出す。


 命懸けで情報を届けた功労者。

 そして、リズ・ロズマリアが残した敵勢力の情報だ。

 

 無礼がないよう、丁寧に事情を説明すると皇帝に「我が読む」と断ち切られた。「紙束をここに。」と。


「しかし、御身に血が触れます。」

「皇帝直系のロズマリア家は我が血肉も同然よ。その血が触れて何になる。」


 皇帝は続ける。


「リズは愚かな女だったが、それでも我が血肉に変わりない。奴が最後に残した言葉は我が目で見るべきであろう。」


 薄汚れたオレの心に畏敬の念が沸き起こる。

 言葉ひとつでこれだ。


 この時代に君臨する皇帝はその所作だけで人を魅了する。


 臣下が紙束を受け取ろうと膝を立てると、皇帝が制止し、ココに持ってくるよう命じる。


 驚きに目を見開くココにオレが紙束を渡すと、ココは溢れんばかりの敬意を胸に階段を登り、皇帝に手渡した。


 皇帝は血塗られた紙束に厳しい瞳で目を通すと、目を閉じ、略式の聖句をあげる。


 ごく短い黙祷だ。

 これでリズも浮かばれるだろう。


 皇帝はココに何か言葉をかけ、ココがいくつか返す。

 ここからでは聞き取れない、特別なやりとりが交わされていた。


 皇帝がココの手を引き、椅子の横へ立たせるとこう言った。


「この娘は我の養子とする。異論は認めぬ。」


 養子とはいえ、皇帝の子だ。

 後継者問題に発展しかねない。


「養子?」

「奴隷ではなく、養子か?」


 突然のことに臣下がざわつくが、皇帝は気にもしていない。


 絶望の淵から、皇帝の養子へ。

 掬い上げられたココはその生涯をかけて皇帝を敬愛するだろう。


 その利用価値は計り知れない。


「そして、アーカードよ。よくぞココを連れてきてくれた。礼を言うぞ。」

「お前とはいくらか話したいことがある。近隣の村を襲うオークの件についてだ。」


「単刀直入に聞くが、どこまで知っている?」


 皇帝の言葉が不可視の刃となって、オレに向く。

 魔力でも、戦闘力でもない。


 ただ、完成された何かが次元の違いを告げてくる。

 自分より頭の悪い者を支配するネイロンの魔眼も皇帝には効かないだろう。


「恐れながら申し上げます。」

 

 オレは告げる。

 帝都の危機を、そして反逆者ゼゲルの成り立ちを。

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