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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Sexto Capítulo / 第六章
37/52

1. 大晦日の帰省

2008.12.31 06:36



 夜明けの光を背に受けながら、高速道路の走行車線を巡行する。時折、琥珀色の光の切片が路面に反射して、視界を妨げる。


 それを目蓋を細めながらやり過ごしつつ、助手席に視線を走らせる。アスティは涼しげな眼差しで、車窓を流れていく山間の景色を追っていた。


 いや、実際には屋根がオープンになっているので涼しいどころか、オレはコート、手袋、ニットキャップ姿で震えながら運転しているのだが。寒冷地仕様の人類には、まだまだ余裕があるらしい。後れ毛を風になびかせながら、気持ち良さそうに眼を細めている。


 モンゴロイドの感覚からかけ離れた寒さ耐性を目の当たりにして、また一つ違いを発見とほくそ笑む。


 短いトンネルをいくつか抜けると、長い下り坂の標識が目に入った。クラッチを切って、アクセルを軽く煽ってからギアを4速へ落とす。アクセルをもう一度ゆっくりと踏み込んでいくと、緩やかな左コーナーへ吸い込まれるブルーの車体。


 早朝の高速道路は流通関係の大型トラックが多くて、軽自動車規格のオープンツーシーターはそれらの間をフワフワと舞う木の葉みたいに頼りない。


 アスティにこの車を初めて見せた時の反応を思い出して、口角が少し上がる。


「わ、なにこれ!? 物凄くコンパクト。これも自動車なの?」

「そうだよ。軽自動車っていう規格なんだけど、ひょっとして北欧にはないのかな?」

「日本車はそれなりに見掛けるけど、こんなに小さいのは初めて。やっぱり欧州メーカーの車が多いかな。Volvoとか、Volkswagenとか」

「Volvoって、トナカイにぶつかっても大丈夫な様に頑丈に出来てるってヤツだよね。スウェーデンのメーカーだっけ」

「へー コレ、Hondaなんだ。兄さんのバイクと同じ」

「え、お兄さん、バイク乗ってるの?」

「バイクのレーサーになるって言って、両親を困らせたこともあったわ。でも、日本人って何でもコンパクトにするのが得意ね。ひょっとして、屋根開くの?」

「そうだよ。で、エンジンはここね、座席の後ろ。残念ながら、荷物はあまり詰めません」

「素敵! 不思議な車。カワイイ! ね、屋根開けてみて!」

「え、真冬なんですけど…」

「でも、せっかくのオープンカーでしょ? ほらほら!」


――――――


 サービスエリアの表示を確認して、アスティに目配せしてから、左ウインカーを出す。寒さしのぎに用意したホットコーヒーを飲み過ぎて、そろそろトイレに立ち寄らないと厳しくなってきている。


 走行車線からサービスエリアへの側道に車線変更して、サードまでシフトダウン。エンジンブレーキとフットブレーキを併用しながら、出来るだけ緩やかに速度を落としていく。


「さっき、孝臣、運転しながら笑ってたよ。どうして?」

「ん。何でもないよ」

「ウソ。なんか楽しそうだった。そういう気持ちは独り占めせずに、シェアしないと。そうすると、楽しさも二人分で二倍になるんだよ?」

「んー アスティが、この車を気に入ってくれて良かったなぁって考えてた」

「そりゃそうだよ。車に乗ってる間も日光浴できるって、とっても素敵!」


 そう言いながら両手を大きく広げて、早朝の冬空へ向かって上半身を伸ばすアスティ。全身で朝日を浴びている姿は、本当に幸せそうだ。真冬でも屋根を開けて日光浴したいって、どれだけ太陽に飢えてるんだろう、北欧人……


 そのまま駐車スペースに低速で入っていくと、自動販売機前にいた数人の家族連れが好奇の視線を向けてくる。助手席にはバンザイしたまま、眼を閉じて微笑んでるアスティさん。彼らの視線に気付いてないんだろうな。基本的にシャイで目立つの苦手みたいだから、そっとしておこう。


――――――


 早朝のサービスエリアは利用客も少なかった。トイレをサッと済ませて車に戻ると、朝食にとアスティが用意してくれたサンドイッチを頬張る。やはりというか、今回もサーモンサンドだ。彼女が作ってくれる携帯食の定番にして、ノルウェー人必須メニューらしい。美味しいからいいけど。


 スモークサーモンと厚切りチーズに、マスタードマヨネーズが絡む。そこに黒胡椒がピリリと良い仕事をしていて、気が付いたらペロリと一つ平らげてしまった。寒風の中の運転で思いの外、消耗していたのかも知れない。


 差し出されたもう一つのスモークサーモンを受け取る。視線でありがとうと伝えると、眼を細めながら微かに頷く彼女。


「あとどれくらいで着くの、孝臣の実家?」

「もう少し高速道路走ったら最寄りの料金所。そこから15分くらいかな」

「わぉ! もうすぐだね、日本の田舎! 温泉! 古寺! 獅子舞!」

「なにその組み合わせ。まぁ、全部あるけど。あ、でも、獅子舞じゃなくてお神楽だよ」

「オカグラ? 初めて聞く言葉。なに?」

「神道のね、神様に見てもらう踊り、かな。神社のお祭りとかで舞うんだよ。でも、緊張とかしてないの?」

「う。それは考えない様にしてるの。孝臣の家族が私を見て、どう思うかわからないし」

「あー そうだよねぇ。オレも正直、想像つかないかも」


 不安を呟きつつも、彼女の瞳から好奇心の輝きは消えない。スケジュールにお神楽鑑賞を組み込もうか。


 クラッチを切ってサイドブレーキを下ろすと、シフトノブをローに送り込んで、ゆっくりとサービスエリアを後にした。

 久し振りにお昼休み更新してみました。

 サーモンサンド、美味し。

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