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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Cuarto Capítulo / 第四章
28/52

5. delay(ディレイ)、再び

2008.11.03 00:41



「ふーん。貴方、それで言い訳したつもりなんだ?」


「この不届き者が。もはや日本男児の風上にも置けんな」


「いや、ゲルマン男児の風上にも到底置いておけませんよ、おみちゃん」



 またこのパターンだ。

 ここは深夜のバー「delayディレイ」。


 オレの正面、カウンターの中にバー「delayディレイ」の店長、左側に鉄板焼き料理「虎鉄」のマスター、そして、右側にはアスティの上司のヴィクトル。ってか、ゲルマン系なのはアスティであってオレは純然たる日本人だ、ヴィクトル。


 アスティと一緒に気持ち良く意識を失って、ベッドで微睡まどろむことわずか15分。携帯電話が鳴った。それもオレのとアスティの、二台同時に。


 それぞれ寝ぼけながらもモソモソと手を伸ばす。社会人の悲しき性と言えるだろう。表示されている発信者の名前を確認して、ほぼ同時に呟く。



「ヤバい。この人のこと、完全に忘れてた」


「まだ日本にいたんだ、ヴィクトル」



 アスティのヴィクトルに対する扱いが少し酷いが、きっと気のせいだ。そのまま訳のわからない酔っ払いトークに耳を傾けていると、どうやらオッサン三人がバー「delayディレイ」に集まっていて、いますぐ来いと主張しているらしいことが判明。


 で、協議の結果、オレが親善大使というか酔っ払いへの供物として、現場へ釈明に向かうことになった。



「じゃ、行ってきます……物凄く気乗りしないけど」



 ベッドから手をヒラヒラさせてるアスティにしかめ面で別れを告げて、オレはいまここにいる。



「だいたいね、連絡一切ナシとかどーゆーことよ」


報告連絡相談ホウレンソウがなっとらん。心配させよってからに」


「私も心配で胸のワクワクが止まりませんでした」


「いや、スミマセン。色々と取り込んでまして……」



 平謝りだ。仕方ない。オレが悪い。多少おかしな表現が混ざってた気がするが、いまはサンドバッグに徹する時だと、社会人としての経験が告げる。



「で、いつまで日本にいるのよ、アスティちゃん」


「さぁ、それは……」


「そんな大事なこと、なんで確認してないの!?」


「聞け。尋問しろ。そして、言質を取れ」


「あの、その辺ってどうなんですかね、ヴィクトルさん? 就労ビザで日本に滞在してる外国人が仕事辞めた場合、すぐに出国しないといけないんですか?」


「いや、その場合はたしか3ヶ月くらい猶予があるはずです。詳細は人事に要確認ですが」



 そうなんだ。アスティはどうするつもりなんだろう。ちゃんと話しないといけないなぁ……



「相変わらずツメが甘いけど、まぁ今夜のところはいいわ」


「そうだ。よくやった。今宵は祝杯の宴だ」


「いや、もう日付変わってますけど」


「問題ありません。今夜は朝までオールで営業してくれるそうですよ、店長さんが」


「はぁ!? もう月曜日ですよ! 仕事あるんですけど、オレ?」


おみちゃん、お酒に関してドイツのことわざがあります」


「あ、ビールとソーセージの国だものね。興味あるわ。どんなの?」


「偉人いわく、酒は美濃賀茂。女郎は三島。家来は木下藤吉郎」


「……いや、信長ですよね? どう考えても織田信長でしょ、それ」



 こうして、奇妙なオッサン三人組につつき回されながら終わっていくオレの週末。


 翌日、二日酔いの頭で週明けの仕事がまったくはかどらず、帰りが遅くなってアスティの機嫌まで損ねるというオマケつきだった。

 いつの間にかブックマーク18件!も頂いてます。有り難うございます。とても励みになります。



 さて、この後どうしよう……

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