24話 事件勃発
動揺するな、悠斗。そう言い聞かせてようやく平静を取り戻し、特に何もない平和な日々がしばらく続いた後のことだった。
「あの、シャルロット様。放課後お部屋に伺ってもいいでしょうか」
「……ええ、いいけど」
どうしたんだろう。エマのどこか思い詰めた顔が気になって俺はすぐに頷いた。
「そういえば……どう、大変身した気分は?」
部屋を訪ねて来たエマに挨拶がてら俺は訪ねた。
「なんだかむずむずします……周りの目線がこう……気になって」
「いずれ慣れるわよ」
「はあ……」
まああのずたぼろ状態からこうまで変われば人目を引くのも当然だろう。
「で、用事は?」
「いえ、あの……」
エマはなんだか言いにくそうにもじもじしている。なんだ、どうしたんだ?
「こ、こんなものが教室の机の中に……」
スッと出してきたのは手紙だった。
「なになに……蕾の百合だった君がぼくの為に花開いたのをうれしく思う……なんだこりゃ」
「まったく心あたりがなくて……」
「ラブレターか? に、しても……」
記名もないし文章もちょっと気持ち悪いっていうか……。
「……これ、預からせてもらってもいいかしら」
「え、ええ……」
俺がそう言うと、エマは頷いた。
「さて……マイア!」
エマが帰ると、俺はさっそくマイアを呼んだ。
「これ、どう思う?」
『うーん、少なくとも王子の筆跡ではないですね』
「ほかの男か……そしたらやることは一つだな」
『そうですね。この手紙の主とエマをくっつける訳にはいきません』
こうして俺はこの謎の手紙の主を探すことになった。
「ふぁあああ……ねっっむい」
とりあえず俺は朝一番に教室に行き、見張ってみることにした。こっそり手紙を入れるなら多分朝だろう。
「……誰もこない」
『空振りですかね』
「そうみたいだな」
マイアとこそこそそう話していると、教室のドアが開いた。びくっとして振り返ると……そこにいたのはディーンだった。
「お、なんだ早いな」
「ディーンでしたの」
なんだ……びっくりした。
「いつもこんなに早いんですの?」
「ああ、朝練が終わって来るとこんな感じかな」
ふーむ……ということはディーンには手紙を入れるチャンスがあるってことだ。
は! そういえばこいつはエマと王子の間に入ってくる当て馬キャラだった。
「……なんだよ」
「何をとぼけてますの? この手紙をエマの机に入れたのはディーン、あなたでしょう!?」
俺はババン、と手紙をディーンに突きつけた。
「――なんだこりゃ」
「え?」
だけどそれを見たディーンは不可解な顔をしただけだった。
「これ、ディーンからエマへの手紙じゃありませんの?」
「まさか! 俺がなんでエマに!?」
「……そうですの」
ディーンは本当にビックリしているようだった。こいつが犯人じゃなかったか……。
それから俺は早朝の見張りを続けたがなんの成果も得られなかった。
そのうちに第二の事件が起きた……!
「シャルロット様!!」
「……エマ!!」
「今度は『どうしてぼくのもとに来てくれないのかい、恥ずかしがっていてはいけないよ』だそうで……」
「相変わらず気持ち悪いわね……」
今回はいつのまにかエマの鞄の中に入っていたそうだ。
一体誰なんだ、こんなことをするのは……。
「エマ、安心して。絶対誰がやったか見つけてやめさせるから」
「シャルロット様……」
不安そうに俺を見つめるエマもか弱くて可愛らし……おい、今はそれどころじゃない。
俺は早朝パトロールに加えてエマへの警護を加えた。くそ……忙しいな。
そんな俺をあざ笑うように、第三の事件が起こったのだった。
「きゃあああ!」
それは別教室からの授業を終えて教室に戻ってきた時に起こった。
なんとエマの席にグチャグチャに踏みつけられた花束と、手紙が置いてあったのだった。
「これは……『ぼくの愛に気付かないなんて、ゆるさない』」
『ゆるさない』という文字が殴り書きでいくつも髪にびっしりと書いてあった。
うわあああああっ、気持ちワルッ!!!!
「お困りのようだね」
そこに声をかけて来たのはディーンだった。
「ディーン。なんの用だよ」
「名探偵ディーン様の推理に寄ると、これはきっとエマのストーカーだ」
「ストーカー……」
「きっともっと行為はエスカレートしていく。次はエマ自身が危ないぞ」
それは困る!!
「ディーン、どうしたらいいと思う……?」
「そうだな。ここはあえてエマを一人にして犯人が動くところを押さえたらどうだろう」
「おとりってこと?」
「そうだ。この俺が協力するよ。ストーカー野郎をとっちめてやる!」
ディーンは俺の肩に手を置いて、力強くそう言った。
「……頼む」
もうそれに頼るしかない。本当にエマに危害を加えられたら王子とのカップリング成立どころの話じゃなくなるもんな。
そうして、放課後あえてエマの側には行かずに裏庭に居て貰うことになった。
「本当に大丈夫ですのね?」
「……腕っ節には自信がある。それより、これが終わったら少し話があるんだ」
「いいですわ」
頼んだぞディーン。そうしてじっと物陰からエマを観察していると……。
「……え、え、え、エマ!!」
エマに声をかける人物がいた。……え、誰?
「……誰ですか?」
それはエマも一緒だったようだ。不思議そうな顔をしてそいつを見る。
そいつは茶色の髪の印象の薄いいかにも平凡そうなやつだった。
「サムだよ!」
え、サム!? あのステータスになぜか載ってたサム!?
「あの、なんの御用でしょうか」
「用って……! エマ、ぼくの為にそんなに綺麗になったんだろう?」
「え、違います」
「なんだって……!!」
サムの顔色が変わった。サム、悲しい勘違い野郎。このままじゃまずい。
俺がそう考えた瞬間、ディーンが動いた。
「よお~サム君? だっけ? あの手紙とかは君のだよね?」
「そ、そうだけど……」
「ちょーっとお話があるんだけどいいかな?」
「えっ、ちょっと……ああ!!」
サムはディーンに引き摺られて姿を消した。
「エマ!」
その間に俺はエマに駆け寄る。
「大丈夫?」
「ええ……。まさかまったく知らない人だったなんて……」
「ああ……ディーンがなんとかしてくれるよ」
俺はちょっとだけサムが気の毒になりながら、エマを寮の部屋まで送っていった。




