第037話 部屋に戻ると
前回のあらすじ
何だか分からないけれど、隣の国が物騒らしい。
「なぜって? どういう意味だ? 王からの勅命だったんじゃねえのか?」
キャフは、質問の意図が分からなかった。
アースドラゴン討伐のような特別クエストは、依頼主が直々にパーティーを指名する。
あの時は、先代の王からだった。最終的には王と4人が謁見してから引き受けることが決まり、道具や武器などの調達に関する費用を貰って討伐準備が始まった。
「”あの勅命に何の意図があったのか”、という事さ」
「確か、アースドラゴンが暴れて辺境の町一つが焼き尽されたから、だろう?」
「表向きはな。あの2人も色々あったからな」
キャフは、あのパーティーの中では一番最後に合流した。だから他の3人でパーティーを結成した理由は良く知らない。ギルド内でのレベルが同じで丁度気があったから、とばかり思っていた。
「ギム、何か知ってるのか?」
「漠然とだ。確証はない」
「何だよ、言えよ」
「まあ、難しい話は酒がまずくなる。しばらく泊まってくんだろ? ゆっくりしてけよ」
「分かった、急ぐ旅じゃない」
「そう言えば、俺のせがれはどうだった? 剣士に憧れているが」
「未だこれからだろう。あの明るさは武器だろうな」
「そうだな。昔とは時勢が違う。大学に入ってからでも十分だろう」
他にも思い出話にひとしきり花が咲く。酒も尽きてきた。
「じゃあ、今日はこの辺にしとくか。おい! 誰か!」
ギムが呼びかけると扉が開き、警護兵が入って来る。
「キャフ殿を部屋までお連れするように。くれぐれも丁重にだぞ」
「は!」
領主の命令とあり、若い兵士は来た時とは全く違う態度だ。
これが偽物だったら、即牢獄行きだったのだろう。
「それでは、ごゆっくりお休み下さい」
「ああ」
* * *
部屋の前で別れ、鍵を開けて中に入る。2人は奥の部屋なので、居るのかどうかも分からない。堅苦しいスーツを脱ぎ捨て、お湯で軽く体を流す。それほど寒くもないので下着姿になると、直ぐにベッドの上で薄い掛け布団をかけ、眠りについた。
どれぐらい時間が経っただろうか。
……? 何だ?
酔って朦朧としたままで意識もあやふやなキャフだったが、何やら体の感触に違和感を感じた。頭とか上半身では無い、下半身だ。
イタ! ……くない?
股間に何か物が当たっている。激痛ではなく、何か微妙な刺激だ。もやもやしながら寝返りを打とうとしたが、腕と足が引っ張られ、仰向けのままでしか居られなかった。
ここに至って何か異常な事態を把握しはじめ、体を起こそうとする。だがやはり手足が少ししか曲げられない。どうも縛られているらしい。酔っているので、訳が分からない。
「あ、起きたニャ」
ラドルの声がする。
「おい!」とキャフは言いかけたものの、口はモゴモゴとするだけで、言葉にならない。目を開けると、少し明るさを感じるけれど周りの風景は遮断されている。首を横に向けても、事情は同じだ。
つまり目隠しされて、轡をはめられている。
(誰が?)
とっさにキャフは、暴漢が現れ3人ともに監禁された最悪の事態を想定する。まさかギムの手の物とは思えないが、ギムの部下を呼ぼうにもこれでは身動き取れない。
ウー!! ウーウー!!
先刻まで命の危険が迫っているとは夢にも思わなかったキャフは、何とか脱出を試みようと再び暴れる。だが両手両足に縛り付けられた縄は、もがけばもがくほどキャフを締め付けた。全身から冷や汗が吹き出て来る。
「気にするな。それよりこっちだ。ほら、見てみろ?」
フィカの声がして、また股間に異物が当てられツンツンと刺激を受ける。
キャフのそれも、自然と反応した。パンツの中だから、派手には動けない。
「凄い! 師匠! 大きくなったニャ!」
声から2人が居るのは分かる。
他に誰か居るのか耳をすませたが、どうやら誰もいないようだ。
(あれ?)
キャフは、ここに至ってようやく体の動きを止めた。
先ほどからの2人の声には、切迫感が全く無い。だがキャフの股間に加わる違和感はハンパない。なんとか腰をよじって逃げようとするが、固い異物が追いかけて来て、微妙な刺激を与えた。痛くないのだが、こんな刺激を与えられると、男としてはマズい。
「こんなにニャルのか、面白いニャ〜」
「分かったか。男は誰にでもこうなるんだ。気をつけろ」
「不思議だニャ〜 持ってないから分かんないニャ〜」
「まあ、こうやって拘束すれば安全だからな」
「でも少し、可哀想だニャ」
「こいつも、楽しんでる筈さ」
ラドルも酔ってるのか、楽しげな声を上げている。
(ちょっ、待てよ!)
キャフはフゴフゴ言いながら、必死にもがく。全ての血が股間に集まりそうなほどに熱い。酔った頭でも、どうやら縛られているのは自分だけだと分かって来た。
全然楽しくない彼女達の遊戯に付き合わされるキャフであった。これ以上の失態を犯すと、弟子と師匠の関係にひびが入りかねない。とにかく平常心を保つ努力を試みたが、我慢できない。全て徒労に終わりそうだ。
「なんか、ビクビクしてるニャ!」
「どうせ良い夢でも見てるんだろ。私達も大変だったからな」
「ホント、師匠いなくなったら、シドムとキンタの仲間達がナンパしにきて、散々だったニャ」
「あいつらの男の機能も、きっと数日は無理だろう」
「フィカ姉、カッコいいニャ〜」
「女同士も、良いものらしいぞ」
「ふ、ふにゃ?」
「冗談だ、冗談。そろそろ寝るか」
「そうだニャ〜」
(お、おい!)
そのままの格好にさせられたまま、夜は更けた。
翌朝、奥の扉の開く音がする。
フゴー!!
再びもがくキャフ。格好悪いなどとは言ってられなかった。
「何だ?」
フィカがあっけにとられた声をする。そばに寄って来て、縄や目隠し、猿ぐつわを外した。
「お前、何やってたんだ?」
フィカがキャフに問いただした。
「いや、それはこっちのセリフだぞ……」
どうやら、酔って憶えていないらしい。




