第033話 領主ギム
前回のあらすじ
フィカさんも無職か。世知辛い世の中だな。
シドムの家、でかっ!
居館前の広場に、馬車は止まる。
城内の壁も薄く青で染まり、蒼い屋根とともに調和した美しさをたたえていた。広場の周辺には木々が植えられ、ちょっとした庭園になっている。居館の奥には高い塔がそびえ、他にも幾つかの建物が立ち並んでいた。
「皆様! シドム様が、お戻りになられました!」
「みんな、ただいまー!!」
兵とシドムの大きな声で、城全体がざわめく。
シドム帰還の報をうけ、家族や家来達が続々と広場へ出て来た。
「シドム兄ちゃん!」
「シドム!」
真っ先に来たのは、中世貴族のようなドレスを着込んだ女性と女の子だった。
シドムと似ているから、母親と妹らしい。
心配していたのか、無事に帰還した姿を見て本当に嬉しそうだ。
他にも家来や親戚や色々な人が現れ、みなシドムを祝福する。
そして、一番最後に恰幅の良い初老の男性が現れた。
着ている服も一番上等で、帽子にある宝石からも領主と分かる。
「父上! ただいま帰りました!」
シドムもこの時ばかりは畏まって背筋を伸ばし、礼儀正しく接する。
「うむ。大儀であった」
その男性はにこりともせず、シドムに一言声をかけるだけだった。
(こいつが、ギム?)
苦楽を共にした仲だから、顔を忘れるはずも無い。だが目の前にいる男性は、記憶にあるギムとはお腹や頭がすっかり変わり果てていた。あまりジロジロ見るのも失礼だから、ほどほどにする。
幾分昔のことであり、外見が別人になっても不思議では無い。
ハゲや中年太りは、オヤジのあるべき自然な姿である。
「その方達は?」
キャフ達を一瞥して、ギムと思しき男性が質問した。シドムの学友達は知っているようで会釈を返していたが、キャフ達のことは胡散臭そうな目で見ている。明らかに信用されていない。
「ああ、旅の途中で助けてもらったんだ」
「それはそれは。うちのシドムが世話になったようで」
その目は、まるでキャフを全く知らないようである。
このやり取りを見て、キャフは自己紹介を控えた。
フィカやラドルに目配せすると、彼女達もキャフの意図を理解する。
「ああ、偶々出くわしてな」
「俺の命の恩人です。今日はパーティーやりたいし、泊めてあげて下さい」
「そうだったか。失礼した。礼を言う。客人達よ、いかがかな」
乗り気では無さそうな顔だが、礼儀として拒否しないようだ。
キャフは断ろうかとも思ったが、当初の予定通りに決める。
「助かるよ」
「では案内させろ」
「は!」
兵士の案内で居館に入り、客室へ向かう。
外ではまだシドム達が皆と旧交を温めていて、時折笑い声が起こっていた。
「凄いニャ〜」
案内された部屋はこの城に違わぬ豪華さで広く、ベッドもフカフカだ。
ラドルは喜んでピョンピョン飛び跳ねる。だが大きな問題が一つあった。
「部屋、ここだけ?」
「はい、そう仰せつかっています。一応、仕切りがあって二部屋分あります」
兵士の説明通り、奥にもう一部屋あった。こちらの方が広いが、鍵はかからない。
つまり入り口一つで、3人が寝泊まりする構造だ。
「ちょっと、ヤバくないか?」
キャフは2人に申し訳なく思い、部屋を変えてもらおうと思う。
「ラドルは大丈夫ニャ」
「まあ、死にたくなければ自重する事だな」
2人が良いと言うので、キャフも拒否する理由がなくなった。
もしかするとこんな部屋しか無いのかも知れず、そのままにする。
「それでは、ごゆっくり。夜にはパーティー会場の案内をいたします」
そう言って兵士は出て行った。
「広いのは奥の部屋だからな、私達がどちらを使うかは自明だろう?」
「あ、ああ」
とりあえず荷物をそれぞれ置き、リラックスして旅の疲れを癒した。
周囲に気を遣わなくていいのが、どれほど楽であるかと久しぶりに知る。
「パーティーとか言ってたが、着ていく服なんてねえぞ?」
「わたしも持ってないな」
「ラドルはあるニャ」
その時、トントンとドアを叩く音がする。
開けると、召使いが沢山の衣装をかけた移動式ハンガーを持って来た。
どれも高級な新品の衣装ばかりだ。
「シドム様から、パーティー衣装が届けられています。いかがですか?」
「私は持ってるニャ」
「丁度良かった、助かる」
「オレもだ」
2人は、気に入った服を借りた。サイズもちゃんとあっている。簡単に着られるので、キャフは黒のタキシードに赤い蝶ネクタイ、フィカは丈が膝下の黒いパーティードレスにした。ちなみにラドルが持っているのは、ピンクのギャル系ミニスカートだ。
「フィカ姉さん、オシャレするニャ」
そう言ってラドルからイヤリングを渡され髪型もセットされたフィカは、かなり魅力的である。ただ本人は愛想を振りまくのが苦手らしく、無表情に近かった。
久しぶりに人前に出るから、キャフもひげを剃って多少見映えを良くする。
「確かにそんな格好だと、二割増に見えるな」
「うるせえな」
「それより、彼がギムなのか? お前のこと、忘れていたようだが」
「そのはずだがな。まあ、様子を見ておこう」
それぞれ仕度も終わり待機していると再び案内役の兵士が来たので、会場へと向かった。




