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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十四章 魔導師キャフ、最恐兵器を手に入れる
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第202話 腕輪

前回のあらすじ


世界は、広い。

「ふうん、そうなんだ。意外だね。やっぱり庶民の考える事は分からないな。ライバルをさっさと潰すのが一番の鉄則だよ? そこに情とか何か無駄な物を入れるから、ビジネスで成功しないんだよ?」


 肩透かしを食らい、ジジェスは不満そうだった。

 だがキャフは彼の挑発には乗らない。


「クムール帝国からの侵略は防ぎたい。だが皆殺しなんかすると、オレ達も彼らと同類になる。将来に禍根を残したくない」

「そんな余裕あるのかな? モドナみたいに彼らがイデュワに核爆弾を落としたら、意味ないよ。悠長なこと言ってられないんだよ?」


 ジジェスの言う通りであった。彼らが再び《小さな太陽》を使わない保証は無い。だからルーラ女王は彼らの要求を受け入れたのであり、キャフもそれを危惧していた。核兵器を持ってない国が保有国に使わないでと言っても、相手は何とも思わないだろう。それが現実だ。


「あの《雷の方舟》とやらを壊せれば良いんだ。頼む!」


 キャフは土下座をし、床に額をこすり付けた。

 他の4人も「お願いします!」と言って、同じように土下座する。


「そんなどっかの民族的なお願いをされても、こっちは何も感じないよ。あ、でもあの民族は下手に出てもダメだと分かると急に逆ギレするから、面倒なんだよね。裏表がありすぎて、僕もあそこでのビジネスは散々苦労したからね……」


 ジジェスは頭をかいて、困った顔をしている。

 面倒ごとに巻き込まれて嫌になっているようだ。


「お願いします!」

「お願いしますニャ!」


 だが5人とも、テコでも動かないつもりでいる。

 お互い我慢比べだ。


「僕も、皆があっての王だからね。これじゃ無下にしても協力しても、周りから何か言われるから困るんだよなあ。ホント、会わなきゃ良かった」

「よろしくお願いします!!」

「頼む!!」

「お願いですニャ!」

「お願いだ!」

「お願いするっす!」

 

 なおもしつこく食い下がる5人に、ジジェスは根負けしそうだ。

 

「じゃあさ、改めてだけど、君達は雷の方舟を壊して一体どうしたいんだい? それでアルジェオンが救われたら満足かい? でもクムール帝国は余程じゃないと諦めないよ? どっかの国みたいに十年、五十年先を見て作戦を立ててるんだから。あんな平和ボケしたアルジェオンがこれ以上もつと思うのかい?」


 ジジェスは、キャフに尋ねた。


「……ここに、人間を連れてきたい」

「は?」


 意外な言葉に、ジジェスは怪訝な顔をする。

 だが土下座しながら顔を上げたキャフは、真剣であった。


「ここって、《宙の星船》に?」

「ああ、そうだ」

「何で? 僕たち人間を外して平和にやってるんだけど?」


 ジジェスは呆気にとられている。

 想定外の言葉だったようだ。


「あんたの言う通り、直ぐには無理だろう。だが数百年、数千年かけ、今より少しは過去に学び平和を愛する心を持つようになれば、この星船で住むにふさわしい人間が出てくるはずだ。一人でもこの世界に受け入れられる人間を、オレはつくりたい」


 度重なる戦闘と醜い内部での争いに、キャフもうんざりしていた。

 祖国アルジェオンを短期的に護るだけでは意味がない。

 大きな目標を、キャフも持ちたかった。


「ふうん」


 ジジェスは、先ほどよりもキャフに興味を持ったようだ。


「そう言うのは、面白いかもね。君の仲間だった勇者サムエル君ともモニター越しに話をしたけれど、『ジジェス様の地は不可侵と致します』と言っただけで、そんな考えはしてなかったな」


 星船の存在をサムエルが語らなかった理由が、分かった気がした。


「そうだね、じゃあここで暮らせる人間が現れたら、その人間に王位を譲るよ。その為の支援ならば、他のモンスター達も納得してくれるかも知れない。人間の信用度は低いけれど、まだ0じゃないからね。分かったよ、武器をあげよう」


「ありがとうございますニャ!」

「恩に着るぜ!」

「ありがとうございます!」


 若い3人はジジェスに駆け寄り、今にも抱きつきそうな勢いだった。

 ジジェスはそんな3人をさりげなくかわし、話を続ける。


「で、どんな武器が良いかだけど、これでどうだい?」


 ジジェスの手にあったのは、腕輪だった。


「これは?」

「《呪いの腕輪》って奴さ。条件が合致したとき発動する。ただそれがどんな条件なのか、何が出てくるのかは、僕にも分からない。一度付けたら外せないから、《呪い》って言われてるんだ。君の運命をこれに委ねようか」


「キャフ師、そんな物もらって大丈夫ですか?」

「これ、お前もヤバいんじゃ?」

「首輪になって死んじゃうんじゃ?」


 4人は、キャフを心配する。

 だがキャフはジジェスから腕輪を受け取り、左手に取り付けた。


「ありがたく受け取った」

「これで良いかな? 将来素晴らしい人間がここに来ることを願うよ。じゃあ頑張って」


 そう言うと、ジジェスの体は何処かへと消え去った。



「終わったな。帰るか」


 5人は元来た道を戻って笛を吹き、ホワイトドラゴンを呼び出した。

 すると、再びホワイトドラゴンがやって来た。


「ジジェス様との話はどうでした?」

「まあ、何とかなったかな」

「それは良かったですね。どこに行きますか?」

「ああ、できたら元の宇宙船のある場所に行きたいのだが」

「そうですか、分かりました。大丈夫ですよ」


 5人を乗せ、ホワイトドラゴンは空を飛ぶ。

 最後に見る星船の光景を、5人は目に焼き付けていた。


「はい、到着しました」


 最初に来た、花畑近くの扉の前に降り立つ。


「では、さようなら。お元気で」

「さようなら〜」


 別れの言葉を述べると、ホワイトドラゴンは飛び去っていった。


 キャフたちは扉を開け、再び宇宙船のある場所に戻ってくる。

 装備一式はそのままだった。重い宇宙服に再び着替えると声がした。


『先ほどはお疲れさん。そのまま世界樹に戻れる訳じゃないし、帰還して君達が困らないように、別の船を用意したんだ。そっちに乗ってもらえるかい?』


 言われてみると、キャフが乗ってきた宇宙船より大きな船が側にあった。

 乗り込むと確かに広く、食糧やら様々な道具が装備されている。


『こことは重力が違うから、多分二週間近く寝たきりになると思う。筋力回復の装置も付けたから使ってね』

『ありがとう』

『他にも何かあったら、装備されているAIが答えてくれるよ。着陸地点も、まあ行けば分かるはずだから。じゃあ』


 こうしてキャフ達は、再び地上へ戻ることとなった。

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