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魔力(3)

すっっっごく投稿遅れてすみません! ちょっと説明回が続いていて思うように書けず……もうちょっとだけ続けた後別視点入る予定です。

「魔法には属性があるってことは、知っているか?」


 ヤンの問いにフェリシアは首を縦に振った。


「確か……基本は水、風、火、土の四属性で、それ以外に光と闇がある……と聞いたような」

「正解だ。自分を魔力無しだと思い込んでいた孤児にしては、よく知ってるじゃないか」

「……孤児に魔力持ちの子がいたので」


 関心した様子のヤンの目を真っ直ぐ見れず、フェリシアは口にパンを詰め込んだ。

 ノースマルゴを出てからきちんと食事出来ていなかったせいか、以前より胃が小さくなったようだ。既に満腹だったが孤児の悲しい性分とでも言うべきか、出された物を残すという発想はフェリシアには無い。


「詳しく説明しておくと、人にはそれぞれ魔力適性がある。とはいっても、基本の四属性は初級魔法……種火を着けたり、コップに水を出したり、所謂生活魔法と呼ばれる魔法程度までであれば、必要な魔力量さえあれば訓練次第で誰でも使うことが出来る。自分の適性にあった属性の魔法なら、そうでない属性の魔法より、より高度なものを使えるって訳だ。大体どこの国も、教会やそれに準ずる組織で生まれてすぐの洗礼なんかと合わせて属性判定することが多い」


 フェリシアが理解出来ているか、確認するようにじっと見つめられたので、パンを噛みながら黙って頷く。


「ただ、光と闇に関しては別だ。この二つは、適性のある者しか魔法を発動することが出来ない。生まれてくる絶対数も少ないので、ザナディンでは光や闇の属性持ちは見つかると国に連絡が行くようになっていた筈だ」

ルベルテ(此処)は違うの?」

「ルベルテはザナディンと違って教会と王族はある程度の距離を置いているから、ザナディン程王家に筒抜けって訳でもない。だが、教会自体が光魔法の適性がある者を囲い込んでいるので、まぁ大同小異てとこだな」


 ふうん、と呟くフェリシアは、まだルベルテ公国という国がどのような国で、ザナディンとどう違うのか、大まかなイメージすら湧かない。なんせ、フェリシアが知っている場所といえばノースマルゴ周辺を除けば、赤の森とこの家の中だけなのだ。


「で、ここからが本題だ」


 ごとり、と鈍い音に目を向けると、テーブルの上、向かい合うフェリシアとヤンのちょうど真ん中あたりに丸い石のような物が置かれていた。


「これは……?」

「鑑定石だ。教会の奴らはこれを使って魔力持ちかどうか、と属性判定の両方を行っている」


 へぇ、と純粋に関心する声を漏らしながら、じっとテーブルの上の石を見つめる。色は無色透明で、上から覗き込むとテーブルの木目が透けて見える。お金持ちが窓に使うというガラスみたいだ。

 ノースマルゴでは日常的に教会に出入りしていたにも関わらず、フェリシアはこのような石を見たことが無かったが、きっとネイサン院長が保管していたのだろう。


 フェリシアはちらり、とヤンに視線を向ける。

 この石は貴重な物では無いのだろうか。だって、簡単に手に入るなら皆、わざわざ教会で判定なんて頼まないだろう。


「ヤンさんは、どうしてそんなものを持っているんですか」

「………貰った」


 微妙に目を逸らしながら言うヤンの態度に怪しさを覚えながらも、まぁいいか、とフェリシアはそれ以上聞くのは止めた。言動に見合わない見掛けといい、ヤンには色々と秘密がありそうだ。

 ヤンが徐に石に手を伸ばし、ぎゅうっと握ったかと思うと、次の瞬間石を握った手がぱあっと光った。開いた手の平の石は、先程迄とは違い色とりどりに輝いている。


「水属性なら青、風は緑、火は赤、土は黄に近い色に変化する」

「わぁ……」

「魔力が強ければ強い程、色は濃くなる、と言われている」

「ってことは、ヤンさんは全ての基本属性持ちで、魔力がかなり強いってことですか?」

「ああ」


 素っ気無く答えるヤンの手の平の上の石は、原色に近い濃い青や赤などが何色もひしめき合っている。石の内部でぐるぐると形を変えながら決して色同士が混じり合わないその様子は、孤児院にあったガラスと鏡で出来たおもちゃを思い出させる。細長い鏡の板をガラスで三角形に張り合わせた筒の先に、屑硝子や色のついた石を細かく砕いたものを入れたおもちゃで、反対側から覗くと様々な色や模様が見れて、とても綺麗なのだ。


「あれ? この端っこの白っぽい……銀色みたいなのと、黒はなんですか?」

「……光と闇だ」

「えっ! 凄い! ヤンさんは全ての属性に適性がある……?」

「まぁ……そう思ってくれていい」


 イマイチ歯切れの悪い言い方に首を傾げながらも、やはりヤンは只者では無いのだ、とフェリシアは再確認した。光か闇、どちらかに適性があるだけでも珍しいのに、両方あるなんて聞いたこともない。


「俺の見立て通りなら、他人事じゃないからな。兎に角握って見ろ」


 促された通り、戸惑いつつも手渡された石を握る。石はヤンの手を離れると一瞬で元の無色透明に戻っていた。


(この石自体が魔道具なのかな……?)


 不思議な石はフェリシアの手の平より一回り大きく、辛うじて片手で握れるサイズだ。先程のヤンを真似してぎゅっと握りしめるが、特に変化は起きない。思わずヤンの顔を仰ぐ。


「何も起きません……」

「魔力を流すんだ」

「えっと、どうやって?」


 自分が魔力持ちであることさえこの年になるまで知らなかったフェリシアは、当然魔法など使ったことが無いので、魔力のコントロールの仕方など分からない。

 ヤンは一瞬虚を突かれたような顔でああ、そうか、やったことないよな、とブツブツ言いながら、フェリシアの石を持っていない方の手を取る。


「今から俺が魔力を流して、お前の身体の中の魔力を揺らしてみせる。魔力が揺れ始めたら、それをその石に流し込むようにイメージしてみろ」


 言うが早いか、握られた手の方から()()が自分の中に流れ込んでくる。


「わっ?!」

「手を離すな!」


 思わず椅子から立ち上がり手を離しそうになるが、ヤンの声ではっとして手を振りほどきたくなる衝動をやり過ごす。温かいような、むず痒いような、不思議な何かがぐるぐるとフェリシアの体内を巡り始めると、それに呼応するようにフェリシアの魔力が動き始めるのが分かる。


 ダイン達に小屋で襲われてから、フェリシアは自分の中の魔力の奔流をどうにか抑えようと思うばかりで意識的に身体を巡らせたり、ましてや外に放出しようとしたことはなかった。フェリシアからしてみれば、自分の身体の中に違う生き物――蛇のように熱いぐねぐねとうねる何かが住み着いていて、その生き物と押し問答しているような感覚だったのだ。


 それが、今はぐるぐると体内を巡った後、ヤンの魔力に導かれるようにして石を持った左腕に向かって勢いよく流れていくのが分かる。


「もういいぞ」


 ヤンが手を離すと、フェリシアの手の平には変化した石が載っていた。

 思わずじっと覗き込む。


 石の内部には、海のような青に濃い黄色、そしてそれより大きい面積を占めているのが発光しているようにすら見える銀色と底なしの闇のような黒だった。


「やはりな……」


 フェリシアと同じようにじっと石を見つめるヤンの眉間には皺が寄っている。


「私の適性は水と土で……それより強いのが光と闇、ってことでしょうか」

「ああ」

「えーと、何か問題が……?」


 険しい顔のヤンを覗き込むように問いかけると、ヤンは漸く視線を上げフェリシアをじっと見つめた。


「ああ。恐らくそうだとは思っていたが……お前の光魔法と闇魔法は強すぎる。普通、人間の身体は光と闇、相反する力を同時に宿すことは出来ない。どちらかを持つ人間は探せばいるが、両属性を持つ人間なんて聞かないだろ?」

「そう言われれば、そう、なのかな……? そもそも魔力持ちの人と会う機会なんて殆ど無かったからよく分かりません。それに、ヤンさんは両属性持ちじゃないですか?」


 首を傾げるフェリシアに、ヤンがはあ、と大きな息を吐く。


「なぁ、どうして光や闇の属性持ちが少ないと思う?」

「え?」


 そう言えば……以前のフェリシアのような、魔力や魔法使いとは無縁の生活をしている人々の間でも、光や闇の属性持ちが貴重だというのは知識として知れ渡っている。だが、その理由などこれまで考えたことが無かった。


「さっき言っただろう。この大陸の人間は元々、魔力なんて持っていなかった、って。魔道具を使えば安全に生き延びられるようにはなったが、それは基本属性に限っての話だ。……俺はな、光や闇の属性に人間の身体が耐えられないのは、その力が人間の手に余るものだからだと思っている。威力も強く汎用性も高い分、それだけ身体に負担が掛かる。魔力の属性は基本的にある程度遺伝するものだ。成長して子を為す前に死んでしまう者が多ければ必然的にその数自体が少なくなる」

「へぇ……」

「光と闇って言うのは、対極にある強い力だ。普通の人間は両方の属性を宿したまま生きていくことなんて不可能なんだ」

「……あれ? でも、ヤンさんは両方持ってましたよね? さっき……」

「ああ。だから俺はこの()()なのさ」


 それは、ともすればフェリシアより幼く見えるその容姿のことを言っているのだろうか。

 どこか自嘲的なその言葉をどう受け止めていいのか、フェリシアは何を言うべきか分からなかった。


「暫く一緒にいれば分かることだから言うが、俺の身体の成長は()()()()()()。基本の全属性の他に光と闇の両方を持っていると分かった時点で意図的に()()()()()()()。それは俺が望んだ訳ではないが、そうでもなければ俺はとっくの昔に死んでいただろう」

「そんな、まさか――」


 身体の成長を、時の流れを止めるなんて、そんなことが可能なのだろうか? 少なくともフェリシアはこれまで、そんな魔法の存在は聞いたことが無い。

 けれど、それならば幼い容姿に反して、まるで大人の男のように振る舞うヤンに抱いていた違和感の正体の説明が付く。


「光と闇の両属性持ちはな、身体が幼い間――年齢で言うなら七歳前後くらいまでなら生きていられる。七歳までは神のうち、って言い回しがあるだろ? まだ()になりきっていない、神の子である間は生きられるって、訳だ」

「だから、その身体……」


 フェリシアの唇から漏れた呟きにヤンが首肯する。


「そ。俺を()()した奴らは、俺を生かし利用するためにそうした。俺はもう普通の人間じゃない。バケモノに片足突っ込んでいる。

 そしてフェリシア。お前は十歳。お前は既に神の子ではない。なのに生きていられたのは、その年まで完璧に魔力を封じてくれる魔道具があったからだ。お前はもしかしたら、()()()()()両属性持ちで年齢が二桁を超えた初めての人間じゃないか?」

「そんな……」

「だが、今の話で分かったと思うが、このまま放置すればお前の身体は遅かれ早かれ自分の魔力に耐え兼ねて死ぬ」

「………魔道具……魔力を封じる魔道具をこの先ずっと着けていても、ですか……?」


 絞り出した声は震えていた。

 ノースマルゴを出てからというもの、何度も死ぬかもしれないと思う場面に遭遇した。それなのに、目の前の少年にしか見えない魔法使いからはっきりと宣告された今が一番恐怖を感じていた。


「お前の着けていた魔封のペンダントは特別なものだった。あれでも封じられなくなったお前の魔力を封じることが出来る魔道具は、現時点で存在しない。カーバンクルも今の所は協力してくれているが、あれはお前の魔力を一時的に吸い取っているだけで魔力自体を封じているのとは違う」

「そんな、じゃあ、私はどうすれば……」

「だから聞いただろ? 人間を止める覚悟はあるか、と。お前がこの先も生きていきたいなら、普通の人間のままでは生きていけない」


 俺のようにな、とその後に続く自嘲めいた言葉をヤンが口にすることは無かったが、けれどフェリシアにはしっかりと伝わっていた。


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