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44.皇家と神の力、そして裏取引!

「大巫女様。おかえりなさいませ。お客様がお待ちです。」

「あら以外に早かったわね。」

 大海おおみはすぐに赤い巫女服に着替えるとお客様を待たせている部屋に向かった。


「お待たせしました。」

 大海おおみが部屋に入るとそこには黄金色の髪を上品に束ねたもう一人の祖母が護衛に囲まれて座っていた。

 二人は互いに相手を細かく観察し合う。


 数分後、部屋で待っていたもう一人の祖母が手に待っていたカップをカチャリとソーサーに置くとそれを合図にして部屋の扉近く立っていた大海おおみが彼女のすぐ前に腰を降ろした。

「はじめまして、私がこの八百万やおよろず神社の巫女をしている大海おおみです。」

「こちらこそ、はじめまして。私が”白の宮殿”の当主マリアです。さっそくですがお手紙にありました真実とやらを知りたいのですがすぐにお話くださいますか。」


 大海おおみは一度彼女の瞳を見てから頷いて当時のことを語り始めた。

 当時、この八百万やおよろず神社の跡取りとなる人間は神力をまったく扱えない信子(のぶこ)しかいなかった。

 それに対して皇家にはひじりの血を継いでなおかつ神力を扱える第一皇子がいた。

 そこで彼らは神力が扱えないものが跡を取るのはおかしいと難癖をつけて来た。

 大海おおみはそれを一笑したが皇家がこれに反発。

 彼らは裏で当時キンソン家の対立候補であるルービック家の後継者を殺すという代償の代わりに八百万やおよろず神社の巫女である大海おおみ暗殺の協力を彼らに依頼した。

 もっとも彼らが襲って来たのが八百万やおよろず神社に大海おおみが滞在している時だったので彼女は聖域の力を使って彼らを撃退しただけでなく逆に襲って来た人間を全て返り討ちにした。


「な・・・そんな馬鹿なことがあるわけないわ。キンソン家と皇家が結託しているわけが・・・。本当にそれは間違いないことですか?」

 マリアは拳を真っ白になるまで握りしめた。

「間違いありません。だからルービック家のお二人が殺されたのです。」

「そ・・・そんな・・・。しょ・・・証拠はあるんですか?」

 思わず前のめりになって倒れそうになったマリアを彼女の横にいたフィーアが肩を押さえてソファーの背もたれに戻した。

「証拠は彼らが自ら証明してくれますわ。あと数刻で彼らはここに攻撃を仕掛けて来るでしょう。そしてそのメンバーを見ればあなたにも私の話がウソか本当かはっきりわかるはずです。」

「攻撃を仕掛けてくる?」

「ええ。先ほど私の孫である花子はなこが皇家の後継者である第一皇子を倒しましたのですぐに彼らは報復に動くでしょう。」


 マリアは目を見開いた後、コホンと咳ばらいをすると付け加えた。

「私の孫でもありますわ。」

 大海おおみも目を見開くと目尻に皺を寄せて優しく微笑んでから訂正した。

「これは失礼。私たちの孫でしたわ。」

 マリアは頷くとソーサーに置いたカップを手に持ってそれを一口含んでからさらに大海おおみに要求した。

「まだ半信半疑ですがあなたが言うことが真実なら襲撃してきた輩を殲滅する時に私たちも加わりたいですわ。」

「もちろん構いません。」

 ここでルービック家と山田家の間で裏取引が成立した。


 二人がその話をしてから半刻ほどで花子はなこを連れた実父ブラン八百万やおよろず神社に戻って来た。


 二人が神社の本殿に着いた途端、神社に物凄い轟音が轟いた。


「うわっ・・・なに?」

 花子はなこは本殿前で固まった。

信子(のぶこ)!」

 実父ブラン花子はなこをその場に放置して本殿の中にいるはずの妻を捜して駆け出した。


 ”攻撃されました。全員、裏庭に向かってください。”

 ”攻撃されました。全員、裏庭に向かってください。”


 八百万やおよろず神社に敵の襲撃を告げる声が響き渡った。


 本殿前に置き去りにされた花子はなこは走り去った実父ブランの背中を呆れ顔で見やってからすぐに先程聞こえて来た声に言われるまま裏庭に向かった。


 そこにはすでに紅い巫女服を着た人たちが何かが書かれた和紙を片手に裏庭から続く山道に駆け出していくところだった。

花子はなこちゃんは私と一緒にこちらに行きますわよ。」

 花子はなこが紅い巫女服を着た人たちの後を追うとすると後ろから祖母に声を掛けられた。

「お祖母ばあ様。何があったんですか?」

「皇家の馬鹿たちによる襲撃です。私たちはこちらで迎え撃ちます。」

「皇家?なんでまた。」

 大海おおみはそこから断崖絶壁に続く小道を歩き出したながら花子はなこの疑問に対しては理由を説明した。

「結論からいうと花子はなこちゃんに負けた第一皇子によるたんなる逆恨みによる襲撃ね。」

「へっ・・・?」

 大海おおみはちょうど断崖がよく見える道の端に立つとそこからスッと一点を指示した。

 そこでは最終試合で花子はなこのパートナーを務めてくれたフレッドが敵と刃を交えていた。

 そのすぐ横では敵が断崖を登って交戦している背後からこちらの味方に襲いかかろうとそのまま背後の位置まで断崖を登って来ていた。

「はい。花子はなこちゃんはこれね。」

 大海おおみは和紙の束を花子はなこに渡した。

 そこには試合が始まる前に花子はなこが”書の道”の練習で使った和紙の束だった。

「これは?」

花子はなこちゃんはパートナーを守りなさい。」

 大海おおみはそれだけ言うと同じような和紙の束を片手にその断崖を軽やかに駆け降りて行った。

「お祖母ばあ様って人間なの?」

 あまりの離れ技に思わず崖下を覗き込めば大海おおみはほんの少しばかり出っ張っている岩の突起に足を掛けながら片手に持っている和紙に魔力を込めてはそれを敵に放って彼らを崖下に突き落としていた。

 怖!

 これを自分にもやれとか行き成りの無茶ぶりに引き攣りながらも花子はなこは”無重力”の文字を思い描いてそれに魔力を流すと同じように崖にある突起に向かって飛び降りた。

 そしてそこに降り立つと今まさに自分のパートナーに背後から襲いかかろうとしていた敵に”火砕流”と書かれた文字に魔力を流して実体化させるとそのままその進路上にいた敵を全て消した。

 敵に対しながらもフレッドは背後の崖から響いて来る尋常ではない音に背筋を震わせていた。

 ゾッゾゾー。

 何でかわからないけど背筋がさぶい!


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