久瑠実が見舞いに来た日
今回はあたしが風邪を引いた時の話だ。あんまり体調は崩さない方だったはずなんだけど、あのときは疲れがたまったのかぶわっと熱が出てしまったんだよな。
ある日突然、風邪をひいた。熱が出た。
幼少期以来のけだるさにかなりの困惑を覚える。吐き気はしないけどとにかく体が重い。
仕事がなかっただけまだいいが、今日は平日。せっかく久瑠実に会えると思ったのに会えなくなってしまった。
とりあえず重たい身体を起こして、母のもとに行くことにした。
「おはよ~、映子。…って顔色悪いわね…。」
「ああ…なんかすごいしんどい。」
「学校休む?」
「うん…。」
食事とかは後で持っていくからとりあえず寝て来いといわれたので、おとなしく部屋に戻ることにする。
しかしとにかくだるい。そして学校にいけないのがつらい。
あたしは沈んだ気持ちで、久瑠実にメールをすることにした。
“久瑠実…風邪ひいた…。今日学校行くつもりだったけど休む。ごめん。”
そうとだけ打って久瑠実に送信する。
そのあと出たのは大きなため息。しんどいけれど、本当に不本意だ。行きたいのにいけないなんて、本当に不本意。
せっかく仕事が休みなのに…久瑠実に会えたはずなのに…。そんなことを考えながら、おとなしく天井を眺めていると、母が部屋にやってきた。
母が手に持っていたのは、のどの通りがよさそうな軽食と、体温計と、冷えぴたと、水分。
れっきとした看病グッズである。
「映子、大丈夫?とりあえず一式もってきたけど。熱はかろうか。」
そういって母はあたしに体温計を差し出す。あたしはそれをわきに挟んでしばしまつことにする。
そういえばこうやって母と話すのは久しぶりかもしれないな。いつもは仕事と学校の話が多いから、こんなありふれた仲のいい親子っぽい感じの会話は変な感じ。
親とのことを考えていたら体温計がぴぴぴと音を立てた。
「38・5…結構高い。」
平熱が36ぐらいだから結構高めだ。そりゃしんどいだろうな。
「そのへんの食べといて。後でとりに来るから。まぁ今日はねときなさい!」
「うん。ありがと、お母さん。」
母は、絶対に無理はするんじゃないわよといいのこし部屋を出て行った。
さてどうしたものか。まず何をしよう。とりあえずご飯を食べるか。
あたしは鈍い身体を動かし、母が用意してくれた朝食を手に取る。
あまり食欲はないけど少しも食べないのは、あんまりよろしくないと思う。吐き気もないし食べよう。
久しぶりにゆっくりと食べた母の料理はとてもおいしい。近頃ずっと、仕事のせいでゆっくり食べられていなかったから。
「ごちそうさまでした…。寝ようにも今あんまり眠くないんだよな。」
ぼそっと独り言をつぶやいて、再び横になる。
ぼーっとしてたら母親のことが頭に浮かんだ。
小さいころからあたしをモデルにしようとお金を出し続けたあの人。誰よりも期待の目であたしを見たあの人。
今は慣れっこだけど、昔は練習をさぼってやろうとかいろいろ思ったものだ。懐かしい。本当に最近までは何も思わずただ、言われたことをやるだけだった。人形みたいに。
でも久瑠実と出会ってから結構変わって、いろいろやりたいなって思うことが増えた。だから自分からもカメラマンさんとかに要求を言うようになった。
なんていうか、ひたむきな真面目な、久瑠実を見て自分もちゃんと人のために仕事をやってみようと思ったんだよな。
不思議。
気づけば目が閉じかけている。眠い…
家に響くインターホンの音で目が覚める。宅急便かな?
寝たのは朝のはずなのに、もう4時ぐらいだ。しんどさも大分なくなっている。睡眠の偉大さをひしひしと感じた。
すると母親があたしの部屋に駆け足でやってきた。
「映子起きてる?」
「起きてるよ~。」
「久瑠実ちゃんきてるんだけど、どうする~?」
久瑠実が?そっかあたしが休みの時は毎日寄ってくるんだったな。
「風移したくないけど、顔みたいな~…。」
「そういってくるわね。あとは久瑠実ちゃんに任せるわ。」
そんなんでいいのか?決断力に欠けるだろ…。
母はあたしに返事にかえし、すぐに部屋の外にかけていった。元気な人だな…。
少しったつと部屋に久瑠実が入ってきた。
久瑠実はあたしの部屋に入るなり、迷わずあたしのベッドのそばに歩み寄った。
「映子ちゃん、体調はいかがですか?」
待っていた久瑠実の声に、少し安心感を覚える。
学校には行けなかったけど、こういうのも悪くないかもしれない。
「朝に比べたら大分ましになったよ。熱も下がった。」
久瑠実が来たせいか、あたしは笑顔になって答えた。
「そうですか。良かったです。でも無理はしちゃいけませんよ?」
久瑠実に言われちゃ逆らえない。もっとも、仕事もしたいし久瑠実に会いたいからもう体調を崩すつもりなんてないけどな。
「わかってるよ。学校はなるべく行きたいし。」
「なんでそんなに学校にこだわるのですか?」
帆咽頭は久瑠実に会いたいからだけど、そんなこと言ったらどう思われるかわからないから、秘密とだけ言っておく。
別に隠したいわけではないけど、知られたいわけでもない。恥ずかしいし、ひかれるだろう。
「秘密。」
「また秘密…ですか。いつか教えて下さいね?」
「いつか、な。」
あたしが死に際にたどり着いたらきっと教えてやる。
「絶対ですよ?…じゃあそろそろ失礼いたしますね。お見舞いの品を持ってこられなくて申し訳ありませんでした。」
「大丈夫だ。…今日はありがとう。今度はちゃんと学校行くから。」
風邪はうつしたくないけれど、こんなに早く去ってしまのは少しさびしい。でももっと体調がいい日に、ちゃんと話そう。
「はい。次は来てくださいね!でも無理はしちゃいけませんからね?それでは失礼します。」
無理なんかしないよ。安心しろ、過保護。
「じゃあな、久瑠実。」
久瑠実が手を振ってきたので、あたしも布団のなかでごそごそと手を動かした。
ちゃんと手を触れていたかどうかなんて知ったことではない。
久瑠実が帰った。やっぱりさびしいな。
久瑠実が恒例の連絡カードを持ってきてくれたので、それを見る。
いつも通りのきれいな字でつづられているたくさんの文字。そして下のほうにはお大事にと小さく書かれていた。
その言葉だけで元気になりそうだよ。まったく。
絶対明日には熱を下げると決めた。病は気からだ!!
後日、ばっちり熱が下がった。やっぱり病は気かららしい。
朝早い時間だったが、仕事には携帯を持っていかない主義なので、久瑠実に申し訳ないなと思いつつメールを送った。
“風邪治ったよ。昨日はありがとう。”
やっぱりかわいげのある文章は作れないけれど、とりあえず伝えたいことだけ書いておくことにする。
見舞いに来てくれたのに、現状報告をしないのは気が引けるから。治ったとだけ。
“体調がよくなられたようで良かったです(*^_^*)無理はなさらずに。”
メールを送った後すぐに久瑠実からメールが返ってきた。相変わらずの久瑠実らしい文章に一安心。朝っぱらから携帯鳴らしてすみませんでした。
そして今日もいつもどおり仕事場に向かうために、五十嵐さんが運転する車に乗り込む。「おはよう、エコ。」
「おはようございます。五十嵐さん。」
次に学校に行けるのはいつだったかな。
今回はここまでだ。あたしが風邪をひいたときの話なんてあんまり面白みがないだろう。申し訳ない。
次からはしばらく(?)行事の話だ。
番外編アイデア募集中です。
まだまだ続きます。




