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ビターチョコとストロベリー  作者: 須谷
森崎映子からの話
23/40

久瑠実と出かけた日

 次は久瑠実と初めて一緒に出掛けた時の話だ。


 久瑠実の誕生日会の数か月後、あたしの誕生日の日。

あたしは久瑠実にお出かけに誘われた。行き先は近くのショッピングモールだ。さほど遠くないし、疲れることもないだろうと思い、そこに決めたらしい。

 今回は久瑠実の誕生日の時のようにサプライズではないから、前々から伝えられていた。

そのおかげで、あたしはその日を励みにしばらく頑張ることができたのである。

 プレゼントはその場で選び、購入してくれるようだ。

 なんだか目の前だと申し訳なくなるが、いらないものを渡す心配がないのでその点安心だろう。

(ちなみにあたしがプレゼントを選ぶときは、久瑠実のご両親に手を回してもらった。)

 とにかく、久瑠実と出かけることができるのはすごく楽しみだ。

 

 当日、たまたま授業がなかった土曜日の朝から待ち合わせをして目的地に向かう。

私はいつも通り、周りの人に気付かれないように軽く変装ちっくな服を着ている。久瑠実に迷惑を掛けたくないのもあって、かなり整えた感じだ。

 それに比べ久瑠実は、流行を軽く取り入れながらも自分のイメージを崩さないような、そんな服装。久瑠実の私服や小物のセンスの良さには、いつも驚かされてばかりだ。

「映子ちゃん、どこか行きたいところはありますか?」

「うーん…、ペットショップいきてーな…。」

 あたしは見た目にあっているのかは知らないが、動物が大好きだ。あのもふもふを見るととても癒される。

 こういうとなんだかとても病んでいる人間のように感じられるがそんなことはない。ただ仕事の疲れを癒したいだけ…のはず。

「ペットショップですか。いいですね!さっそくまいりましょうか。」

 何もこのショッピングモールについて知らないことはないように言う久瑠実にあせった。

あたしはショッピングモールのような施設にあまり来たことがないから良くわからないけど、すぐ店の場所ってわかるものか?

「場所はわかるのか?地図とか…。」

「前に家族と来たことがあるので覚えているんです。私がうるさく言って、歩き回りましたから構造は覚えてしましました。」

 それならいいのだけど。久瑠実のことだから一度来たところのことは嫌でも覚えてしまうのだろう。あたしの仕事情報とか今までのもこれからのも、情報が回っている分は全部把握しているぐらいの人間だからな。

 あたしの記憶力とは比べ物にならないぐらいすごいんだろうな…。

 

 ペットショップの前に着けば愛くるしい犬や猫がいっぱいいる。

 あたしは衝動的に、そいつらがいる方へ走って行った。

 可愛い可愛い可愛い!!!すごくかわいい!久しぶりに見たけどやっぱりかわいい。部屋のカレンダーは犬の奴だけど、やっぱり実物の方が可愛い。

「久瑠実!ミニチュアダックス可愛い!!!」

 これまた衝動的に久瑠実に言った。

 しかし久瑠実すぐに反応しない。多分犬猫の可愛さが分からないかんじなのかもしれない。まだわからないけど

「そうですね~。ダックスフンド、可愛いですね~!」

 とのこと。別に犬猫が嫌いなわけではなさそうだ。

 この可愛さが分からないやつの気がしれない!!!あたしは結構仕事のせいで病んでる方だと思うけど、それでも!こいつらはマジでかわいい。

 …トイプードル…パグ…ブルドッグ…ロシアンブルー…アメリカンショートヘア…!!

「なぁ久瑠実。プードルもいる!!あ、ロシアンブルーだ!可愛い~~!!!」

 自然と声が猫なで声みたいになってくる。仕方がない。こんな可愛い生物を目の前にしたらこうなるに決まっているだろう!

 久瑠実も可愛いけど、動物とはまた別だ。


 結局一時間もペンとショップに滞在してしまい、久瑠実から少々のお咎め的視線を食らった気がしたのでこれ以上はまた今度にする。

 まぁ久瑠実があたしを咎めることは今までになかったから、自粛という感じだ。

「映子ちゃん、お腹すきませんか?」

 気づけばもうすぐ昼飯時ぐらいの時間になっていた。でもまだ昼ご飯を食べるのには少し早いのではないかという感じがする。

「少し。でも少し早くないか?」

「映子ちゃん!完全なる昼飯時にフードコートやレストランに行けば、混むんですよ!家族連れがのろのろとご飯を食べて待たされたり、ベビーが泣きわめいたりとけっこうカオスな状況に陥るんですよ!休日のフードコートは特に!!!」

 珍しく力強く言う久瑠実。多分相当カオスなのだろう。その徐京を見たことがないからわからないけど、久瑠実がいうからには多分事実。

 ここはなんでも詳しい久瑠実に従う。

「そうなのか?じゃあ、飯食いに行こう。」

「はい~、ご案内いたしますね!」

 

 期限のよさそうな久瑠実に手をひかれ、フードコートに向かう。そもそもフードコートという場所がどういう雰囲気の場所なのかが分からない。

 ショッピングモールに来たことは昔にはあるだろうけど、覚えていない。

 実は今、結構楽しみにしている。


 フードコートにつき、久瑠実に従って食べ物を買いにいく。もういろいろ自信がなかったので久瑠実と同じ、うどんを頼んだ。

 空いている席に座って、食べながら久瑠実と話す。

 そういえば友人との外食というのは初めてだ。そもそも友達らしい友達が久瑠実が初めてだから当たり前だけど。なんかJKって感じがして面白い。

「それにしても、久瑠実はいろいろ詳しいよな。あたしが知らないこと、いっぱい知ってるし。」

 今日、物心ついてからは初めてショッピングモールに来て。なんだか自分って世間知らずなのかな、と思った。芸能界というか、不特定多数の人に外見をさらす仕事をしているから、やっぱりあまり人目につくような場所には行けないわけで。忙しいのもあるけど。

 だからなんか、最近は普通の生活にあこがれてしまう。高校生活を体験するうちに、見られないのもいいなって。

 でも今までこうやって、仕事をやってしまったから。ファンの人や、あたしを見てくれる人のことは裏切れない。もう宿命としか言えない。

「そんなことないですよ?映子ちゃんだって私が知らないことをたくさん知っているはずです。」

 フォローしようとしてくれるのだろうけど、気になるから聞くぞ?聞いちゃうぞ?

「たとえば?」

 たとえば、って聞かれたら本当にうざいと思うが気になるのだから仕方がない。きっと久瑠実はあたしが満足する答えをくれると思っているから、聞かざるを得なくなってしまうんだ!

「そうですね…。たとえば。私はそちらの業界についての詳しい事情はほとんど存じ上げておりません。それを知っているのは、そこの関係者ゆえでしょう。」

 たしかに。あたしが当たり前だと思っている今の生活も、普通に高校生活を送っている人たちにとっては憧れであり、未知の世界の物なのだろう。

「たしかにそうだな…。あたしは当たり前だと思っていても、ほかの人にとっては全然当たり前じゃねぇもんな。」

 小学校入学したてからモデルになるためのレッスンを受け、はれて今こうしてモデルになれているわけだが。そのせいで、一般人的感性を持ち合わせていないのは当然のことなんだろうな。

 まぁそういうものか。人には得意分野とかあるもんな。そんな感じで、知っていることと知らないことがある。そういうものだ。

「でも久瑠実はすごいよ。物知りだろ、いろいろ。成績もいいじゃねぇか。」

 学年主席だしあたしが知らないことたくさん知っているし。

 やっぱりあたしとは比べ物にならないくらい頭がいいと思う。そのことを、あたしはとても尊敬してる。自分にはないものだから、格好良く思える。

「そんなことないですよ。確かに学年主席ですけど、それは映子ちゃんパワーあってこそなんですよ!!映子ちゃんががんばってお仕事しているな~と思いながら私も負けられないなぁと思って必死で頑張るんです。」

 あたしから発せられるパワーなんぞあんまりないと思う。久瑠実はこんな、中身すっからかんの人間に魅力を見出せるのか。

「へぇ…もうあたしには学校の勉強たるものがほとんど理解できないからさ。小学校中学校で習うはずの基礎がぬけぬけなわけだし。すごいと思うよ。でも、高校はいって久瑠実がノーと書いてくれるようになってからはすこしわかるようになったんだよな…。」

 美しい字でぬかりなくきっちりと書かれたノートはとても分かりやすい。難しいと言われている範囲でも、適当な勉強でそこそこいい点が取れるのは確実に久瑠実のノートあってこそだ。

「それはよかったです。お役にたてて光栄です。」

「すごいな~、久瑠実。」

 久瑠実にはずっと感心しっぱなしだ。


いろいろと話しているうちに昼食も食べおわり、再びうろうろすることにした。

「映子ちゃん、そろそろプレゼントを買わしてください。そんなに高価なものは買えませんが、ある程度なら購入できる金銭は所持しております。」

忘れかけていたが今日はあたしの誕生日。久瑠実がプレゼントを買ってくれると言っていたのを忘れてはいけない。

別に物がほしいというわけではなく、久瑠実の善意をつぶすのが嫌なだけだ。

ということで、あたしへのプレゼントを、久瑠実に選んでもらう。

「そうっだったな。あげっぱなしというのも、そっちが気分悪いだろうし。おし、選ばせてもらおう。でも、物自体は久瑠実が決めろよ?」

「はい。えっと、靴を買わしていただきたいです。ご拝見したところ、今はいていらっしゃる靴は少々足に合っておられないように見えますし。」

 何故わかるんだ、こいつは。あたしだって少ししか違和感感じないぐらいなのに、なんでわかるんだよ!?

「なんでわかった!?」

「それはまぁ、企業秘密という事にさせて下さいよ。」

 腑に落ちない。なんでなのか聞かせてほしい。

 もしかしたら靴のスペシャリスト…なわけはないし。なんでだ…。なんでなんだ?

気になるけど、企業なのかわからんがまぁ久瑠実の秘密に首を突っ込んじゃいけないだろうと思って、それ以上言及するのはやめた。


 靴屋にたどり着き、さっそく靴を見る。

 あたしはあんまり自分を聞かざることに興味がないというか、服や靴を自分で買うということがないから靴選びはよくわからない。

 だいたい撮影の時に使った服とかもらえちゃうし。ブランドの社長さんとかに仲がいい人がいたりするから、服は本当に自分で買わない。

「映子ちゃん、靴屋はあまり来たことがありませんか?」

 ないなぁ。通販すらみねぇなぁ。

「ああ。撮影で使ったのもらえたりするから、あんまり自分で買い物することってないからな。」

「こういうの私慣れてますし、なんせプレゼントですし。私にお任せください。デザイン、履き心地どちらも映子ちゃんにぴったりなものを探し出して見せましょう!映子ちゃんは試着してくれればいいので。」

 大変頼もしい。やっぱり久瑠実は頼れる人間だ!!

「ああ、分かった。いろいろ教えてくれるとうれしい…。」

「わかってますよ、映子ちゃん。任せなさい!」

 なんと頼もしい。そこらのカップルの男より、よっぽどこのこの方が物知りだぞ。


 久瑠実は様々な靴を見ながらうんうんとうなっていった。

何かに迷っているらしい。多分デザインだろう。

 あたしは撮影でヒールばっかりだから、スニーカーとか運動靴のイメージに欠けると前に言われたことがある気がする。いつだったか、カメラマンと話した。

 高校もローファーと学校指定の運動靴とかだから、あまりスニーカーや自分で選ぶようなかわいらしいデザインの運動靴というのはやっぱり無縁の話。

 そんなかんじで久瑠実も迷っているのだろう

「いつも撮影でヒールとかはくから、普段のやつはゆったりしたのがいいな…。」

 今は、軽くヒールのあるサンダルのようなものをはいているのだが、やっぱり長時間履くとなると結構しんどい。

 同世代の人たちよりは慣れてるのだろうけど、やっぱりヒールはしんどい!

「映子ちゃんはスニーカー、持ってらっしゃいますか?」

「一応一足は。有名会社のやつだったんだけど、はきにくくてだめだった。」

 たしかコンバースといったか。デザインは可愛くて好きなのに、足の形に合わなくてとても残念に思った記憶がある。

「これならどうでしょう!」

 久瑠実が差し出した靴は紺色地に白ラインが入ったスニーカー。デザインとしては結構地味なのだろうけど、これなら服にも合わせやすそうだしかなり実用的だろう。

 履き心地はどうだろうか?さっそくあたしは試着してみる。

「ぴったりだ…。」

 今まで出会ったことがないような絶妙なフィット感。やっぱり久瑠実すげぇ。

「色は…?」

 もちろん大満足。

「好き。」

「それで構いませんか?」

「ああ、これがいい。」

 初めてであった足に合う靴に大満足だ。こんなにいい靴が見つかったのはやっぱり久瑠実のおかげ。久瑠実、偉大すぎる。

 久瑠実はその靴を持ってレジに向かっていった。

 あたしはその後ろ姿を見守りながら、ほかの靴を眺めていた。

 会計が済んだようだ。店員の威勢の良い声が響いてくる。

「ありがとうございました~。」

 気づけばもう久瑠実は会計を終えたとこ。すると久瑠実は靴をがっちり包装してもらわずに、一枚の袋に入れただけで持ってきた。

 足に合わない靴を履くより、足に合う靴を履けという事か?

「今からはいてもいいかな?」

 こういうのには慣れないしよくわからないから、とりあえず聞いてみる。

「もう購入済みだし大丈夫だと思いますよ!」

 そういうものなんだ。

 あたしはそそくさと靴を履きかえた。途中で袋の中に、靴ひものかえが入っていることに気づく。

 久瑠実がこっそり買っていてくれたのか。少し柄のついた靴ひもは、買った靴のデザインにぴったりだ。

「ありがと。」

 そうとだけ久瑠実に伝えて、立ち上がる。ちょっとしたサプライズ。とっても嬉しかった。

 

 その後、少しショッピングモールをぶらぶらして、あたしたちは家に帰ることにした。

「今日はありがとう、久瑠実。」

「いえいえ、今日は映子ちゃんの誕生日ですもの。映子ちゃんが楽しんでくれたのなら私はハッピーですよ。」

 誕生日のお祝いなんて慣れなくてとても照れくさい。

「そうか…でもありがとな。」

 その年の誕生日にもらったプレゼントの中で一番うれしかったのは久瑠実からのだと思う。


 そしてお互い家に帰った。

 帰る途中に考える。あたしと久瑠実の関係はいつまでこんな感じなんだろう?

あたしはもう、恋愛感情でしか久瑠実を見られなくなっているけど、久瑠実があたしをどう思っているのかはわからない。

 なんせ元ファンだ。ただのファンの延長かもしれない。それはわからない。

 どうしたらいいのだろうか?でもあたしはヘタレだから、自分から行動を起こすことなんてできっこなかった。


 今回はここまででおわり。次はあたしが風邪をひいたときのはなしだ。


両片思いです。

まだまだつづきます。

番外編のアイデア募集中です。

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