映子ちゃんが学校に来たい理由を聞いた日
映子ちゃんができるだけ学校に来たいというこだわりを持ってらっしゃるのは前々から感じていたことですが、こんな理由があったとは想像もつきませんでした。
そんな感じのお話をいたします。
数日前のことです。映子ちゃんが学校に来たとき、気が向いたのであの隠し部屋に行くことにしました。
体育祭の時お世話になった、あの隠し部屋です。
あの部屋は居心地がいいですし、体育祭の時みたいなグラウンドにいたくない時にしか来たいと思わないような場所にあるので、平日に行くには好都合なのです。(どんな場所にあるか、詳しくは秘密にしておくことにします。)
昼休み、昼食を食べ終えた後に映子ちゃんを連れてその部屋に向かいます。映子ちゃんはどこに行くとは言わずに。
「久瑠実~どこいくんだ~。」
「隠し部屋です。昨年の体育祭の時行ったところです。覚えてらっしゃいますか?」
映子ちゃんは少し考えたような顔をしてうーんとうなった後、ふっと顔をあげました。思い出したようです。
「あそこか!あの夏でも涼しいすごい部屋。」
「そうです。なんかふと思い出して行きたくなってしまいました。」
私の思い付きで映子ちゃんを連れまわしていいとは思いませんが、映子ちゃんは学校では人見知りがひどすぎて一人じゃ何もしようとしないので私が連れまわすことにしています。一人でトイレに行こうとしても、捨てられた子猫のような目でこちらを見るものですから結局どこに行くにしても一緒に行くことになるのです。
さて。壁に呪文を唱えることにしましょう。
「തുറക്കുക, എള്ള്!!!」
ごごごご…。壁が動きました。
「久瑠実…なんつってんだ?」
「マラヤーラム語で開け、胡麻だそうです。もっとも、設定した本人が発音できなくて入れなくなったらしいですけどね。たまにまぐれで入れるみたいな感じです。」
「馬鹿だろそいつ。」
中に入って床に腰掛けます。基本窓は締切りですし、人もほとんど来ないのであまり埃はたまっていないようです。
私は部屋に入るなり、そっと窓を開けて風を通します。
すると心地の良い風が、部屋に吹いてきました。こんなにいい部屋が忘れ去られているなんて、悲しい世の中ですね。
「やっぱり落ち着きます…この部屋。」
「なんかいい雰囲気だよな~~。」
風で髪の毛をなびかせながら、まの抜けた声を上げる映子ちゃん。
相当この部屋を気に入っているようです。
「そういえば映子ちゃん。そろそろ学校に来たがる理由教えてくれてもいいんじゃないですか?」
これまたふと思い出したので映子ちゃんに聞いてみます。一年生の2学期ぐらいから気になっていたものですから。
「…仕方ねえな。そろそろ、いいか。恥ずかしいけど。」
私はドキドキしながら映子ちゃんの次の言葉を待ちます。それでそれで?なぜなのですか?
「小学校中学校、周りの環境のせいであんまり学校に行けなかったから来たいっていうのもあるけど…。久瑠実がさ、毎日学校であったこと教えてくれるだろ?あれさ、毎日かなり楽しみでさ。…久瑠実が学校で感じてることをあたしも身に染みて感じたいな、って思ったんだ。」
映子ちゃんがそんなことを?
この前マネージャーさんも言っていましたが私はかなり映子ちゃんに影響を与えているようです。
映子ちゃんの発言がとてもうれしいです。きっと友人としての好意でしょうけどとっても嬉しいです。
「そうだったんですか…。私の行動は、映子ちゃんの役に立っているのですか…?」
「かなり、な。今までそうやってあたしに関わってくれるやつがいなかったから、すげぇ嬉しかったんだよ。…あとさ、学校に来たらほとんど一日久瑠実といれるから。」
真っ赤な顔でそう言う映子ちゃん。私に会えてうれしいのですか…?
私がきょとんとした顔で映子ちゃんを見つめていると、映子ちゃんの顔はさらに赤くなって。
「もうやめよう!!!この話は!!!なんか恥かしい!すげー恥かしい!」
「…わかりました。」
私のあたまはぐちゃぐちゃです。映子ちゃんの言った言葉の意味が分かりません。それが友人としての好意なのか、それとも。私と同じように恋愛感情的な好意なのか。
午後は何の変哲もないように過ごしましたが映子ちゃんの言っていた、私に会いたい的発言が頭の中を渦巻いて離れませんでした。
それを恋愛感情的なものととるならば、これからの私の行動が変わるわけでして。
…しかし、そこまで好意的な発言をさせておいて私から何もしないというのはあまりにも不釣り合いなのではないでしょうか?
さて、ここは腹をくくりましょう。
次の映子ちゃんの仕事がない土日。私、告白します。
もう少しです。




