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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第四章 破滅の少女編

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51話 叛逆者と戦いの行方

遅くなりました。

少し長いですがお付き合いくださいm(_ _)m


「………救ってみせるよ、私。

私自身が、二度と、後悔しないためにも」


 市川。

 兼得。

 千草。

 神月。

 阿流間。

 吉川。

 植田。

 広夜麻。

 有崎。

 石塚。

 鈴能。



 ───植田も、誰も、死なせない。



 全員を見渡して宣言する。


 薄暗い狭間の世界で、アイオニオスは魔法を紡ぐ。

 高々と掲げるのは、先端に透明の魔石が嵌め込まれた神級魔導具と認定された、彼女の背丈程ある長い杖。柄の装飾に魔力が流し込まれると、その場は神秘的な輝煌に包まれた。


 その濃縮された魔力で風が舞い、背に拡がる純白の羽が雪のように踊る。


「《開門(ピュレー)》」


 地面から蛇のように絡まる黒い縁で囲まれた扉が現れると、嚴島神社の鳥居に現れたような薄い波紋のような膜が張られていた。狭間と人間界を繋ぐ門。

 それをたった一人で構築する離れ業をやってのけた。それでも彼女が過去に人間界と魔界、二つの世界を繋げた魔法に比べれば、これははるかに簡易なものに過ぎなかった。


 現れた門は場にいた全員を強引に黒で包む。しかしそれは一瞬で、世界が明るく移り変わった。

 人間界の渡航に、成功したのだ。


「ひっ……!?」


 恐怖を漏らした有崎。眼下には破壊の跡が広がっている。一同はアイオニオスの魔法によって、上空に立っているのだが、皆、驚きを隠せない。


 彼らが見たのは焼け野原。それは一本の道のように破壊の残穢が連なっている。

 立ち並んでいた高層ビルや栄えていた近未来の街並みは玩具のように崩れ、道路には追突した自動車が何台も潰れている。

 まるで誰かが、破壊を繰り返しながら一直線に通ったかのように。

 千草が息を呑みながら叫ぶ。



「ここで何が────何が、起きたんだよ!?」





*****





 国防軍関東基地。


 「各隊、負傷者が増えています!!」

 「狭間にて坂隊長、伊津隊長が戦闘していた魔人の逃走を確認!!」

 「魔物の出現が増加!! 火力が足りません!!」


 基地内は慌ただしく駆け回る隊員たちの足音、危険を通達する警報音、そして怒号が響き渡る。


「おい!!! 勇者との連絡はまだなのか!!??」


 飲み干されたコーヒーが大量に並ぶデスクに、11杯目のそれを勢いよく叩きつけながら怒鳴る時薪。

 眼鏡の奥からは不穏な怒りが漂っている。


「申し訳ありませんッ、たった今、連絡が着いたところでして、報告が遅れ本当に───」

「謝罪は要らない。内容が先だ」


「ハイッ!!!」


 姿勢を正した時薪の部下は緊張の色を浮かべながらもその連絡を読み上げる。


「勇者様によりますと、 〈たった今、関東エリアに突入。しかし思わぬ魔人の妨害により街が全壊したため、民衆の対応に追われている。すまないが、基地に到着するまであと10分はかかるだろう〉 との事です!!!」


「魔人だって……!? 零からニの部隊が不在の、この忙しい時に、誰が対処できると??」

「あ、あの、時薪隊長!!」


「黙ってて。漆原や僕に魔人に通用する戦闘能力はないし、かといって当てもない。碧がいれば……って、何を考えているんだ僕は……」


 眉間に皺を寄せて呟く時薪。周囲の音が戻り、部下の声が聞こえてくる。総隊長の鬼谷と共に慌ててやってきたようだ。


「時薪くん!!」

「時薪隊長!!」



「……いま考えているんだ、邪魔するようなら減給するがそれでも良いなら用件を言え」



 冷や汗をかきながらも辛辣に言い放つ時薪に、戸惑う鬼谷。時薪の部下は、急かすようにパソコンの画面を示した。


「え、俺のこと見えとる?? 一応、上司……」

「減給はやめ……って、そうじゃないんです!! リアルタイムの上空監視カメラに、こんな映像が!!」



「これは………!!!!」



 2つの映像が映っていた。

 片方は、もの凄い速さで衝撃波を周囲に撒き散らしながら一直線にこの基地へと向かってくる男。


 その赤黒い瞳やこの世のモノとは思えない銀髪、そして人間離れした力から、勇者のいう魔人だと見受けられる。

 そして一方。男が駆けてきた残禍の跡の上空に静止する複数人の人影。軍保有の高性能のカメラでは、その姿を、顔を、はっきりと捉えていた。

 特徴的な白髪に碧眼、そのネックレス。そして神級魔導具と謳われる幻想的で長い杖。



「まさか────、霧山碧!?」



 そんなはずがない、と脳内で否定する。だがしかし彼は、千草や神月たちが、市川と何かを話し合っていた事に気づいていた。

 もしも魔王アイオニオスを説得しに行ったなら。

 そんな考えが頭を過ぎる。普通はあり得ない。あり得ない、が、マフィアの頭領である市川が第零部隊に所属する時点で、彼らは普通の範疇をとうに超えている。


 ただの憶測でしかない。

 しかし今の時薪は、彼らに賭ける他、道はなかった。



「やっぱり!! 特級魔法師の碧さんですよね!? 隣は市川さんだ!!!」



 嬉々として映像に食いつく部下をパソコンから引き剥がし、時薪は自分が画面に乗り出す。


(幸い、隊長格以外に、碧がアイオニオスだと知る者はいない。上層部が情報統制を行ったから。ならば、もしかすると………)



「この国を、救うつもりなのか??」


「せやったら、碧ちゃんは────、

 日本国2人目の、英雄になるかもしれんなあ」





*****





 銀髪の魔人は疾風の如く駆け抜けるその魔力を、急停止させる。

 長年、狂信的に恋焦がれ続けた魔力が、人間界に顕現した事を感じ取ったからだ。

 人には不可能な程の柔らかい関節で背後を勢いよく振り返ると、その魔力の主と目があった。

 彼らの距離は2km以上。しかし、上位の魔人であるがために主の姿を感知した。



「んふふふふ……!! あああああぁ、アイオニオス様ッ!!! いらっしゃったのですねえ!!!」



 感極まった様子で頬を染めた。

 アイオニオスの周囲にいる人間には目もくれず、彼女をただ愛おしげに、ただ恍惚と彼女だけを見つめて叫ぶ。



「カグヤ殿は撤退してしまったようですが、(ワタクシ)はここで、貴方様の目的を遂行していたのですッ!!! 今暫く時間を頂ければ、直ぐにでもこの世界を統治し、貴方様に献上致しましょう!!!」



 フォラウスは三叉槍を片手に、体を大袈裟に広げて主張する。彼の瞳に映るのは彼女の姿、魔力、何事もねじ伏せる圧倒的な強さ。ただ、それだけ。



「さア、アイオニオス様……!! ……がハァッ!?」



 返事の代わりに血飛沫が、彼の顔に散った。

 フォラウスが反応するより先に、アイオニオスの鋭い《魔力弾》が彼の脳天を突き抜け、隕石のように地面に衝突する。


 杖を再び刀に変化させたアイオニオスは、光の速度で接近し、その切先をフォラウスの喉元に突きつけた。



「黙れ。君にこんな命令はしてないよね」


「んふふ!! やはり素晴らしい!!!! 記憶が戻られる以前の姿が脳裏に浮かびますねェ!! しかも今は完全にお力が戻っておられて……。

とても、とても、とっっても!! 感激致します!!」



 この程度で彼は痛みを感じないのだろう。

 頭蓋からその血をだらだらと垂れ流しながらも口角を吊り上げている。



「………今から君を消滅させる。死なせたくない子がいてね。何か、言い残すことは??」


「────消滅?? え?? アイオニオス様、お忘れです、カ」


 言葉の途中、アイオニオスは刀で一閃。

 一瞬でフォラウスは塵となって、消滅した。




 …………かのように思えた。




「アイオニオス様、お忘れですかァ?????」



 虚空から彼の声が響く。

 黒煙が渦巻くと同時に、塵は、ゆっくりと凝結し再度集まっていく。


 脳が創造され、骨が作られ、肉を纏い、数秒にして上半身が再生された。

 その両手は絡めるようにアイオニオスの首に触れ、文字通り彼女の目と鼻の先にフォラウスは顔を近づける。銀色の流れる髪が、彼女の頬を掠めた。氷のような冷たさが、嫌でも存在を突きつける。



「……ッ!??」



 ────確実に魂を消した。植田の魔法は先程コイツを斬った時、既に効力を失ったのは確認できた。

植田を救うという目的は達成したはずだ。

でもじゃあなんでフォラウスは……、再生している!?



(ワタクシ)は黒煙の悪魔フォラウス……貴方様を初めて目にした時から、私の魂は、心は全て貴方様のモノ!!!」



 血液のように真っ赤な瞳が、彼女の海のように青い瞳と交差する。

 アイオニオスには理解不可能な、愛、愛、愛。

 その演技的な魅惑の声が彼女の精神を翻弄する。



「どういう意味……だ」


「ええ、ええ!!! 貴方様の魂が!! 身体が!! 消滅するその時まで!! 私が本当の意味で死亡することはないのですッ…………!!!」



 僅かな動揺。普段の彼女なら流すことのできる、生命体に害を与えるフォラウスの異質な魔力が、アイオニオスの脳を揺らす。恐怖と混乱。

 彼の生み出す霧が、アイオニオスの体を包み込んでいく。彼女の底の見えない魔力も少しずつ奪われているようで、金縛りのように身動きが取れない。


───この煙、精神異常の効果が付与されている。抵抗しないと………抗わない、と………抗、え………。





「────アオさんッッ!!」




「やめて!!」

「待てこのクソ野郎!!」

「止まりやがれ、悪魔!!」



 アイオニオスの意識が黒へと混濁しかけた時、つんざくような叫び声と共に首根っこが掴まれて我に返る。



「うっ……!!!!」



 彼女をフォラウスの手から遠ざけたのは────、

千草、神月、鈴能、市川の4人。

 他3人が飛び出していくのを見た神月が、個人魔法《空想者》にて咄嗟に四本の箒を創り出す。


 そうして箒の上に立った4人が、アイオニオスの背後に並んだ。

 フォラウスの目に当てられ、焦点の合わない瞳で振り返るアイオニオスは驚きながら呟く。



「みん………な??」


「いつも邪魔ばかり………!!! 何の用だァ!?」





「「助けに、来た」」





 声を揃えてフォラウスに言い放つと、彼は、はァ!? と素頓狂な声で眉を上げた。

 馬鹿馬鹿しいとでもいうように笑いを堪える。


「助け、ねェ?? んふふふふ!! そんなもの、最強であるアイオニオス様が、求めるはずがないではないでしょう!? そう、この御方は、人間界を統べるに相応しい、偉大な御方なのですから!!!!!」



「んー、その事なんだけど」



 現実に引き戻されて冷静になったアイオニオスは、フォラウスの目を見据えた。

 先程のように取り乱す事もなく、ただ淡々とした様子で口を開く。



「私は、最初から支配なんてするつもりはないよ。ましてや一般人を殺戮する趣味もない。旧魔王の意思を知りたくて、この方法を取っただけだ………。

それも、もう今日で終わりにするつもりだけどね」




「………な、な、何を仰るのです!? 勿体無い!! そのような御力を持っているというのに………!!!」




 あからさまにオロオロと動揺し始め、涙のようなものを浮かべるフォラウス。

 アイオニオスは思考を巡らせる。




───コイツを殺すには私自身も死ぬしかないけれど………心中なんて論外。二度とこの世界に干渉させないようにするには。




 魔王としての威厳。

 冷ややかで無感情な笑みを浮かべ目を細めた。



「君自身が何かする必要はない。できないと言うなら……今直ぐここを去るか、私に完全服従するか……」



 有無を言わせない口調。

 アイオニオスは残りの魔力を全て解放し威圧する。





「選べ」





 そう一言。フォラウスに命じた。

 すぐ側にいる4人は勿論、遠く離れた植田達にも、地上に残る人々にも殺気が伝わっていく。



「何あれ………人!?」

「何なんだよ!? この圧は!!!」


 重力が更に圧縮され、その地だけが死と隣り合わせの地獄へ変わった。足元の瓦礫はその魔力で押し潰されて粘土のように変形する。








 1人の少女が、この国の命運を握った瞬間だった。







 もはやフォラウスに拒否権など存在しない。

 彼の笑っていた口元が、ピクリと痙攣し、頬の筋肉が引き攣り、狂気を宿した目が恐怖で血走る。


 それでも心の底から溢れる歓喜が彼の体を動かした。



「その、御力……」



 声は嗚咽のように震え、誇り高き黒煙の悪魔は初めて言葉を詰まらせた。フォラウスは宙に膝を落とし、三叉槍を握りしめた手をゆっくりと緩めた。



「……分かりました、アイオニオス様……」



 掠れた声。しかし確実に、降伏した意志が込められていた。

 忠誠を誓ってきた彼だが、今までと違うのは彼女の手助けではなく、完全な奴隷であるという点。






「全てを……貴方様に。異論はございません……!!」






 黒煙が揺らめき、霧散する。全身から力が抜け落ち、存在が消えたかのように静まり返った。


 もう抵抗してくる事はない。そう確信したアイオニオスは刀を杖へと戻して腕を降ろした。

 威圧は抑えるものの、彼を向いて最後に告げた。




「二度と、この世界を脅かすな」




 フォラウスは沈黙を守ったままに頭を深く垂れる事でその意思を表明すると共に、黒煙の悪魔としての矜持を手放した。






 音声こそは聞こえないが、一部始終は国防軍内の映像に残される。

 後にこの出来事は、世界の、日本の一片を変えた大事件として記録されるだろう────。






*****






 場所は移り変わり、天界。





「まさか我が末裔の自我が戻るとは想定外。そして此度の人間界の騒動も、だ」



 冷然と語るのは、一際巨大な羽を持つ者。

 陽炎のように煌めく小さな光の粒子が、神聖な()となってその美貌の頭上に浮かび、また燦然と輝いている。光を映す金の瞳はどこか機械的で温度が無い。

 この世界は永遠の白。つまり、無色。

 その内情は、そう美しいものではなかった。




 差別、争い、迫害。それは何処も変わらない。




 しかし、現在の天界で最高の地位を得るその者、三位神ゼウスの息子─── 神王アポロン は、魔可神、死神、天使族の全ての神族を例外なく自身に仕えさせた。その偉業は、不可能に等しい。



「生まれながらに闇に囚われた神族、

魔可神Αίώνιος(アイオニオス)。我に迫る地位と力を持ちながらも、自ら捨てた愚かな堕神────」




 一度空白を置き、言葉を紡ぐ。






「あの“破滅の少女“を野放しにはできない」






「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」

「叛逆者を赦すな」 ーーーーー




 一才の乱れなく整列する神族が口を動かし続ける。

 幾重に反芻される言葉を、制止する事はない。



 神王アポロンは、彼らを残して消え失せる。

 唯一残ったものは、宙に散った羽一枚のみだった。



次回。第四章 破滅の少女編 完結。

第五章への転換点となります。お楽しみに!!


先にもう一方の連載作品

『天才×転生 〜コミュ力皆無の不老不死は普通を目指す〜』を更新する予定。


もし面白いと感じて頂けたら感想、評価ブクマ(^^)

リアクションだけでも、とても光栄です!!


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― 新着の感想 ―
アオが何者なのか、からの魔王アイオニオスの衝撃が半端なかったです!王道らしさもあり、アオが謎めいていて、最強で爽快感あり、面白かったです。
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