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謎解きは東雲舞にお任せを  作者: 雨宮 徹


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3/3

深海より深い校内ミステリー③

「ねえ、東雲さん」


「呼び捨てで構わないわ。私も真呼びなんだから」


 今朝知り合ったばかりの人を呼び捨てにするのは抵抗がある。しかし、距離を縮めるには最適かもしれない。


「じゃあ、遠慮なく。東雲、深海生物のポスター、一枚じゃないみたいだよ」


 僕の視線の先には、例のポスターが掲示板に貼られていた。不気味なチョウチンアンコウが、謎を深めている。


「あら、いまさら気づいたの? 付け加えると、必ず隣には写真部のポスターが貼られてる」


「ちょっと傷つくな。写真部のポスターをよく見ると思ったら、それが原因か」


「行き先変更よ。写真部に行きましょう。謎の鍵を握ってるかもしれないから」


「写真部が……?」


「ええ。もう少し正確に言うと、推理が合っているか確認のためよ」





「ここが、写真部の部室……のはずだけど」


 そこは、校舎の片隅でお世辞にもきれいとは言いがたい。


「先生に聞いたんだから間違いないわ。自信を持ちなさい。それじゃ、良質なミステリーは書けないわよ。トリックに自信がなくちゃ、読者も不安になるわ」


 そうかもしれない。「ミステリー作家になりたい」という想いが強いことに自負はあるけれど、トリックには自信がない。東雲の推理ショーを見て、「これぞ、探偵のあるべき姿」というのを学ばせてもらおうか。


 ガラッと音をたててドアを開くと、ひょろりと背の高い男子生徒がいた。おそらく写真部の部長だろう。部屋の状態から考えるに部員は一人に違いない。机は一つだけ。それだけではない。部屋に飾られた写真の構図はどれも似ている。同一人物が撮ったからだろう。


「も、もしかして、入部希望者かい?」


 部長の目は輝いているが「謎の調査のため」と言うと、「ああ、あれね」と落胆した。


「結論から言うわ。『深海生物観察部』のポスターをでっちあげたのは、あなたね」


 え、この部長が犯人?


「東雲、待ってくれ。いきなり結論を言われても……」


「あら、悪いかしら。ホームズだって先に結論から言うでしょ? 彼も言ってるじゃない。推理をすっ飛ばして答えだけ言えば、まるで手品のように見えて周りが驚くって」


 そんなセリフがあった気がする。それに、東雲の指摘に驚いたのは事実だ。


「まず、ポスターのチョウチンアンコウだけど、輪郭がブレてたのは覚えてるわよね?」


「もちろん。忘れるほど鳥頭じゃないさ」


 東雲は「よかったわ」と一言。もしかして、バカにされてるのか?


「あれは、写真を上からなぞったからよ。トレーシングペーパーを使って。二つ目。必ず写真部のポスターが隣にあった。真はどういう印象を持ったかしら?」


「印象というか、写真部をよく見るなくらいだけど」


「そう、それがこの事件を解く鍵よ。不思議なポスターと写真部のポスターはセット。つまり、アンコウのポスターで目を引いて、写真部の印象を強くしようとしたのよ」


「黙って聞いてれば、言いたい放題言いやがって!」


 さすがに、部長も頭にきたらしい。だが、東雲の推理ショーは止まらない。


「そして、最後。私たちが例のポスターの話をしたら『ああ、あれね』って言ったわ。他の生徒は不思議がるのに当事者は違う。それは、自分であちこちに貼ったからよ。それも、すべては写真部存続のため。一人じゃ部活として成立しないもの」


 部長は「そこまでお見通しか」とため息をつく。


「勝手にポスターを貼るのはいただけないわね。うちの校則じゃ、禁止されてるわ。それに、不思議なポスターで気を引くなんて、まるでチョウチンアンコウじゃない。獲物を引き寄せるために、擬似餌を使うみたいだわ」


「ちょっと、東雲。言い過ぎだよ!」


「事実を言ったまでよ。でもね、それだけ必死なのは写真を愛しているから。何かに一途なのは素敵なこと。それなら、正攻法を使うべきよ。写真への愛をぶつけるのが一番。違うかしら?」


「……確かに、君の言うとおりかもしれない。でも、たった一人でやれることは限られてるんだ」


「そうかもね。私の記憶が正しければ、部員が三人以上の部活は体育館で部活アピールの時間がもらえるはずよ。そして、そのイベントは明日」


「おいおい、東雲。そりゃ無茶苦茶だよ。今から二人集めるなんて。いや、もしかして……」


「そう、ここには三人いるわ。私たちが一日だけ入部する。明日のイベントで彼が写真部の魅力を伝えるには十分でしょ? 入部希望者が来るかは、彼次第」


「ほ、本当かい」


「ええ、もちろんよ。さあ、準備をするのよ。あくまで私たちは幽霊部員なんだから」


 部長は鼻歌を歌いながら隣の部屋に消えていく。


「東雲は探偵の素質があるよ。いや、名探偵だ。それだけじゃない。問題を根本から解決するなんて、普通じゃできないよ」


「そうかしら。私は不気味なポスターを見たくないから、この手段をとっただけよ。真は買い被りすぎよ」


 東雲は、ロングの黒髪を耳にかけながら否定する。顔は夕暮れに照らされている。だが、僕は見た。彼女の耳が赤くなるのを。

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