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01 聖なる都と森の珍獣

自分が前から掲載してる方が暗くなっていくので、こっちは明るめに書きたいです。

明るいというかはっちゃけた気もしますが……

 空から降る光が木漏れ日となって森の植物へと栄養を伝える。適度に暖かく、この辺りの動植物は青々と茂らせているものばかりだった。

 穏やかな風が葉を、花を揺らして様々な音を奏でる中、年の頃15、6程度の少女が傍らにいる同じ年位の少年に目を輝かせながら声をかけた。


「エスト!見て見て!凄いよ!」


「……カリン、アレは何だ?」


 カリンと呼ばれた黄緑の髪の少女がぴょんぴょんと飛び跳ねる傍らで、エストは呆気にとられていた。

 普段はあまり喋らない彼も、目の前のモノには思わずといった具合に口を開く。

 一方、彼の分も喋っていると思える程口が回るカリンが、可愛らしく小首を傾げた。少々幼い所があるためか、彼女のそういった行動は愛らしい所が多々ある。


「何って、パンダだよ?知らない?可愛いって有名なんだ!しかもこのパンダ、なんとレベルが45!この辺の動物で一番強いよ!」


「……いや、知ってるが……可愛いか?そしてレベルがある時点で動物じゃないだろ」


 キョトンとするカリンにエストが眉を寄せて質問する。明らかに、彼にしては珍しくも渋い顔をしているのに気付いてか気付いていないのか、笑顔で大きく首を振った。


「うん!‘登って’見たい!」


「……そうか」


 キラキラとカリンが金の目を輝かせる一方、妙に歯切れの悪いエストに今度は困ったように眉を下げた。動物じゃない、という台詞は完全に聞いていなかったらしい。


「さっきからエスト、どうしたの?……もしかしてエスト、パンダ嫌い?」


 先ほどからまるでゲテモノを見るかのようにパンダを観察し続けるエストに、カリンは心配そうな口調で疑問を返す。


「……嫌い、では無いんだが……」


「だが?って何か問題ある?」


「ありまくりだろ」


 即答したエストに訳が分からないというようにカリンは唇を尖らせる。拗ねた様子を見せた相棒にエストはやれやれと首を振った。


「なんでー?パンダって、白黒のクマの事でしょ?」


「……もしかしてお前、本物見た事無いのか?」


 何やら頓珍漢な事をのたまってくれたカリンに、脳裏を巡った疑問を口に出してみた。

 因みにパンダとはアライグマ科で、一応はクマ科という事になっているから間違いではない。が、目の前のアレは決してパンダと同一にしてはいけない見た目だ。


「……?うん。だって教会にパンダはいなかったし」


 教会にパンダが居る訳ないだろう、いたら動物園としてやっていけるだろ、と内心突っ込んだものの、口に出しても理解されない事は今までの付き合いで良く分かっていたのであくまで思うだけにしておいた。


「……成程……?いや、それで解決する事か?」


 明らかに10人中10人(カリンのような一部例外は覗いて)がおかしいと理解するであろう目前のソレに、エストはただただ首を傾げた。


「だから問題って何なの!!どこにいちゃもんつけてるの!?」


「どこにって……明らかにおかしいだろ」


 微妙に疲れているのがありありと見える口調に、カリンは考えるそぶりを見せた。


「おかしい……?って、あ!」


 首を傾げて直ぐにポンと手を叩いたカリンにエストは、漸く、という副詞を飲み込んでホッと息を吐き出した。少々ずれている所がある彼女でも、流石に分かったか。と安堵するものの、直ぐに気付かない時点で矢張りどこかがおかしい。


「気付いたか?明らかにおかしいと」


 薄く微笑を浮かべて尋ねたエストに、カリンは子供が両親に自慢するように大きく頷いた。


「きっと、白い所と黒い所が逆なんだ!」


「……………………………………………」


 自分が思ってもいなかった返答に、エストはずり落ちたマントを上に引っ張り上げつつ、微笑を引っ込めて再び無表情になる。ああ、結局コイツはずれていたのか、と再認識した。

 目の前のパンダはちゃんと耳、目の周り、後肢前肢が黒くなっている。


「いや……そこに関してはあってると思うぞ……細部まで覚えている訳でもないし、オレも良くは知らんが」


 引き攣った顔になった自らの相棒に、カリンはえー!?と(何故か)驚愕の声を上げた。目を丸くして心の底から驚いている様子の彼女に、思わず疲れた溜息をついたのは致し方ない事だろう。


「違うのー?じゃあ何?」


 可愛らしく小首を傾げた相棒へ、本日何度目か分からない溜息を吐き出しつつ正答を言ってやることにした。唯でさえ薄い色素の青い髪が更に白くなったような気がする。


「……サイズだ」


「へ?」


 頭痛を覚え、こめかみを押さえながらも放置することなく律儀に答えてやると、抜けたような返事が返ってくる。


「おかしいだろ。あの大きさ」


 エストが‘見上げる’前には、ビルにしてゆうに10階分はあるようなジャイアントパンダが寝そべっていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 どれ位歩いただろうか。飽きるほどの緑の中を漸く通り過ぎれば、そこは全くの別世界が広がっていた。


「うわー、やっと帰ってこれたー」


 流石に疲れたのか最近は口数が減っていたカリンが、嬉しそうに声をあげた。それに同意するようにエストも頷く。


「彼此3か月も帰れなかったからな……【聖都】には」


 ふと表情を緩めたエストが見る先には、中世ヨーロッパ調の建物がずらりと並んだ町が見えていた。

 今いる高い位置から見れば分かる、六角形の形をした城壁。その中心には荘厳で巨大な城。六角形のそれぞれの角の部分にある、6つの建物。そして中心部へと集うように形成された大きな道と小さな商店。

 ここでしか見る事の出来ないその特殊な風景に、二人とも息を吐き出した。久しぶりに、帰ってきたのだ。


「エスト!早く【教会】に帰ろう!」


 満面の笑顔で振り返ったカリンに、エストは無言で歩を進めることで示した。


 森の出口から坂を下りれば、六角形の辺の一つに辿り着く。中心にある関所を見るとカリンは、少し速まった足を更に速くし、そこに向かって駆け出す。


「エスト早く早くッ!」


 その行動は予想がついていたのだろう。言われるまでも無く、エストはカリンの元へ足を速める。

 一方関所に立っていた関所番の騎士達は駆けてくる少女を微笑ましそうに見た。が、一応は仕事なので、彼女が門の前へ来た所で止める。


「先に通行証を見せて頂きたい」


 騎士の一人がそう言った所で漸くエストはカリンに追いついた。目をパチパチと瞬かせるカリンの横に立つと、カリンから尋ねられた。


「通行証なんて、前から必要だったっけ?」


「……そろそろ、神殿が【儀式】を始める頃合いだ。それで警備が厳しくなっているのだろう」


 そう答えると、そっかー、もうそんな時期だったねーとしみじみとした口調で頷いたカリン。


「その通りだ。すまないが、持っていないと通せない事になっているんだが……」


 カリンが知らなかった事で、持っていないと思ったのだろう。困ったように伝える騎士にエストは少し考える素振りを見せてから、ベルトにぶら下げていた銀製の六角形の板を出す。それを見たカリンも、ああと呟いて同じもの―――といっても彫られている物が微妙に違うが―――を胸ポケットから取り出した。


「オレらは教会―――【黒の神殿】所属の【魔導士】だ。通行証では無いが、入るのにはこれで大丈夫か?」


 そう言って見せた銀のソレに、その場に居た騎士全員がギョッと目を剥いた。まさかそんなモノをお目に掛かれるとは。


「く、黒所属で銀の【六芒板(オーツ)】を持つ【魔導士】!?ということはLv50以上の……!?そんな高位魔導士が―――いや、入都を許可します!」


 多少取り乱しながらもそう一人が言うと、それに続く様に全員が敬礼で迎える。それを直ぐ後ろにいた商人がギョッとした目で見ていたが、そんな事はお構いなしだ。それに無表情で溜息をつきつつも、エストとカリンは懐かしい聖都へと足を踏み入れた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 この聖都、【アッシュグロリア】にある教会―――正式には【神殿】―――はそれぞれの任務に合わせ、6つに分けられている。つまり、宗教自体は一つなのだ。母なる女神を信仰し、女神が残した言葉のままに世界への毒、邪神が生み出す【原罪の霧(ディザスター・エア)】の浄化を行い、女神の子供である人の心が邪神の元へ行かぬよう癒し、保護し、諭す。そしてその6つの神殿の役割は、下のように分かれていた。


 炎で人々に巣くった【原罪の霧(ディザスター・エア)】の浄化を担う、【赤の神殿】。

 水で争いの跡を流し、人々を癒す、【青の神殿】。

 地を豊かにし、人々が平穏に暮らせる環境を作ろうとしている、【黄の神殿】。

 風を使い世界に蔓延る【原罪の霧(ディザスター・エア)】の情報を収集する、【緑の神殿】。

 闇を司る、【原罪の霧(ディザスター・エア)】が生物の形を取った邪鬼を滅する、【黒の神殿】。

 そしてそれらを統括する、光を司る、【白の神殿】。


 その中でも後者二つは別格とされ、ある一定以上―――正確に言えば、レベルが50以上の神官、または実力者しか所属する事が許されない。例外は余程レアな【スキル】か【称号】を持つ者だけだ。それ故、先程の騎士達のように上の者として扱われるのがこの世界での常識だ。

 が、それが、エストとカリンは大嫌いだった。


「なんで特別扱いされなきゃいけないのよー」


「……まぁ、それには同意する。ああいう扱いはどうも慣れない」


 ムッとした顔で進む二人は、極一般的な冒険者の成りをしているため、こうして街中を歩く分には黒所属だということはバレない。お陰でこうして普通に生活できているが、これが神官だとそうもいかない。神官の官服は白を基調とし、それぞれが所属する神殿の色が所々に刺繍してある物で、一発で分かってしまう。エストが黒に入る時に神官を選ばず、あちこちに飛ばされる魔導士を選んだ理由もそれが一つだった。


「だよねぇ。私達みたいなのにいちいち敬意払ってたら限ないよ」


 正直、黒と白の所属は大変少ない為限が無いどころが、一生に一度見るか見ないかでもおかしくないのだがその事には黙っていることにした。


 そうしているうちに、関所から見て右奥にある【黒の神殿】が見えてくる。それはここでは、商店街に差し掛かったということでもあり、人で溢れ返っていた。


「今日はリファの実が安いよー!」


「そこの冒険者さん!いい短剣が入ったんだ!いかがかな?」


「珍しい魔道具はどうだい?今なら割引するよー!」


 相変わらずの活気に、エストは内心微かに苦笑し、カリンは懐かしさに目を輝かせる。実際ここから離れていたのは3月程なのだが、それでも見知った土地を長く離れていたと感じるのは仕方が無い。


「やっぱり聖都は質が違うよねー。任務先の町じゃ高くて悪いものばっかだったし」


「まぁ、皇帝陛下の御膝元でそんな真似は出来んだろう。いつお忍びで来るのかも分からんのに……」


 そう言ってから、エストはふと先の方に見慣れた服を着た男が歩いているのを発見した。それに引き攣った顔をすると、同じく気付いたらしいカリンが嬉しそうに声を上げた。興味はそちらへと完全に移ったらしい。


「あれ、ラジェット司祭!?うわー、なんか久しぶりだー!」


 そう言ってから小柄な体を最大限に利用してスイスイと人ごみの中進んでいく姿に、エストは一瞬ギョッとし、舌打ちをする。体格が小さい分、昔からこの人ごみの中歩くと潰されてしまうという事が間々あったのだ。


「おい、待て!カリン!」


 急いでそちらに向かうが、だんだんと青年に近くなってきている体では中々先へ進めない。それに更に焦れば、案の定カリンの潰れたような声が聞こえた。


「ムギュッ!?」


 それにあーあ、と言わんばかりにある種の諦めの心境に陥り、目の前のおっちゃんを押しのけて進むと、丁度カリンが見える位置に来た。しかもそれだけではなく、そのすぐ横でカリンをふわりと抱え込む神官が一人。


「全く、相変わらずですね、カリンさん」


 そう言ってくすりと笑う黒の官服を着た神官に、カリンは満面の笑みを浮かべ、エストはげっそりした疲れを浮かべる。


「ただいま!ラジェット司祭!」


「はい、お帰りなさい。それとエスト君も」


 にこやかに笑いかけた20代後半の神官は、くしゃくしゃとカリンの頭を撫でながらエストの方へも帰還の挨拶をする。道のど真ん中で立ち止まっている為、周りの人々は一瞬迷惑そうに見るが、ラジェットの恰好を見ると目を剥いてそそくさと立ち去っていく。


「……ああ、今帰った。それより、取り敢えずここでは邪魔になる。教会に帰ってもいいか?」


 横目で立ち去る人々を見ながら提案すると、ラジェットはそうですね、と同意し、何故かカリンを抱えたまま来た道を戻っていく。それに内心で何のためにわざわざ商店街まで来たのか、と激しく突っ込みたくなるが、今までの付き合いで理解されないことはこちらも矢張り重々承知していた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そこは、一言で言えば圧巻だった。神殿と呼ぶにふさわしい、白い神聖な建物。(ゲート)を潜ると見えてくる神殿前の台座には、黒水晶を抱えた女神像。噴水の周りには参拝者が集い、少ない神官たちは子供達の面倒を見ていたり、花壇に水を遣っていたりと実に落ち着いた雰囲気を醸し出す。……表面上は。


「……おい」


 そんな長閑な風景を一瞥して、エストは眉間に皺を寄せる。目でどういう事だと尋ねれば、主語が無いその質問を的確に理解してラジェットは答える。


「察しの通り、エスト君やカリンさんのような高位魔導士は全て任務で出払ってしまっています。今は急な任務が無いから良かったものの、これで被害届が出たらどうしようかと本気で考えてましたよ」


 つまり、邪鬼退治で戦闘要員は誰もいないという事らしい。この調子では、休む暇なく自分たちもまた任務に遣わされそうだと盛大にエストは溜息をついた。


「んー、大丈夫?エスト、さっきからしょっちゅう溜息ついてるよ?」


 漸くラジェットから降りたカリンが、心配そうにエストを覗き込む。原因は粗すべてお前だ、という言葉を飲み込んでから、エストはくしゃくしゃとカリンの頭を撫でた。……尤も、目が据わっていたのは直せなかったが。


「……まぁ、少し疲れたが大丈夫だ。それよりラジェット、これからオレ等はどうすればいい?」


 言外に疲れたから任務を回して欲しくない、と伝えるとその様子で分かってしまったのだろう。苦笑してラジェットは安心するように伝えた。


「今のところは、待機でいいですよ。唯、もうそろそろ【浄化の儀式】が近づいている位に、【邪鬼】が活発化してきていますから、いつまで休めるかはちょっと保障しかねますが」


 予想通りの答えに、無表情を崩さずにこくりと一つ頷く。浄化の儀式をしなければいけない程、かなり【原罪の霧(ディザスター・エア)】は濃くなってしまっているのだ。【邪鬼】が活発化しているのも無理はない。


「じゃあ、あんまりここから離れない方がいいんだ」


「ええ、お願いします」


 つまらなさそうに口を尖らせたカリンに済まなさそうに頭を下げるラジェット。こうして見ている分には正に神官の鏡、という態度のラジェットだが、エストは彼がここで一番神官らしくない―――というか、神官の規則を破る型破りな神官だという事をよく知ってしまっていた。


「……では、取り敢えず今回の任務報告だ」


 そう前置きしてからバサッと背に背負っていたカバンから分厚い紙の束を取り出す。ゆうに1センチは超えるであろうその膨大な量に驚く事も無く、ラジェットは受け取った。


「はい、これは私が上に提出しておきます」


 確かに詳細まで書いてある事をパラパラと捲って確かめてから頷いたラジェットに、今日は珍しく喋ったな、と自分で思いつつももう一つの報告すべきものについて伝えた。


「それと、アイテルの森で何故か突然変異型の【邪鬼】が発生していた。数は一体だけだ」


 アイテルの森といえば、この聖都の真上にある森だ。そんな近場で邪鬼が出ていたという事実にラジェットは目を剥く。


「……なんですって?どんなのでした?」


 真剣な顔で問いただすラジェットに、今まで沈黙していたカリンが(基本的にカリンが報告すると要領を得なくなるためその際には黙っている事が多い)目を輝かせて口を出す。


「あのね、スッゴク可愛かったの!」


「可愛い……?幼子を騙すためにそんな形状にでもなったという事ですか……?」


 被害が出ていないかと眉を顰めるラジェットに、エストは遠い目をして手を横にブンブンと振り続ける。アレに引き寄せられる子供何ぞ、多分カリン以外にいない。


「……エスト君は否定してますが……」


 この二人の感性が合わない事はよくある事だが、あくまでも(肉体的には)年頃の少女であるカリンが妙な物を可愛いと言うとも思えない。一体どういう事かと更に悩むと、エストの口から報告がきた。


「……絶対に子供はアレには騙されんから安心しろ。たとえ可愛いと感じても、あれじゃあ近づきにくい」


 絶対的に言い切ったエストに、更に混乱するラジェット。それを更に混乱させるように、カリンはムッとした顔でエストに言い寄る。


「何でよー!可愛いじゃんパンダ!」


「パ、パンダ?」


 パンダの形をした邪鬼が聖都近くで発生して可愛いけれど可愛くない?

 まさに大混乱の様子を見せるラジェットに、エストは最終的な報告をした。


「つまりは、見た目は『た●ぱんだ』みたいな邪鬼が森の中央位で寝そべってたんだ。ただしサイズはざっとこの神殿の10階分」


 『たれ●んだ』なるものが何かは分からなかったが、恐らくたれているパンダなんだろうと(そのまんま)予想し、それの大きさを考えてから違う意味でぞっとした。ナニそれ、怖い。


「……確かに、そんなのには近づきたくないですねぇ……」


「えー!ラジェット司祭は見てないからそう思うんだよー!絶対本物見れば可愛いってー!」


 不満そうなカリンに二人は同時に思う。絶対本物見ても意見は変わらん。


「……で、浄化は?」


 幾らカリンが気に入っていても、邪鬼は邪鬼。放ってはいないだろうと分かっていつつも怖い考えが脳裏をよぎる。

 それを理解してか、ふいと顔を逸らしながらもエストは浄化は終了した旨を伝えた。


「……安心しろ。カリンは心底嫌がっていたが、ちゃんと浄化はした……浄化は」


 何やら含みのある物言いに、ラジェットの背には冷や汗が流れ落ちる。つまり、なにがあった?


「……どういう事で?」


「……どうやら、【原罪の霧(ディザスター・エア)】がパンダに憑いていたらしくてな……そのパンダは、もともとその大きさだったらしく……」


 歯切れの悪い口調で言葉を止めるエストが、恐らく続けるであろう言葉が予測出来てしまい、ラジェットは顔色を更に悪くさせる。


「……今も尚、森ででろんと寝そべっている、と……?」


 何それ、マジで怖い。そんな神官らしくない表現を使っても、事実は変わらない。恐らく、そんな近場ではそろそろ―――


「た、大変ですラジェット司祭!森に巨大なパンダが出たという報告が……!恐らく、新種の【邪鬼】かと―――!」


 そう叫んで階段を駆け上ってくる緑の神殿の者を横目に、ラジェットは気が遠くなった。

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