幕間・邪竜と幻竜が去った後
「竜姫候補カロリーナを、どう致しますか?」
今回、マキナの発言は数多の貴族がいる前だった。
つまり、竜姫候補カロリーナが竜姫に相応しくないと考える者もいるだろう。
大神官カリオスは、神官長タリオの質問に神妙な面持ちをしながら頷いた。
「……ふむ。遠からず、彼女は竜姫候補から外されるだろうな。しかし、この前の殺戮事件が心的障害になっているらしい。肉体の傷はないが、子を産めない石女になったのも……その一因だろう」
「…………あぁ、あの一件ですか……。心の傷を負うのも当然のことでしょう。なんせ、沢山の貴族子息令嬢が、天に旅立つこととなりましたからな」
今日の祈祷にはあの事件で大切な人、家族、友人などを失った貴族達が参加していた。
生き残った者達も少なからず、カロリーナと同じように心的外傷を負っているようだ。
それも当然だろう。
聞いた話では……事件現場はまさに地獄のようであった──……との、ことだったのだから。
血に染まった床や壁。
全てを絞り出されたように枯れた人間だったモノ。
そんなモノがゴロゴロと転がる、平和であった学び屋。
そんな場面に直面してしまえば。まだ大人になり切れていない、感性が豊かな少年少女が心的外傷を負うのも、仕方のない話だ。
暫くは、カロリーナも生き残った者達も養生が必要だった。
「流石に、養生が必要な娘を追い出すことはできん。ひとまず、彼女のことは置いておこう」
「畏まりました」
「神官エルムを、執務室に呼んでくれ」
「はい」
大神官カリオスは、マキナの与えた試練をエルムに告げるために……自分の執務室に向かった。




