表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/152

やだ、この子タチ悪いわ…

「私、私は…」


 伊集院は答えない。

 いや、答えられないと言ったほうが正しいか。

 自身のアイデンティティーといえるものを、過去の自分の行動によって否定されようとしているんだからな。

 それは誰のせいにも出来ないものだ。言い訳をさせるつもりはない。

 したところで、俺がその矛盾を突きつける。どう足掻こうとも、最終的に伊集院には受け入れる以外の道は存在しない。


「私、は。私は…」


 だから認めろ、伊集院。

 自分のやろうとしたことの浅はかさを。いかに短絡的な行動を取ろうとしたのかを。

 それを理解すれば、お前は先に進むことが出来るのだから。


「―――悪かったな、伊集院」


 そのために、俺は少しだけ手助けをしてやることにした。


「え…………」


「ちょっと言い過ぎたわ。なんかみんなの前で、責めるみたいになっちまったよな。そんなつもりはなかったんだ」


 そう言って頭を下げる。


「答えづらいことを聞いちまったよな。お前はわざわざアイツ等のために転校までしてきたんだから。ダメンズへの情熱は本物なのに、疑うようなこと言って本当に悪かったよ。素直に謝るわ、ごめんな伊集院」


「い、いえ、そんなことは」


「だからさ―――」


 少しだけホッとする様子を見せた伊集院に、俺は穏やかに微笑むと、


「この一億、俺は受け取るよ。伊集院」


 諦めたように、そう言った。


「―――――え?」


「こう言っちゃなんだけど…伊集院財閥みたいなデカイ組織相手に歯向かうとか、俺怖いんだ。俺なんてただの小市民だし、伊集院のところに逆らう力や手段なんてないからな…」


 目を伏せて、自嘲するようにそう呟く。

 伊集院はなにを言われたかわかってないようだが、それでいい。

 ここから、嫌がおうにも理解することになる。いや、させる。


「この一億は、伊集院なりの慈悲だったんだろ?手切れ金を渡すから、大人しく引き下がれって、そう言うことなんだろ?そうじゃなければ…いや、言う必要なんてない、か。分かってるよ、俺はお前に従う。そうすれば、なにもしてこない。そういうことで、いいんだよな?」


「え、い、いいえ。そんな、私、そんな…!」


 俺が言外になにを含ませているのかを理解した伊集院は、否定してくるが、もう遅い。


「いいって。わかってるから。俺はお前に逆らうつもりなんてないからさ。だから、この金を貰って、大人しく引き下がる…だけどさ、これだけは約束してくれ」


 周囲の視線には、俺に対する同情が含まれ始めている。

 そのことを感じながら、俺は続ける。


「アイツ等のこと、大切にしてやってくれ。俺は確かに金こそ受け取っていたけど―それでもあのふたりは、俺にとって、本当に大切な存在だったんだ」


「――――!」


「それとさ。ふたりから離れることを俺は受け入れるけど…さすがに、説明自体は必要だろ?だから悪いけど、その理由は言わせてもらう」


 大きく目を見開く伊集院に、俺は意識して諦めた笑顔を向けた。


「伊集院に言われて、お前たちと離れないといけなくなったってさ。一億を渡されて離れるように言われたことも。あぁ、ふたりがそれぞれ5千万円の価値を伊集院に付けられたことも、言わないとダメだよ、な…」


「え、あ…!」


「仕方ないだろ?だって、そうしないと、ふたりだって納得してくれないだろうからさ。説明はどうしたって必要だ。その後ふたりが、伊集院のことをどう思うかは、俺のあずかり知らぬとこだけど…そこはまぁ、頑張ってくれ。ただ…」


 言葉を区切る。


「俺ならそんな値段で無理矢理幼馴染から引き剥がされて、今後ソイツに従わないといけないって分かったなら…絶対ソイツのこと、許さないだろうけどな」


 内心口元がニヤけそうになるのを、抑えながら、俺は告げた。


「ぁ…………!」


「ああ、あと言い忘れてたけど、アイツ等は俺を養ってくれるためにアイドルやってたんだ。俺から引き剥がされたら、もうアイドル続ける理由もないかもしれんが、そこはファンクラブナンバー一桁の意地を見せて、なんとか説得してくれ。ファンのために歌ってもらうように…って、そういや、そのファンから歌う理由なくされるのか。ま、そこはお前の頑張り次第だろうな」


 伊集院の知らない情報を織り交ぜて、話を続ける。


「そ、そんな…」


「え、伊集院さんが原因で、ふたりともアイドル辞めちゃうってこと…?」


「お、おい!なにしてくれてんだよ伊集院!」


 ざわめく教室。この場に置いて、もはや俺を責めるようなやつはいない。

 ダメンズのファンが特にこのクラスには多かったからな。全ての敵意は、伊集院へと向けられている。


「ま、コイツ等の説得も、お前のやるべきことだ。頑張れよ、伊集院。この金を受け取ったら、俺にはもう関係ないことだ」


 そう言って、俺はアタッシュケースへと手を伸ばす。


 ―――さぁ、どうする伊集院?ここが最後のチャンスだぜ?



こうやって追い詰めればいいんですね、わかります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] イケメン+ヒモ+詐欺師+クズの無敵の人やん。 [一言] こういうクズ主人公マジで好きだわ
[一言] え、これジャンルが現実世界(恋愛)って本当ですか?w っかしいなぁ、ライアーゲームとかなんかその辺金が絡むドロッとしたモノにしか見えんくなった
[一言] ラブコメを読んでた筈なのにカイジを読んでる様な気がして来た
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ